第126話 やっと会えましたね阿久津さん 逆神六駆、ついに黒幕と出会う 帝都ムスタイン 皇宮

 離宮から皇宮は目と鼻の先。

 チーム莉子は、六駆を先頭に最後の決戦の場に向かって走る。


 もはや彼らを足止めしようとする兵はいない。

 残すは敵の本丸にいる、今回の戦争の黒幕、阿久津浄汰の首ひとつ。


『逆神くん、ちょっといいかな? 山根だけど』

「はいはい。どうしました?」


 六駆は一旦足を止めて、山根の呼びかけに応じる。

 阿久津の性格上、今更逃げたりはしないだろうと六駆は判断しているので、少しくらいの時間のロスは問題ない。


『南雲さん、繋がりましたよ。どういうことですか、通信機忘れて来るとか。あーあー。嫌だなぁ。上司がバカだと部下も恥ずかしいっすよー』


 山根は、南雲が急いで帝都に向かう気持ちが強すぎて、うっかり通信機の類を全てアタック・オン・リコに置いて来た事と、それを恥ずかしそうに自分に伝えて来たから、仕方なくサーベイランスを仲介して南雲に通信を繋ぐ旨を六駆に伝えた。


『……逆神くん。私だ。南雲だ』

「南雲さん、結構うっかり屋さんなんですね! 大丈夫ですよ! 誰にも言いません!! ねぇ、みんな!?」



『既にチーム内で情報共有しとるじゃないか!! やーまーねぇー! どうして君は言わんでもいい事を言うんだ!』

「あ、すみません南雲さん。無駄話なら、阿久津くんの首取った後でお願いします」



 同じおっさん仲間なのだから、南雲に優しくしてあげてくれ、六駆よ。

 お前、何回でも言うけど現世じゃ1人で電車に乗れないじゃないか。

 ここぞとばかりにマウント取りに行くんじゃない。


『そう、それだよ! 君、阿久津くんを殺しちゃダメだからな!?』

「あ、分かってますよ。嫌だなぁ! 半殺しでしょ? 口も利けなくなるくらいの!!」


『あっぶない!! ホントに恥を忍んで山根くんに通信頼んで良かった! ダメだよ! 阿久津くんは最低でも思考力が働いて、発言できる状態で捕らえてくれないと!!』

「ええ……。どうしてそんな面倒なことを?」


 南雲の姿は見えないが、多分不味いコーヒーを飲んだ時のように眉をひそめているだろうと思われた。


『今回の戦争および、現世侵攻の黒幕については、もう協会本部に話が上がっているんだ! つまり、首謀者の聴取は絶対に必要なの! 査問会議に私と出るって事で話はついているんだから!』


