第136話 チーム莉子、南雲監察官室へ行く 探索員協会本部
10月もちょうど折り返し地点を過ぎた今日。
本日は土曜日。
ならば、家で夕方まで寝て過ごすのが六駆とクララと芽衣のジャスティス。
ヤダ、このパーティー引きこもり多すぎ!?
だが、珍しく朝の10時にメンバーが日須美ダンジョンの前に集合していた。
「ねえ、莉子さんや。僕も行かないとダメなの? 僕行かなくても良くない? 僕多分行かなくて済むと思うんだ」
「もぉ! 何パターンにも分けて同じ事言わないで!! おじさんは聞き分けが悪いんだから!! 嫌い……じゃないけど、わたしが直してあげなくっちゃだよ!!」
莉子さんが相変わらず手遅れで、なんだか安心させられる。
「芽衣は行かなくても良いと思うです。だって、芽衣は用がないです。皆さん、芽衣の事は気にせず、先に行ってくださいです」
「にゃははー。芽衣ちゃんも師匠にそっくりになってきたねぇー。莉子ちゃん的にはどうなの、これ?」
「ふぇ? あ、なんだか娘ができたみたいで嬉しいなって!」
「既に夫婦目線だったかー。もはや莉子ちゃんのメンタルは鉄壁ですにゃー」
ついでに胸も鉄壁だとか不埒な事を考えていると、『
鉄壁は言い過ぎである。
まな板くらいはある。
「もぉ! 六駆くんも芽衣ちゃんも、シャキッとして! 今日は協会本部にお呼ばれしてるんだからね! みっともない事をしたら、リーダーのわたしが恥ずかしいんだよ!!」
莉子さんが説明してくれた。
さすが莉子ペディアさん、実に助かる。
今回、彼女たちは南雲に呼ばれて、協会本部へ顔を出しに行くのだ。
そんな逆神流にとっては危険がいっぱいな場所になにゆえ不承不承ながら六駆おじさんもついて来ているのか。
日当が支給されるからに他ならない。
もう彼の頭の中では、今晩はピザを頼むか回転寿司に行くか、それとも気になっていた蕎麦屋の天丼を食べに行こうか、
「でも、どうして日須美ダンジョンの前なんだろうねー。あたしは家から近いから助かるけど! ねーねー、うちに寄ってく? スイッチあるよ、先月買ったヤツ!! まだ協力プレイした事ないからさ、寄ってく? ねーねー!!」
「みみっ! 芽衣のカービィは強いです! お相手させて頂くです!!」
クララのぼっちな訴えに今日ばかりはノリノリで乗って行く構えの芽衣。
芽衣が協会本部に行きたくない理由は3人とも熟知している。
「そんなに怖いの? おじさんって」
「六駆くんがおじさんって言うと紛らわしいからヤメてよぉ」
「木原監察官、ちょー強面だもんにゃー。遺伝しなくて良かったねー」
「みみみみみみみみみっ!! 『
芽衣が400人に増えた。
同じタイミングで、
一応警戒するも、それは杞憂に終わる。
「やあやあ、チーム莉子のみんな、お久しぶり! ダメだよ、木原さん、一応ダンジョンの外なんだからね、ここ。スキル使ったら怒られるよ」
南雲監察官室で現在勢力を拡大させている仕事のできる男、山根健斗。
彼は南雲の代わりに【
【
「ああ! なるほど! その黒い石はダンジョンが『基点』になってるからですか! 僕たちをここに呼んだのは、そういう訳ですな?」
「さすが、逆神くん! 話が早くて助かるなぁ! 御滝ダンジョンは人が少ないから目立つし、逆神くんに『
話もそこそこに「南雲さんがコーヒー淹れて待ってるから、そろそろ行こうか」と山根が言った。
「そろそろ良い感じに冷めてる頃だから」とも言った。
彼の手に持つ【
その上にチーム莉子が乗ると、手品師も認める鮮やかな消え去り方で、彼らの痕跡がなくなった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
南雲監察官室では、部屋の主がコーヒーを淹れて待っていた。
彼の特製ブレンドは淹れたてに飲むのが一番だと、違いの分かる男、南雲修一は言う。
「南雲さーん。ただいま帰りましたー」
「遅いよ!! 山根くんさぁ、私言ったよね? 5分以内に戻って来てって! もう15分も経ってるじゃないか! コーヒーが台無しだよ! もう、こんなの人肌に冷ました黒い水だよ!! 何してたの!?」
「いや、近くにセブンイレブンあったんで。お菓子買ってました」
「私が用意してるの知ってるじゃないか、君ぃ!!」
山根は「あー、すみません。だって、南雲さんの用意するお菓子のセンスがちょっと……。普通、コーヒーのお茶請けにハッピーターン出します?」と正論で応じる。
ついでにレシートを取り出して、「経費でお願いします」と微笑む。
「ああ、分かったよ。……それで? お菓子は?」
「肉まんみんなで食べてきましたよ? この季節になると美味しいですよねー」
「おおい! 現地で食べて来ちゃったのか!! せめて私の分も買って来なさいよ!!」
南雲と山根の楽しい漫才を鑑賞していた六駆おじさん、我慢できずに絡み始める。
これが悲しきおっさんの
「南雲さん、南雲さん! お久しぶりです! カラシならここにありますよ!!」
「逆神くん……。ご挨拶だなぁ。いや、まあ、元気そうで何より」
南雲はとりあえず、ここまでの流れをなかった事にして、2本目のリテイクの
「ようこそ、チーム莉子の諸君。ここが私の監察官室。そして、探索員協会本部だ。わざわざ呼びつけるような事をしてすまないね。さあ、コーヒーを淹れよう」
南雲は探索員として、監察官としては一流だが、俳優としては三流のようだった。
山根が冷めたコーヒーを回収する。
「あ、山根さん! わたしたち、そちらのコーヒーで充分ですよ!!」
「小坂さん、優しいなぁ。大丈夫、これはね、自分が開発した新しいイドクロア加工装備の実験に使うから」
「ほへー。すごい! 山根さんもやりますにゃー。ちなみに、どんな装備ですか?」
「コーヒーゼリーメーカーだよ。何と1時間で作れるまでに仕上がって来てるんだ」
南雲監察官室は研究者が集う、知恵の森の異名で協会内に勇名を馳せている。
そこのナンバーツーが、
ちなみに、このタイミングで言う事ではないが、探索員協会は国から毎年多額の補助金を受け取って運営資金に回している。
この部屋の映像をYouTubeで拡散したら、さぞかし景気よく燃えるだろう。
コーヒーを淹れてご満悦な南雲が、ようやく向かいのソファに座る。
本題に入るのは良いが、どれだけ時間をかけるのか。
「今日はね、チーム莉子の3人にランクアップ査定を受けてもらうと思ってね」
それ言うの、コーヒーの
だが、許そう。
目の前で自慢のブレンドにダバダバと砂糖ぶち込んでいる六駆くんを見る南雲の瞳が、あまりにも悲し気に見えたから。
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