第123話 皇帝・ポヨポヨ登場 逆神六駆を配下にしようとした愚か者

 チーム莉子は、とりあえず略奪している兵士を見つけるとぶっ飛ばす。


「クララ先輩! こっちはわたしが! そっちお願いします!!」

「了解だにゃー! 『アイシクルアロー』!!」


「なんだお前らぁん」

「おい! しっかりしろ! ちゃんと荷物持てよ!!」


 クララの弓スキルは一級品。

 もはや安定感すら覚える、最も見ていて落ち着くスキルである。


「あなたの荷物じゃないでしょ! 『跳躍翔フロッパー』! せぇぇい! 『斧の一撃アックスラッシュ』!!」

「ぐへぇっ」


 莉子は新スキルを織り交ぜて、軽快に敵を捌く。

 彼女は煌気オーラ総量が多いと言う長所を生かして、出し惜しみをしない。


 芽衣はどうした。


「みみみみみっ! 『幻想身ファントミオル』!! みみみみみみみみみみっ!!!」



 雑兵相手に100体の分身を作っていた。



「え。何これ。オレ、疲れてんのかな」

「エッカミル様がむちゃくちゃばかり言うからな。疲れてんだよ、オレら」


 芽衣に攻撃手段はない。

 ならばどうすれば良いのか。


「疲れてるなら、どうぞ寝て下さい。はい! いち、にぃ! さん、し、ごぉー!!」


「あしゅん」

「ほごっ」


 六駆おじさんの無言スキル、『ビンタ』が炸裂した。

 ちょっとだけ煌気オーラを纏わせたら、ただのビンタが攻撃スキル。

 危険物取扱者の資格がない者に過分な煌気オーラを与えてはならない。


「これ、効率が悪いなぁ。こんな事してる間に、将軍が逃げちゃうよ」

「確かにー。さっきから、出会う兵隊さんはみんな雑魚っぽいにゃー」


「じゃあさ、六駆くん! 『観察眼ダイアグノウス』で探すのは? ほら、いつもわたしたちを舐め回すように見てるスキル!!」

「言い方がアレで僕の名誉が不当に傷つけられている気がするけど、それは確かにいい考えだなぁ。一応確認してみよう。キャンポムさーん。こちら逆神でーす」


 ルベルバック製の通信機は、ほぼ100パーセント傍受されているだろう。

 だが、ここまで至れば今さらそのように些末なことなど気にしなくてよろしい。


『こちらキャンポム。どうなさいましたか』

「将軍って言うからには、そこそこ強いんですよね? なんでしたっけ、キスミントさん?」


『エッカミルですね。ええ。腐っても将軍ですから。かつては『煌気細剣クシフォス』の使い手として、勇名を馳せた実力者です』

「了解です。そんじゃ、ちょっと探してみます」


 六駆は『激跳躍ゴウフライド』で上空に飛びあがると、そのまま『観察眼ダイアグノウス』を同時使用する。

 宮殿みたいな建物の中に隠す気もなさそうな巨大な煌気オーラが1つ。

 恐らくあれは阿久津だろう。


 さらに目を凝らすと、そこそこ大きな煌気オーラが小粒な煌気オーラ数百と一緒に、宮殿から1キロほど離れた場所で動いていない様子を確認。


 六駆が知るはずもないが、と言うか厳密に言えばアタック・オン・リコで飛竜と一緒に飛んでいたサーベイランスで最新の航空写真を見ているので知っているはずなのだが、まあそこはいつものおっさんであるからして、なんだかごめんなさい。


 結局のところ、六駆は知らないのだが、将軍・エッカミルと部下たちが集結しているのは離宮。

 皇帝ポヨポヨの住まいだった。


 エッカミルは阿久津に着いて行けないと判断し、ポヨポヨを連れてどこか近くの都市へと落ち延びようと画策していた。


 だが、目の良いおっさんに捕捉されてしまった。

 こうなってしまうと、逃げおおせる確率は六駆に宝くじの一等賞が当たる可能性と同等になる。


 よって、エッカミルとポヨポヨは逃げられない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 六駆から情報を受けたキャンポム隊は、実に迅速で規律の取れた動きを見せ、離宮を包囲していた。

