第133話 待望の報酬を今この手に 逆神六駆は次なるステージへ

 異界の門をくぐると、懐かしい日須美ダンジョン最下層。

 そこには、黒いジャケットの似合う陽気な青年が待ち構えていた。


「お帰りなさい! みなさん、お疲れっした!」

「あ! その声、山根さんですか!?」


 そうである。

 山根健斗Aランク探索員が、ルベルバックから帰ってきた彼らを出迎える。


「いやー、自分はいつも見てたからそんな気がしないっすけど、ほとんどの皆さんとははじめましてっすね! 南雲さん、人数分の【転移黒石ブラックストーン】持ってきましたよ!」


「そうか。君のそういう気配りができるところは実に素晴らしいな。それでは、全員に配ってあげてくれ。うん? 数が足りなくないか?」

「あれ? 南雲さんはいらないでしょ?」


「いるよ! 私、このダンジョンに来るの初めてなんだから!! 思い出しなさいよ! 第1層から全力疾走でこの上の階層まで走り抜けたでしょうが!?」

「そうでしたっけ? 昔の事なので忘れちゃいました! ははっ!」


 諸君もお忘れだろう。

 南雲は【稀有転移黒石レアブラックストーン】で地上から協会本部への転移はできるが、日須美ダンジョンの最下層から第1層までは【転移黒石ブラックストーン】がないと瞬間移動ができない。


「ああ、そうだ! 逆神くんの『ゲート』があるじゃないか! あれで行こう!」

「何言ってんすか。日須美ダンジョンは今や協会本部の注目の的なんですから、逆神くんのスキル使ったらまずいでしょう。南雲さん、しばらく会わない間にバカになりました?」


「……山根くんは相変わらずで安心したよ。じゃあ、良いよ。チーム莉子と一緒に第1層まで戻るから。……あれ? チーム莉子のみんなは?」



「いや、普通に【転移黒石ブラックストーン】渡したんで、とっくに転移済みですけど。じゃあ、自分も先に地上に出てますんで。急ぎで来てくださいねー」

「君は本当に、とてもいい性格をしているな。……もういないじゃないか」



 その後、南雲は『ランナーズハイ』を使って、猛スピードで日須美ダンジョンを逆走した。

 それからしばらく、「日須美ダンジョンにはすごい勢いで走る監察官が出るらしい」と噂になるのだが、彼はそんな事を知らない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 地上では本田林が帰って来た探索員チームに、冷えたアクエリアスとお菓子を配っていた。


 さすが、徒歩5分にセブンイレブンがある好立地のダンジョン。

 そこに今や探索課のエースの呼び声高い本田林の気遣いが加われば、この程度のサービスなど造作もない。


「おーっと。南雲さん、お疲れ様です。1時間も待ちましたよー」

「……1時間で戻って来た私はすごいと思うのだが。……まあ良い。みんな、聞いてくれ。今回の報酬についてだが、探索員協会から既に口座に振り込まれている。山根くん、明細書を配ってくれるか」


 六駆はウキウキが止まらない。

 ついにこの時が来た。


 攻略保証金、500万円。

 もしかすると、ルベルバックの活躍でそこに色が付くのかもしれない。

 1人頭いくらになるだろうか。


 200万、いやさ、300万。

 もしかすると望外の1000万もあるかもしれない。


「あー。チーム莉子のみんなには、私から直接報酬を渡そうと思う」

「くぅーっ! 分かってるなぁ! 南雲さんってば!! 大金は口座振込じゃなくて、手渡しの方がテンション上がりますよね!! やだー! 封筒が立つとか言うヤツがこの令和のご時世に体験できるなんて!! くぅーっ!!」


