第135話 チーム莉子、緊急お泊り会 タイムリミットは48時間 そうだ、異世界に相談しよう

 金曜日の夜。

 逆神家に集結したチーム莉子。

 これから月曜日の朝まで、六駆の地獄が始まるのだった。


「いやー! すみません、パパさんにおじーちゃま! 先にお風呂頂いちゃってー! 何て言うか、風情のあるお湯でしたー!! ね、芽衣ちゃん!」

「みみっ! クララ先輩、戦闘では存在感がアレなのに、体の主張は激しかったです! みみみっ!!」


 芽衣もすっかりチーム莉子に馴染んで、メンバーの事を名前で呼ぶようになっていた。

 仲良き事は美しき。


「ちょっとぉ! 六駆くん、今、クララ先輩のこと見てたでしょ!? 湯上り姿に目を奪われたでしょ!! わたしだって湯上り姿なのにぃ!!」

「えっ!? いや、僕はカレンダーを見てただけなんだけど……」


「誰がスレンダーって言ったぁ!? 六駆くーん?」


 珍しく六駆おじさん、とばっちりである。


「まあまあ、莉子ちゃん! 六駆くんだって時にはスレンダーじゃない体に目移りすることもあるにゃー」

「……わたし、そんなにスレンダーじゃないですよぉ? 芽衣ちゃんよりは……。……あれ? 芽衣ちゃん、ちょっともう1回、わたしとお風呂入ろっか?」


「みみみみみみっ! 『幻想身ファントミオル二重ダブル』!!! みみっ!!」


 チーム莉子の何だか分からないが、何かの序列に動きがあった模様。

 察した諸君は、慰めの言葉などを探さないで頂きたい。


 時として、善意の慰めも凶器となる事があるのだ。


「芽衣。分身しないで。分身体とは言え、僕の部屋がパンクしそうな絵面になってる」

「みみっ! 六駆師匠が言うなら、そうするです!」


「それでそれでー? 六駆くんは何の教科が苦手なのかにゃー? お姉さんが教えてあげようぞなー。あたしの通ってる日須美ひすみ大学、そこそこ偏差値高いんだぞー」


「全部です……」

「うぇー? ごめん、よく聞こえなかったー」



「全教科です!! 文系と理系の区別が最近やっとできるようになったところです!!」



 手遅れ感が半端ではなかった。

 土日でどうにかなるのか。

 みんなで諦めてドラゴン桜の鑑賞会でもした方が良いのではないか。


 莉子がリーダーらしく、3人で分担する科目を決めた。


 芽衣は英検2級、漢検1級を持っている才女。

 よって、現国と英語を担当してもらう。


 クララは理数系に強い。

 化学と数学なら任せても大丈夫だろう。


 莉子は、残った科目を全部。

 日本史から保健体育、音楽の実技まで担当する。

 何と言うバイタリティ。これが恋愛脳と言うヤツなのか。


「うっ……。なんだか今日はコンディションが優れないから、明日からにしよう!!」


「六駆くーん? 冗談言ってる暇があったら、年表を暗記しようね?」

「パイセンはビシバシ行くぞなー! 元素記号から覚えていくにゃー」

「芽衣は控えめです。とりあえず、英単語300個ほど覚えて下さいです。みみっ」


 六駆の地獄は始まったばかりである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 時間は流れて、日曜日の夕方。