 そこに少し遅れてチーム莉子が合流する。


「逆神さん。いかがいたしましょうか」

「うちのリーダーは莉子ですよ。まあ、答えは決まってると思いますけど」


 莉子は六駆のアイコンタクトににっこりと笑顔で応えた。


「キャンポムさんたちは国を取り戻すために頑張ってきたんですから! ここは当然、お任せします! 必要なら協力しますよぉ!!」


 クララと芽衣も莉子に同調する。

 キャンポムは「ご配慮、感謝します」と深く頭を下げた。


「エッカミル将軍。こちらはキャンポム少佐です。いや、キャンポム少佐である。既に周囲は我が隊で囲んでいる! 投降せよ!」


 しばしの沈黙ののち、少し予想外の人物が離宮から出て来た。

 その足取りはおぼつかない様子で、彼から漂うアルコールの匂いで泥酔している事は容易に判断できた。


「余は、ルベルバック皇帝であるぞ! 第217代皇帝、ポヨポヨである! 貴様らは、皇帝を前にしてなにゆえ頭を下げんか!! 不敬であろう!!」


 どうやら、エッカミルは皇帝を落ち延びさせるつもりではなかった模様。

 自分が落ち延びるためのキーパーソンとして、皇帝の後ろ盾を欲していたのだ。


 なるほど、阿久津ともさぞかし気が合っただろう。

 やり方が阿久津の模倣。いや、模倣と呼ぶには余りにも拙い、モノマネである。


「皇帝陛下。あなたは先帝のメシコロンを弑逆しいぎゃくなされた。ならば、あなたが討たれない道理がない! だが、どんな愚物でも我が国の皇帝には変わりない。大人しく投降して下さい。生涯、人里離れた僻地へきちで安定した生活を保障しましょう」


「黙れぃ! この無礼者が! 貴様、キャンポムとか言ったな? たかが少佐が、皇帝を前にしてなんたる態度かぁ!! 頭を下げよと申しておる!!」


 自分の国の恥をまだ晒さなければならないのかとキャンポムは唇を噛んだ。

 自我を押し殺すために、口の端から血がしたたり落ちる。


 「ふんふん」と状況を理解した六駆くん。

 彼は何の迷いもなく、ポヨポヨに歩み寄った。


「な、なんだ、貴様は!! さては貴様が異界の者だな! アクツが申しておった! なんだ、どうした。ははあ、分かったぞ! 余に忠誠を誓うか! いいだろう、この役立たずのキャンポムを殺せ! さすれば、望みの地位を与えてやろう! ぐふふ、悪くなかろう? ええ?」


「えっ!? なんでも貰えるんですか!? 本当に? いやぁ、困ったなぁ!!」


 そう言って、六駆は右手を差し出した。

 ポヨポヨはそれを服従の印だと理解して、自分のてのひらを上にして応じる。



「……では。そぉぉぉぉぉぉぉぉぉいっ!!!」

「ぎゃべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? はっ!? はっ!? ひぎぃぃぃぃっ!?」



 再び紹介しよう。

 六駆の得意スキル『ガチビンタ』である。


 煌気オーラも何も纏っていない右手を大きく振り抜くことで、相手の首から上を衝撃が襲い、一気に対象をぶっ飛ばす。

 対一般人用に六駆が多用する、スキルでも何でもないただの暴力である。


「一応聞きますけど、ここに日本円ってあります? 500万以上の」

「はっ!? はぁっ!? ニホンエン!? えっ、痛い、痛い!!」


 ポヨポヨは、恐らく生涯で初めて暴力を振るわれたのだろう。

 自分の身に何が起きて、これから更に何が待ち構えているのか、理解できずにいる。


「現金も持ってないのにぃ! いけしゃあしゃあと話し合いしてもらえると思うんじゃないよぉぉぉぉ!! こっちは500万のためにこんな異世界まで来てんだ!! この、鼻くそがぁぁぁぁ!! ポヨクソがぁぁぁぁぁぁっ!!!」


「はぎゃあぁぁぁぁっ!? な、なぁぁぁ!? ひぃぃぃぃいいぃっ!!」


 六駆の叫びは、アタック・オン・リコからこちらに向かう途中の南雲にも聞こえたと言う。


 そう言えば、この男。

 日須美ダンジョンの攻略保証金、500万が何よりも最優先の目的であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る