第124話 将軍・エッカミルVS戦う乙女たち

 帝都へと急ぐ南雲監察官。

 飛竜を借りる手もあったのだが、魔王軍衛生兵団が北門の救護に向かうと聞いては首を横には振れない常識と良識の人。


『南雲さーん。悪い知らせとすごく悪い知らせ、どっちから聞きたいですか?』

「美味しいラーメン屋の話とかにはならないの? 私が奢るから」


 山根くんがもたらす情報の凶報率がこの2週間で急激に上昇していた。

 それはチーム莉子を南雲が観察始めた時期とまるかぶりしている。


 逆神六駆に関わって不幸になった人間がこんなところにも。


 ちなみに、今回もちゃんと凶報なので、南雲監察官の苦悩がお好きな諸君はご安心頂きたい。


『今、南雲さんって帝都の南門めがけて走ってるじゃないですか』

「そうだね。『ランナーズハイ』使って、全速力で。5分もあれば着くよ」


『それがですね、そのスピードで2分走るとルベルバックの負傷者たちがわんさかいます。どうしますか? 別に見捨てても道義的に問題はないと思いますけど』


 山根は南雲の答えを知っていた。

 南雲も自分の答えを知っている。


「ぐぅぅっ! やむを得ん! 私が応急処置をする! しかし、『双刀ムサシ』しか持って来ていないからなぁ! こんな事ならばもっと装備を用意するべきだった!」


 南雲専用の武器は全部で4つあり、『双刀ムサシ』は攻守に優れた武器で様々な状況に対応できるが、回復に転用するとやや弱い。

 回復や補助を専門にする装備もあったのだが、思い出して頂きたい。


 南雲は日須美ダンジョンにおっとり刀で駆けつけて、そのままルベルバックに進軍した身である。

 日須美ダンジョンでの戦闘しか想定していなかったのだがら、これは彼の判断を責めるにはあまりにも酷と言うもの。


『もうひとつ、すごく悪いお知らせがあるんですけど、南雲さん』

「嘘だろ!? 大量の負傷者がすごく悪い方じゃないの!?」



『逆神くんが、皇帝をぶっ飛ばしました。ガチビンタで』

「ああああああ!!! どうしてそうなるの!? それ、ちゃんと考えのあるヤツ!?」



 その後、南雲は山根のナビに従ってルベルバック軍の負傷兵を5000ほど発見。

 すぐに晴刀で『向日葵ひまわり』と言う回復促進スキルを広域展開し、重傷の者から治療して行く。


 その作業には少なくとも30分はかかりそうであり、それだけの時間があれば山根通信の「良くないお知らせシリーズ」の続報が来るであろうことを我々は知っている。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「さあ、キャンポムさん。ポヨンポヨンは僕がぶっ飛ばしましたから、続きを。異国の無法者が皇帝ぶん殴っただけですからね。戦争の後に、その無法者を追放したら、まあ体裁は保てるんじゃないかなって!」


 六駆くん、まさかのちゃんと考えているヤツだった。

 てっきり「むしゃくしゃしてやった」とか供述すると思っていたのに。

 我々は彼に謝らないといけないのかもしれない。


「逆神さん……。お心遣い、感謝いたします……! このご恩はいずれ、どこかで!!」

「気にしないで下さい! 僕には500万が待っていますから!」


 そう言って六駆はチラリとポヨポヨを見る。


「ひぃやぁぁっ!? 余、余は皇帝であるぞ!? よ、よせ! こっちを見るなぁぁ!!」


 皇帝の心はシャーペン芯のように脆かったらしく、それをポキっと折るに飽き足らず、ポキポキポキポキっと折るものだから、これは再起不能だろう。


 代わりに、エッカミルの下についている兵士たちが離宮から出て来た。

 だが、彼らには闘争心が感じられない。


「ばっはは!! キャンポム、偉くなったものだな! アクツ様の政権にたてついて異国の侵攻部隊なんぞに左遷された愚か者がぁ! ついには祖国を思う魂まで抜かれて帰ってきおったか!!」


