第125話 キャンポム少佐、鬼になる
エッカミルの苦戦は、彼の名誉のために少しだけ擁護してあげると、必然であった。
彼は現世のスキルについてまったく知識がない上に、この戦闘も想定外。
対して、チーム莉子は戦う気満々で帝都に突入して来ているので、準備の時点で大きな差がついている。
そこに加えて、皇帝と言う絶好の盾が効かない六駆の存在。
これが非常に痛かった。痛恨である。
ルベルバックにおいて、いかに皇帝が無能で放蕩者でも、その権威は絶対。
どの都市に行っても厚遇されるのは間違いなく、仮にポヨポヨが「余のために戦え!」と命じたならば、兵士はもちろん一般市民も立ち上がるだろう。
もう1000年以上続いている君主独裁制は、ルベルバックの地に深く根を張り、国を蝕んでいた。
「え、エッカミルぅ! そのような者ども、はよう片付けて、余を守らんか!!」
自分で利用しようとして近づいたので同情の余地はないが、現状エッカミルにとってポヨポヨは邪魔な間抜け以外の何者でもない、呪いの装備。
繰り返すが、この国では皇帝の言葉は絶対なのだ。
「ちぃっ! まずはこの分身体からだ! 『
「みみっ!? みみみみみみみっ! 『
芽衣ちゃん、身の危険を察知して、教わっていない『
門前の小僧習わぬ経を読むではないが、確かに六駆のオリジナルを彼女は見ていた。
見ていたものの、だから使えると言う性質のものではないのが逆神流。
木原芽衣は逆神流と完全にコミットしつつあった。
南雲が次に木原監察官と顔を合わせる時には、誰でもいいので第一三共胃腸薬プラスを差し入れしてあげて欲しい。
食事も喉を通らないだろうから、そうめんとかを食べるように言ってあげるとなおよろしい。
さて、分身体は200まで減ったが、その分動くスピードが2倍になると言う、シューティングゲームのボスみたいな事をし始めた芽衣。
これは莉子とクララにとっても不測の事態なのだが、彼女たちは慌てない。
「……右足、まだクララ先輩の麻痺が効いてる! だったら!!」
「ややっ! 莉子ちゃん、アレをやるのだにゃー? りょーかい!!」
後衛に求められるのは、優れた洞察力。
パーティーリーダーに求められるのは、やはり勇気だろうか。
彼女たちはどちらも持っていた。
「強弓『サジタリウス』!! いっくよー、莉子ちゃん!!『ヘビーサイクロンアロー』!!」
クララのスキルは源石によるものなので、どれだけ経験値を積んでも数は増えない。
ただし、アレンジはいくらでもできる。
彼女の最大攻撃力を誇る『ヘビーアロー』に螺旋状の動きを加えた矢は、まっすぐにエッカミルの足元へと低く飛んでいく。
「ちょっと痛いと思いますけど、ごめんなさいっ! 『
相変わらずの阿吽の呼吸。
見事なバツの字がエッカミルの麻痺して動かせない右足に刻まれた。
「ぐぁぁっ! あ、足がぁぁぁ!! お、おのれぇ!! こうなればこやつら道連れに!!」
エッカミル、懐に隠し持っていた『
その威力は周囲5メートルを更地にするレベルであり、彼も軍人らしく華々しい最期を望んだのかもしれない。
もちろん、その望みは叶わない。
「そうはいかな」
「逆神さん、これ以上のご厚意は無用! 俺が行きます!!」
「うぉぉぉ! 『
「こ、こいつ、キャンポムぅぅっ! 離せぇ!! 離せぇぇぇぇ!!」
ピカッと打ち上げ花火のように閃光が瞬いた。
「ひゃああっ!? クララ先輩、芽衣ちゃん! 1度外に出よっ!!」
「みみみっ! もう出てるです! そこら辺にいるのは分身体です! みみっ!」
「あたしもほとんど外から攻撃してたからー。ごめんねー、莉子ちゃん」
エッカミルとキャンポムの安否は気になるが、気付けば最前線にいたのが自分だけだと気付いた莉子は心がとてもモニョっとしたらしい。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「た、隊長! ご無事ですか!?」
「ええい! どけ! 将軍の腰巾着どもが!!」
キャンポム隊が離宮に突入する。
敬愛する隊長が捨て身で自分たちを守ってくれた事実。
それが何よりも嬉しく、何よりも情けなかった。
「ぐ、ううっ」
「た、隊長! ご無事でしたか!!」
「待て! この
立ち上がったのはエッカミル。
相当な威力の『
「隊長! ああ! なんてことだ!!」
「……ばっはは! このバカのおかげで、命拾いしたわ! 飛び込んできて『
「き、貴様ぁ!!」
「おのれ、絶対に許さん!!」
六駆は彼らを止めるべきかどうか、迷っていた。
自分が割って入るのが一番手っ取り早いのは明らかなのだが、それをすると彼の名演技が台無しになる。
主演男優賞にケチをつけるのは、六駆としても本意ではなかった。
その意を知ってか知らずか、名俳優がゆらりと立ち上がる。
エッカミルはバカ笑いをしていて気付けない。
「……終わりです。将軍。『
「ばっ!? キャンポム、貴様ぁ!?」
バリバリと音を立てて、キャンポムの右腕とその手が置かれたエッカミルの左肩が凍りついていく。
『
キャンポムにとっても、それは制御不能の兵器だった。
エッカミルが凍りついていくのと同じ速度で、キャンポムも手の平から上腕に向かって凍結が進む。
次の瞬間。
「『
「た、隊長!! なんてことを!!」
「衛生兵! 衛生兵!!」
キャンポムは、自分の腕を『
その形相は鬼のようであり、部隊の誰もが背中を冷やしたと言う。
「きさ……貴様……。キャンポム……。馬鹿め、今更……。ワシを止めたところで……意味のな……」
エッカミルが完全に凍りつき、動かなくなった。
キャンポムは「右腕がなくなったため、左手で失礼」と言って、エッカミルに敬礼をする。
その姿は、まさにルベルバック軍人のあるべき姿だった。
キャンポムだってとっくに理解している。
今さら将軍をどうしたところで、阿久津を倒さなければ無意味であると言う事を。
それを異国の者に託す恥を。己の無力さを。よく知っていた。
「逆神さん。チーム莉子の皆さん。……阿久津をお任せしても良いでしょうか」
まだ文句を言う元気のあるポヨポヨにビンタしていた六駆おじさんは、急に出番が来たので酒臭い皇帝をポイ捨てして、急いでいい場面用の表情を持って来て答える。
「もちろんですよ! 任せて下さい!!」
その顔は、欲にまみれていたらしい。
のちに莉子が「あの時、すっごく恥ずかしかったんだからねっ!」と語っている。
だが、そんな六駆おじさんに向かってキャンポム隊は全員で敬礼する。
方法や思想はこの際、置いておこう。
逆神六駆がこれまで、寄せられた期待に応えられなかった事があっただろうか。
最終決戦、
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