 サザエさんのエンディングテーマが流れ終わった時分。


「ふぇぇぇ……。もぉダメだぁ……」

「六駆くん! 気持ちを切り替えよう! 高二が2周できるとか、ラッキーじゃん!!」

「芽衣は責任を取って、来年、六駆師匠の高校に編入するです」



 このオチ以外に落としどころがあったと言うなら、誰か代替案を示してほしい。



 そもそも、テスト科目は8教科。

 範囲どころか、基礎から忘れている六駆。

 重ねて、脳年齢は46歳。集中力も記憶力も衰え始めている。


 どうにかなる訳がないのである。


 六駆の部屋では、疲れ切った乙女たちが倒れていた。

 スカートなのに隙があったり、胸もとが緩かったりと、一般男子からすればラッキースケベが満載の空間だが、六駆はその場にいなかった。


 今、トイレから戻る廊下で倒れ果てたところだ。


「ふぇぇぇ……。せめて1ヶ月くらい時間があれば……」

「莉子ちゃん、無理言っちゃいけないにゃー。そんな異世界みたいな時間の歪みは現世じゃ起きないのだぞなー」


「みみみっ! 莉子さん、クララ先輩!! 異世界です!!」


 芽衣が何かを閃いた。

 その発想は完全に反則だったし、実現は難しいと思われたが、試してみる価値はある。


 もはや座して死を待つだけの六駆おじさんを救うためなら、藁にだって何にだってすがってみるのも悪くない。


「六駆くぅん! ちょっとぉ、こっち来て! はい、お庭に『ゲート』出して!!」


 廊下から引きずって来られた六駆おじさん。

 この2日間で「女子チームの言う事は絶対」と脳内に刻まれたおじさんは、「行き先はどちらで?」とタクシー運転手みたいな事を言う。


「「「ミンスティラリア!!」」」


 3人の声がバッチリ重なった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ミンスティラリア魔王城。

 ダズモンガーは煌気オーラの揺らぎを感知して、謁見の間に走っていた。

 走りながら、「吾輩、この流れ1度やったことが!?」と首を捻っていた。


「こんにちはー! ファニちゃん、ダズモンガーさん! 久しぶりぃ!!」


「おお! やはり莉子殿たちでしたか! 遊びにいらしたのですな?」

「違います! シミリートさんを大至急呼んでください! 六駆くんの生死がかかってるんです!!」


 ダズモンガーによって、テレパシーで呼ばれて来るシミリート。

 彼に事情を説明して、頭を下げる乙女が3人。


「ふむ。つまり、時間の流れを歪めて、外では1時間、英雄殿だけ1ヶ月の時を過ごさせろと?」


「はいぃ。やっぱり無理ですよねぇ?」

「いや、リコニウムを転用すれば理論上は可能だが。準備に時間が少々かかるがね」


「あー。2週間とかかかっちゃうパターンだにゃー」

「いや、30分もあれば済むが」


「みみっ! 寿命が半分になるとかペナルティがあるヤツです!! みっ!」

「寿命は減るとも。脳年齢が1ヶ月分」


 莉子とクララと芽衣は、3人で抱き合って喜びを分かち合った。

 ちなみに、六駆はボロ雑巾のように床に転がっている。


「ほう。これが異界の学校の教本か。ふむ、興味深い。誰か、私の部屋から指定したものを持って来てくれ。莉子殿、英雄殿の教師役はどなたが?」


「ふぇ? あ、それなら、わたしたち3人が!」

「現世の人の寿命は我らの10分の1。なれば、1ヶ月とは言え、無為に過ごすのはよろしくなかろう。私で良いならば、英雄殿の教師役を買って出るが? うむ。ご苦労だった。今、こうして翻訳機とその他諸々も届いたところだ」


 シミリートはさらに、女子たち3人が異空間で1ヶ月過ごせば、髪の長さが変わってしまうので、日常生活に戻るために色々と面倒な手順があると説明した。

 「なるほどぉ」と納得するところ大だったため、ここはシミリートに任せる決断を下した、リーダーの莉子さん。


 1時間ほどファニコラと遊ぶ乙女たち。

 そして、シミリートと六駆が異空間に消えても時計の長針がぐるりと一周する。


「お待たせした。試験範囲は完璧にインプット、いや、失礼。英雄殿にお教えしておいたゆえ、恐らくテストも問題ないだろう。ただ、3日ほどでデータは消失……いや、失敬。記憶に混乱が起きるかもしれないので、悪しからず」


 迎えた月曜日。

 そこには、元気に答案用紙の余白を埋めていく六駆くんの姿が。


「うわぁ! ここ、異世界でやったところだ!!」

「逆神、ふふっ、お前、テスト中は、ぷっ……私語を慎め!」


 こうして、無事に中間テストを乗り切った逆神六駆。

 なお、どういう訳か後半の日程の科目ほど正解率が下がっていき、意味不明な回答が増えたらしいが、その原因は分かっていない。

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