 ようやく登場したのが、エッカミル将軍。


 見た目は50代くらいだろうか。

 しかし、年齢にそぐわないギラリとした目と、鍛え抜かれた肉体はそれなりの威圧感を放っていた。


「兵ども、かかれぃ! 反乱軍どもの首1つにつき、700帝国ミラスをやるぞ!!」


 土壇場で金を拠り所にするのは、愚か者。

 もしくは、人心掌握術に長けた者である。


 金は自分の行動を正当化する。

 正しい行いをしたから、それに見合う報酬を得た。

 その感情だけで、心が摩耗した兵士には起爆剤となる。


「すみません! 将軍!! 1帝国ミラスって日本円にするといくらですか!?」


 このように、敵へのけん制にもなる。

 ちなみに、1帝国ミラスは日本円にして約500円。

 つまり、700帝国ミラスは日本円にして約35万円。



 六駆くんの心が動くか動かないかの、絶妙な金額である。



 そんなパーティーメンバーを見かねて、莉子が、クララが。

 そして芽衣までもが一歩踏み出した。


「キャンポムさん! わたしたちが助太刀します!」

「と言うか、あたしたちが戦った方がいいにゃー。さっきの六駆くんじゃないけど、位が下の軍人さんが将軍といざこざ起こすと、後が面倒でしょー?」


「みみみっ! みみっ!! 芽衣だって、やる時はやるです!! みみぃっ!!」


 チーム莉子の乙女たちが実に頼もしく見える。

 彼女たちがここまで続けて来た努力と研鑽の成果だろう。


「まあ、この子たちもこう言ってる事ですし、キャンポムさん。僕らは周りの雑兵さんでも相手しときましょう。3人の邪魔にならないように。自分で戦いたい気持ちは分かりますけど、ここは我慢ってことで。あなたの仕事もその時が来たら正しくこなせばいいですよ」


 六駆くんがやたらと理性的な事を言う。

 だれか、1帝国ミラスの相場を教えてやれ。


「……すみません。我々はあなた方の国に侵攻したと言うのに!!」

「過ぎた事ですよ! 僕もダンジョンでは皆さんにスキル撃ちまくりましたし。まあ、水に流しましょう!」



◆◇◆◇◆◇◆◇



 莉子がまず動いた。

 エッカミルの脇をすり抜け離宮の中に突入して、『復水おちみず』を頭上に発現。


 『復水おちみず』は傷ついた者に使えば簡易回復スキルとなるが、それ以外にも応用が利く。


「やぁぁっ! 『豪熱風ギズシロッコ』!!」

「ぐおっ!? 目くらましか!? 女子供が!! 『煌気細剣クシフォス十六刀流ヘキサデカ』!!」


 水蒸気で視界が不明瞭になったタイミングで2人が同時に仕掛ける。


 まずはエッカミル。

 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たると言うが、鉄砲も撃たなければ当たらない。

 ただ相手の攻撃を待つだけでは非効率。彼は煌気オーラで細剣を自在に操る。


 対して、この水蒸気の目くらましの意味をすぐに理解するのは、監察官の血が流れるルーキー。

 身の安全のためならば、煌気オーラが空になるまで同じスキルを使う女子中学生。


「みみみみっ! 『幻想身ファントミオル二重ダブル』です!! みみみみっ! 『瞬動しゅんどう』!! みみっ!!」


 広い離宮の中が、芽衣でいっぱいになる。

 その数ついに380。

 注意しなければ味方だってどれが本物の芽衣か判断できない。


「なんだこれは!? こ、小娘どもがぁぁ!! くそっ! どれが本体だ!!」


「380分の1はちょっと分の悪い賭けですにゃー。『サンダルパラライズアロー』!!」


 クララの『電撃矢サンダルアロー』は、現世ではもとより、この世界において麻痺属性の隠れ蓑としてとても優秀。

 ルベルバック軍には基本電撃が効かないため、彼らはそれを避けようとしない。


「ぐぬぅ!? 右足が!!」


 すると、こうなる。

 チーム莉子の完璧な連係プレーは続く。

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