「…………。あ、はい。分かりました!!」



『分かってないな!? 今の間はなんだ!? こっちは分かるんだからね、そういうの!! 10日も一緒にいるんだから!! 逆神くんの性格は把握している!!』

「やだー。南雲さん、束縛するタイプですか?」



 南雲は『束縛するよ! 私、監察官だからね!!』と叫ぶ。

 それでも六駆には声が届かない。

 「まあ、適当に返事して、阿久津くんをボコろう!」と考えている心根が丸出しであった。


 だから、南雲は最後の手段に打って出る。



『いいか? 阿久津くんを殺したら、ダンジョンの攻略報酬は出ないからな!?』

「……………………。えっ!?」



 六駆おじさんの脳が、たった今、凄まじい速さでそろばんをはじいた。

 「500万がなくなる」と言う事実は、彼にとってこの世の終わりにも等しい事態。


 それはもう、言葉もなくす。


 サーベイランスの通信を一緒に聞いていた莉子が、彼の代わりに返事をする。


「了解しました! 六駆くんなら平気です! この人、お金に関してはちょっとおかしいくらいに潔癖なので! 絶対に言う事聞いてくれますよぉ!」


『こ、小坂くん……! 君、現世に戻ったら絶対にランクアップ査定受けようね! 私、全力でバックアップしちゃうから!!』


 こうして通信が終わる。

 六駆の心境は複雑であった。


 なにせ、この戦争で彼はまったく本気を出せていない。

 その溜まりに溜まったフラストレーションをラストバトルで解放して、スッキリとした気持ちで現世に帰る予定だったのに、事情が変わった。


 手加減しながら戦うのは、六駆が最も苦手とする戦法である。


 だが、意気消沈していても戦いの時は迫って来るもの。

 チーム莉子は、皇宮に到着した。


 門の前には椅子があり、そこに足を組んで座っている痩身の男がいる。


「よぉ。小僧、よく来たなぁ? 自己紹介は必要か? くははっ! 俺ぁ阿久津浄汰。ルベルバックを玩具にした、お前らの大先輩だ!」

「あ、どうも。はじめまして。僕は逆神六駆と申します。あなたを今から手加減しつつ戦闘不能に追い込む男です」


 ついに相対した逆神六駆と阿久津浄汰。


 阿久津は実に冷たい瞳で六駆を見据える。

 六駆も死んだ魚の目で阿久津を見ていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「南雲の小間使いが先鋒とはな! くははっ! お前もなんか、妙なスキルを使うみてぇだけどよぉ。さすがに俺の相手は務まらんぜ? まさか、後ろのお嬢ちゃんたちと一緒に戦うのか? よせよせ、みっともねぇ!」


 阿久津は未だ、長い脚を組んだままの姿勢でチーム莉子を見る。

 六駆も必要最低限の反論はする。


「もちろん、僕がお相手しますよ。10分の1くらいの力で。ああ、もう、嫌だなぁ。莉子たちは下がっててね。一応、いつでも防御スキル出せるように」


 ローテンションの師匠からの言いつけをきっちり守るのが小坂莉子。


「分かった! 六駆くん、気を付けてね! 阿久津さんを殺しちゃダメだからね!!」

「了解、了解。さて、じゃあ始めましょうか」


 チーム莉子の乙女たちが200メートルほど距離を取る。

 戦いの始まりを告げるのは、意外にも阿久津の攻撃からだった。


「ちょっとお前、口の利き方がなってねぇなぁ? 俺ぁ31だぞ? 『金色煌気剣クリュソース』!! 死んどけ! 『結晶散血破クリスタロ・ブラド』!!」


「おお! 綺麗なスキルですね! 見たことがないタイプ!! これは下手に受けると面倒そうなので、『大太刀風おおたちかぜ』!!」


 金色の結晶と巨大な風の刃が両者の間で交わり、光を放ちながら爆ぜる。


「くはははっ! マジか、お前ぇ! 今、俺ぁ殺す気で撃ったんだぜ? おいおい! こいつぁ予想外に面白れぇヤツが来ちまったなぁ!」

「僕も、想像よりも阿久津さんが強くて安心しました。これなら、少しくらいは退屈しのぎになりそうです!」


 口の減らない2人はお互いに距離を取ってスキルを撃ちあう。

 阿久津も六駆も、「せっかくの戦闘がすぐに終わってはもったいない」と言う認識が一致していた。


 彼らは立場も思想も違うが、どこか似ているところがある。

 もしも逆の立場だったら、逆神六駆がルベルバックを征服していたのだろうか。


 否。

 そんな事はないと、チーム莉子のメンバー全員が即座に否定する。


 六駆のダメなところを両手で数えきれないくらい知っている彼女たちは、六駆の良いところを1つだけ知っていた。


 彼は、どんなに性根がねじ曲がっていても、正義を裏切らない。


「いっちゃえ、六駆くんっ!! 信じてるからぁ!!」

「そうだにゃー! この戦いが終わったら、あたしたち現世で焼肉食べるんだよー!!」

「みみっ! 逆神師匠が負ける姿を想像できないです! みっ!!」


 若い女の子に熱いエールを送られると、六駆もやる気になってしまう。


「手抜きもできないなんて、これは困ったなぁ!!」


 それが、おっさんのさがだからである。

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