第132話 さらばルベルバック やっぱり異世界を救った逆神六駆とチーム莉子

 さらに4日が経ち、本日、ついに現世チームがルベルバックを離れる時を迎えた。

 思えばもう3週間以上の滞在になっている。

 学生組はいくら公欠扱いになるとは言え、戻ったら学業に精を出さねばならず、これはなかなかに大変な道のりなのだが、六駆おじさんはその事実に気付いていない。


「逆神さん、最後の最後までお世話になりっぱなしで本当に申し訳ない」

「いえいえ! 『完全監獄ボイドプリズン』を建造物に転用するなんて発想は僕には出来ませんから! これはミンスティラリアの技術をすぐに応用できる科学力がすごいんですよ。僕はちょっと手を貸しただけです」


 軍と政治を腐敗させていたいわゆるアクツ派は、当面の間帝都の離宮横に作られた『六駆監獄ロックプリズン・ルベルバックバージョン』に収監されることとなった。

 その中には大将・レンネンスール、将軍・エッカミルも含まれている。


 両名共に重傷であり、特にエッカミルはほとんど死んでいたが、ギリギリ生きていれば六駆くんに任せると回復するのがこの世の真理。

 レンネンスールは素直に過ちを認めて感謝したのでビンタ1発。

 エッカミルは反省の態度が悪かったため、六駆のビンタを合計9発喰らったところで涙を流して許しを請うた。


 キャンポムによると、軍の監視のもとでゆくゆくは辺境の地を開拓させる予定なのだとか。

 六駆に言わせると「甘いなぁ」の一言らしいが、それがこの国のやり方ならば敢えて口を挟もうとはしない弁えたおっさん、それが逆神六駆。


 現世チームが帰還するとあって、現在異界の門の周りはお祭り仕様。

 これから、ささやかながらお疲れ様会が開かれる。


 南雲は「国がこのような状況なので気遣いは無用」と2度ほど断ったが、これだけはキャンポムが譲らず、3度目の押し問答の末にルベルバック軍が勝利した。


 その祝勝会が今、始まったところである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「アーハハ! ミスター南雲! ミスター逆神!! まるでミーたち英雄だね! アーハハ!! これはミーも現世で査定受けたらまたAランクかな! イエス、アンキャン!!」


