第131話 戦後処理と復興作業とこれからの事 帝都・ムスタイン
ルベルバックにて後世に「アクツ戦争」と語り継がれる悪夢が覚めてから、2日が経っていた。
「すまんね、逆神くん。ここまでの警護、ご苦労だった。では、私は1度協会本部に4人を引き渡して来るよ。日須美ダンジョンの入口に
「ゆっくりしてきて良いですよ! こっちは僕に任せといてください!! うふふ!」
「いや、すぐに戻るから!! もうすぐ、秒で戻るから!! 何もせんといて!!」
南雲は異界の門をくぐり抜けて、現世へ。
阿久津を先頭に、犬伏、白馬、猿渡の4名が拘束された状態でそれに続く。
六駆の拘束スキルを解除できるのは南雲だけなので、ダンジョンに抜け次第【
ルベルバックでは、帝都にてランドゥルを使用した報道機関が回復し、各地方へとアクツ政権の崩壊と皇帝ポヨポヨの失脚が報じられており、国全体がお祭り騒ぎの様相を呈していた。
特にフォーカスされたのは、反乱軍を率いて国を救った英雄、キャンポム少佐についてである。
彼は右腕を失ってまで悪に染まった将軍を倒し、皇帝を追放し、ルベルバックを正義の名のもとにあるべき姿へと戻したと伝えられ、既に次の王朝は「キャンポム新帝国」になるだろうと確定事項のように国民は叫ぶ。
「逆神さん、ご指示の通りに済ませておきました。しかし、よろしいのですか?」
「キャンポムさん! いやぁ、助かります! そちらこそ、腕治さなくて良いんですか? 僕なら余裕で治せますよ?」
六駆が、と言うよりも南雲が頼んだのは、チーム莉子の存在の隠匿であった。
既に彼らの存在はなかった事にされ、その手柄はミンスティラリア魔王軍のものと言う情報操作を済ませていた。
もちろん、ガブルス斥候隊の完璧な仕事なので、抜かりはない。
「いえ、この腕は自分で言うのも恥ずかしいですが、解放の証。我が国の義手職人は腕がいいですから、近いうちに前よりも良い右腕が届きますよ」
「そうですか。いやぁ、やっぱり平和が一番ですねぇ」
戦争が片付いてめでたしめでたし。話はおしまい。
そうなればどれほど楽だろうか。
チーム莉子が「協会本部にとってヤベーパーティー」と言う事実は変わらない。
やがてルベルバックにも協会本部の現地調査が入るはずであり、それに備えるのは今この瞬間からでも早すぎる事はないのだ。
「とりあえず、帝都に戻りましょうか」
「分かりました。南雲さんは……まあ、いいか!」
アタック・オン・リコに乗り込み、クララの運転で一路帝都・ムスタインへ。
ちなみに南雲はものすごい速さでアタック・オン・リコに追いつき、六駆に四百字詰めの原稿用紙5枚分くらいの文句を言っていたが、彼がそれをちゃんと聞いていたかどうかは言うに及ばず。
◆◇◆◇◆◇◆◇
戦争は始まる前よりも終わった後の方がやる事の多いものである。
そこには、六駆と逆神流スキルが役立つ事も多い。
「はい! 魔王軍の皆さん! 教えたとおりにやって下さいね! ポイントは、
「「「ははっ!!」」」
六駆が学習能力の高い兵を精鋭部隊として選抜し、建物修理スキルである『
「やれやれ。これで魔王城の雨漏りには向こう100年困らんな。私も研究に集中できるし、英雄殿の授けてくれる叡智はいつも実に有益だ」
「シミリートさん。これ、ランドゥルで撮影した僕の『
「くくっ。逆神流を発展、継承していくのはミンスティラリアの更なる飛躍に繋がるものだからね。せいぜい、私の無い知恵で色々と研究させてもらうのだよ」
魔王軍修繕部隊は、実に効率よく倒壊した建物を修復していく。
六駆は何をしているのかと言えば、皇宮の修復である。
この規模になると、さすがに彼が自分でどうにかするしか手はなく、何より自分でぶっ壊したのだから修繕する義務もある。
「六駆くーん! 『
「ちゃんと次の500本用意してあるよ。ごめんね、僕もそっちの手伝いに回りたいんだけど。この面倒くさい宮殿の修理がさー」
「ううん、平気だよぉ! まだまだ市民の皆さんに
現世チームは六駆の改良済み『
住民たちは例外なく阿久津一党に
そこで再び登場したのが六駆の作った飲む
莉子が「イチゴミルク味にしたら?」と言うので、そんな感じにやってみたところ、「美味いし
テレビモニターでは、相変わらずキャンポムの功績を称える報道と、新たに同盟国になったミンスティラリアの代表としてダズモンガーの会見が繰り返し流れている。
「では、良いのかな? 現世、つまり日本の議会制民主主義にルベルバックの政治体制を切り替えていく方針で。もちろん、私は協力を惜しまないつもりだが、別に君主独裁制が必ずしも悪と言う事もないと思うぞ」
キャンポムは現在、代理総督としてルベルバックの指導者を務めているが、数年ののちに君主独裁制そのものを廃止させるつもりだと言う。
「優れた君主に恵まれた時代は裕福でいられますが、またいつアクツのような者がポヨポヨのように愚かな皇帝を
「まあ、キャンポムくんが決めた事ならば、私は何も言わんよ。しかし、腐敗した民主政治もそれはそれでなかなか」
南雲監察官、ストップ。
その手の話はもう荒れる事必須なので、これ以上深堀りしないでもらおう。
ほら、向こうで六駆おじさんが皇宮に「莉子」ってでっかく書き記しているぞ。
「逆神くん! 君ぃ! 何やってんの!! ダメだよ、君たちの痕跡消すために色々と手を回してるのに!!」
「ええ!? でも、僕が作った物には莉子って名前を入れる約束になってまして」
「誰と約束したの!? とにかく、ダメだ! 消して、消して! ……小坂くん? どうして君は頬を赤らめて様子を見守っとるのかね? 止めるよね、普通!!」
「えへへへへ。だって、六駆くんが嬉しそうに莉子って書くから、つい!!」
小坂莉子は完全に手遅れなので、もう諸君には諦めてもらうほかない。
「莉子ちゃーん! 追加の『
「みみっ! 芽衣もたくさん配ったので、なくなったです!!」
「君たちも休んでくれていいのに。……なんで『
ルベルバックからは、アクツの名も、現世の記憶もいずれは消えていく。
だが、読み方が分からないものの「莉子」と言う文字を背負った若者が、かの日、祖国の危機を救ったと言う伝承は、帝都ムスタインを中心にこの先もずっとこの世界で語り継がれていくらしい。
少し未来の話である。
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