「……はい。これ」


 南雲が差し出した封筒は、どう見ても立ちそうになかった。

 それどころか、中に入っている札が10枚と少しくらいの質感である。


 六駆は察した。



 「なるほど、小切手だな!!」と。



 莉子とクララは先に開けて「わぁ!」と声を上げる。

 そら見たことか、小切手だ。


「15万円も入ってる! いいんですかぁ? こんなに貰っちゃって!」

「これなら焼肉パーティーができるにゃー!!」


 芽衣も2人に続いて、開封の儀。

 彼女にとっては初任給。


「みみっ! 芽衣がこんな大金もらってもいいのです? 怒られないです?」

「いいんだよぉ! 芽衣ちゃんだって頑張ったんだもん!!」

「正当な労働には適切な対価が支払われるのだぞなー!」


 静かになった六駆おじさん。

 15万円を前にして、感動で震えているのか。


 彼は静かに両手を合わせて、竜の口を作った。

 続けて煌気オーラを集中させる。



「『大竜砲ドラグーン』……。いや、『ディストラ大竜砲ドラグーン』……」

「待って! 逆神くん!! 待って!! 事情を説明させてくれ!! スキル撃たんとって!!」



 実は、既にチーム莉子の六駆を除いたメンバーには、全ての事情が説明されている。

 具体的にはルベルバックで祝勝会をしていた時に隙を見て南雲が説明して回った。


 これから監察官殿がその事情について語ります。


「だって、ほら! 仕方ないじゃないか! 逆神流のスキルを隠匿したって事はだね、つまり君たちはルベルバックに行ってない事になっている訳であって! そうなると、日須美ダンジョンも攻略していない事になるから、攻略保証金は協会から出ない! でも、それじゃああんまりだろうと思って、私のポケットマネーからささやかながら包ませて貰ったんだ!!」


「……どうして僕にだけ黙っていたんですか」



「だって、逆神くん絶対に怒るじゃない? ルベルバックは戦争直後だし、怒りに任せて暴れられたら困るなって!!」

「『ディストラ大竜砲ドラグーン』……」



 南雲はこの説明をしている間に、3度命を諦めたと言う。

 そんな殺伐とした空間に、心清き乙女が待ったをかける。


「ダメだよぉ、六駆くん! わたしたち、南雲さんに守られてるんだからね! 協会本部の目を誤魔化してくれた上に、お金までくれたんだよ!!」

「うっ……。だけど! だけど、莉子!! 最低でも125万貰えるはずだったのに!!」


 莉子は駄々をこねる六駆おじさんを優しく諭す。


「南雲さんがね、わたしたちに優先的にお仕事を回してくれるんだって! だから、お金儲けのチャンスはすぐに来るよぉ! ね、南雲さん?」


 南雲修一、乗るしかなかった。このビッグウェーブに。


「も、もちろんだとも!! 私がチーム莉子の後ろ盾として、今後を支えさせてもらう!! 約束する!! 逆神くんの隠居生活だって応援するぞ!! 本当に、マジで!!」


 莉子に正論を突きつけられると、六駆も振り上げた拳を下ろすしかない。

 その後、南雲の挨拶でルベルバック遠征軍は解散となった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ただいま……」


 逆神六駆、実家へと帰宅。


「おお! 帰ったか、六駆! 長期出張だったから、さぞかし儲けたんだろ!?」

「莉子ちゃんから連絡もらっての! 寿司頼んだぞ! 上じゃ、上握り!!」



「うるさい!! 今僕にお金の話をすると、家を燃やすよ!?」



 父、大吾。祖父、四郎。

 彼らは危機管理に優れた、かつての英雄である。


 「あ、これは下手に触れると怪我するヤツや!」と判断した彼らは、速やかに風呂を沸かして、布団を敷いたと言う。



 実は一攫千金のチャンスが六駆に訪れる事になるのだが、それはもう少し先のお話。

 今は枕を濡らしながら、ゆっくり眠るといい。


 せめて夢の中では純金製の極楽を。我々はそう願ってやまない。




 ——第2章、完。




◆◇◆◇◆◇◆◇



 いつも拙作にお付き合い頂きまして、ありがとうございます。

 ここまでの物語をお気に召してくださいましたらば、作品のフォロー、星での応援等、ご支援を頂けると幸いです。

 割と勢いよく伸び悩んで参りましたので、応援頂けると私が飛んで喜びます。


 これからも拙作が皆様の日常のほんの箸休めの時間になるように、日々精進してまいります!

 まだまだ書きたい話がございますので、彼らの活躍に引き続きご期待ください!!


 今後ともよろしくお願いいたします!!

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