 梶谷京児、ついにこの戦争を生きて完走せしめる。

 何度も死んでいいタイミングはあったのに、こうして生きながらえたと言う事は、これが神の意志なのだろう。


 ちなみに、南雲と六駆は聞こえているのに返事をしていない。

 これは彼らの意志である。


 君、査定受けたら多分Cランクに下がるからヤメた方が良いよ。


「山嵐組の解散を祝して! かんぱーい!!」

「「「かんぱーい!!!」」」


「もう2度とこんなパーティーには関わらねぇ!」

「おう! そうだな!!」


 山嵐組は戦争が始まる前から「絶対に辞める」と言う強い意志で結束し、何度か見せ場も作り出した。

 が、組員の意志は固く、5人全員が探索員を引退するという。


 しかし、山嵐助三郎はこの戦争を通して少しだけ真っ当な探索員になれた。

 捨てる神あれば拾う神あり。


「じゃあ、山嵐くん! 明日からは加賀美隊で頑張っていこう! 大丈夫、みんな気の良いヤツだから、すぐに馴染めるよ!!」

「おっす!! 俺、生まれ変わったつもりで励みます! よろしくお願いします!!」


 加賀美政宗、鼻くそから善玉菌にリボーンした山嵐助三郎を拾う。

 実力はそれなりにあるので、せいぜい加賀美の邪魔をしないように励んでほしい。


「莉子ぉ! クララぁ! 芽衣ぃ! また行ってしまうのかぁ!? わらわは寂しいのじゃあ!!」

「ファニコラ様、ご無理を申してはなりません!」


「うるさいのじゃ、ダズモンガー! 『石牙ドルファング』!!」

「ぐぁあぁぁぁぁぁっ!! 人に向かってスキルを撃ってはなりませぬ!!」


 ミンスティラリア魔王軍はもうしばらくルベルバックに留まるらしい。

 彼らは同盟国となったため、六駆の作った『ゲート極大陣グランデ』はそのままにしておく事になっている。


 今後は軍以外にも、文化や学術的な交流が両国の間で積極的に行われる予定。

 ミンスティラリアの時間の流れを緩やかにしたステキな魔素【リコリウム】がこんなところでも活躍していた。


「英雄殿。良いのかね? アタック・オン・リコを我々が頂いても。これほどの置き土産を頂いては、過分と言うものだが」

「良いんですよ。南雲さんが、それ現世に持って帰ろうとしたら刺し違えてでも止める! とか言うんですもん! 魔王軍は急遽来てくれましたし、お給料って事で!!」


「くくっ。ならばもう遠慮はすまい。これは、研究が捗るな。知的好奇心がこの上なく刺激されている。くくくっ」

「悪用はされないようにしてくださいね。『苺大砲いちごキャノン』は撃てませんけど、スキル砲は撃てますから」


 シミリートは「うむ。注意しよう」と答えると、早速アタック・オン・リコの中へ入っていった。


「六駆くん! お料理もらってきたよぉー! 食べよー!!」

「うわぁ、すごい量だなぁ。莉子、別に僕は今の莉子のスタイルのままで君は充分に魅力的だと思うから、無理に脂肪を付けなくっても、ああっ!? あああっ!?」


「てぇい! せりゃ!! やぁぁぁっ!!」


 ただいま、六駆くんが不適切な発言を致しました。

 現在、莉子さんが莉子パンチにて粛清中ですので、しばらくお待ちください。


「2人は相変わらずだにゃー。おりょ、なにこれ、おいしい!! ガブルスさん、これってもしかしてそこの森で獲れるクルルックのお肉ー?」

「そうですぞ! クララさんはルベルバックの味が合うようですな! この地に残って頂ければ、相応の地位をご用意しますのに!!」


 椎名クララ、引き抜かれそうになる。

 誰か、チーム莉子のみんな、気付いてあげてくれ。


「みみっ! ダメです、ガブルスさん! 椎名さんは、芽衣の防波堤です!! みっ!」

「芽衣ちゃん……! あたし、こんなに慕ってくれる後輩ができて幸せだにゃー!!」


 芽衣にとってクララは既に欠かせない存在。

 主に初めての場所に行く時には、クララのお尻の後ろに隠れるのが実にちょうどいい。

 六駆の後ろは危険がいっぱい。莉子は色々とボリュームが足りない。


「逆神くん。私もこれまで異世界と和平を結んできた経験はあるが、これほどまでに帰りを惜しまれた事はないよ。逆神家の使命、私は崇高なものだと思うが」


 南雲は、ルベルバックとミンスティラリアの人間にこれほど好かれているチーム莉子を見て、目を細める。


 六駆も大きくうなずいて、ハッキリと返事をした。


「うちの崇高な使命(笑)はタダ働きですからね!! あんなもん、クソです、クソゲー!! 対して、こっちは報酬が待ってる!! ああ、料理が美味しい! 懐もこれから潤う!! 生きているって素晴らしい!!」


「……ああ。君はそういう人だったね。私、料理を味わえないよ」


 料理を山ほど抱えた莉子が再び六駆のところへとやって来る。

 莉子はたくさん食べるのに、どうしてスタイ。

 これ以上は踏み込めないので、諸君で続く言葉を考えてほしい。


「六駆くんってばぁ! どうして君はすぐにいなくなっちゃうのかな!? 一緒にご飯食べよって言ってるのにぃ!!」

「ごめん、ごめん! 南雲さんがこっちに来いって言うから!! パワハラが!!」


「ええっ!? 言ってないよね!? ちょ、小坂くん、じっとりした目で見ないでくれるか!?」


 こうして、ルベルバックに別れを告げて、チーム莉子は現世へと帰還する。

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