第122話 チーム莉子の帝都突入と南雲修一の華麗な戦い

 飛竜は空を駆ける。

 背中には神妙な面持ちのキャンポム。


「いやぁ! 帝都って民間人まだいるんですっけ!? 試しに『大竜砲ドラグーン』撃ってみてもいいですかね!? 大丈夫です、多分みんな逃げてますよ!! うふふ!」



 荒れ果てた祖国の帝都を前に落ち込む男の横で、遠足のバスの中で「お菓子交換しようぜ!」なテンションの六駆くんがいた。



「クララ先輩、芽衣ちゃん。わたしたちの役目は分かってるね?」


「あいさー! 六駆くんが人をうっかり殺しちゃわないように注意すること!」

「逆神師匠が暴発しそうなときには、速やかに避難するです!!」


 クララが正解。

 芽衣もある意味では正解。


 紅龍の飛ぶスピードは速い。

 15キロの距離なんて、長めの瞬きを5回か6回くらいしていれば、そこはもう帝都。


「さてさて。どれが逃げようとしてる将軍ですかね? キャンポムさん、分かります?」


「……まったく、お恥ずかしい事を申し上げなければなりません。あそこで民家から金品を奪って逃げようとしているのは、将軍直属の部隊です。よもや、ここまで軍部が腐りきっていたとは。俺は国民に顔向けできません」



「じゃあ、とりあえず滅します?」

「だめぇ!! 六駆くんのスキル撃ったら、民家まで巻き添えになっちゃうでしょ!!」



 そのあとに莉子は「略奪は止めないとだけど、それで結局家財道具が使い物にならなくなったら意味ないじゃん!」と続けた。

 六駆は「うわぁ! すごい! 僕にはとても思い付けない発想!!」と、愛弟子の成長に表情を崩した。



 顔をだらしなく緩めるのはいいから、思考力をしっかり締めてくれ。



 「とりあえず南門の前で飛竜から降りて、将軍探しながら略奪してるバカを懲らしめましょうか!」と六駆が言う。

 その方針については誰も反論しない。


 こうして、チーム莉子は帝都に突入した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 南雲の戦いはどうなっただろうか。


「ぐっ、ぐぅぅっ! なんなん!? あんた、監察官の中でも激よわキャラなんでしょ? 話がちげーんですけどぉ!!」


「ああ。阿久津くんが言っていたのか? その目算は正しいよ。私は8人の中でも、まあ下から3番目くらいだろうから。ただ、調子に乗った元探索員に足元をすくわれるほど耄碌もうろくもしていない! 私はまだ37歳だ!!」


 南雲の両手には、もはやお馴染みの『双刀ムサシ』が握られており、『雲晴うんせい』に変刃済みである。


「氷しか使えねぇんじゃねーのかよぉ、おっさん!! 『ローリングスパーダ』!!」


 犬伏の螺旋渦巻く剣先が南雲に襲い掛かる。

 それを右手の晴刀で溶かして無力化する。


 『双刀ムサシ雲晴うんせい』は南雲の攻撃に特化したスタイル。

 晴刀は陽光を放ち、敵の煌気オーラをその光で蒸発させる。

 曇刀は自在に刀身の形や長さを変え、器用に敵を貫く。


「おっさんはヤメてくれないか。私はまだ37だと言っているだろう! 逆神くんは中身46のベテランだぞ!! 『曇天どんてん朝顔あさがお』!!」


 蛇のようにうねる刀身が犬伏の腕を叩き斬る。

 彼女の腕自体がスキル『スパーダ』によって何度でも生えてくるので、スプラッターな絵面にはならない。

 諸君におかれましてはご安心頂きたい。


「ざっけ! 『透過外殻ステルスミガリア』! ……ちっ。悔しいけど、ここは一旦距離を取って!」

「……せぇい!」


「はぁ!? なんっで!? こいつ、見えてんの!?」


 南雲は姿も煌気オーラも音さえも消している犬伏をしっかりと捉えていた。

 どういうからくりなのか。


 実はこれ、ベテランの六駆おじさんが残していった置き土産である。


 現在、周囲をぐるりと魔王軍の兵士たちが囲んでおり、彼らは全力で盾スキルを発動させている。

 つまり、この周辺が全て高密度の煌気オーラに満ちているのだ。


 ここで改めて犬伏を見てみよう。


 彼女の『透過外殻ステルスミガリア』は完璧に稼働していた。

 つまり、彼女の移動する場所だけには煌気オーラが一切なくなる。


 何もない場所を狙えば、そこにいるのが犬伏雪香。

 六駆と南雲が犬伏の襲撃に気付いたのも、その原理を応用したためである。


 「やれやれ。逆神くん、本当に恐ろしい戦闘センスだな」と南雲は首を振る。

 同時に「彼が味方で良かったよ」とも思った。


「くっそが! なら、適当に周りのヤツを人質にして!!」


 今回の戦争でほとんど活躍していない、ミンスティラリア屈指の武人をお忘れか。

 お料理大好きなトラさんになっているが、何なら今も胸当てが壊れたので代わりにエプロンをつけているが、彼は強い。

 南雲にも匹敵するだろう。


 そんな彼が、ただ南雲の戦いを「頑張れ! 南雲殿!!」とのんきに応援していると思うのは、いくらなんでもトラさんに失礼である。


「ほらぁ! このひょろっとしたヤツ、いただきぃ!!」

「姿は見えぬが、場所は分かり申した! 煌気オーラ全開、『猛虎奮迅ダズクラッシュ』!!」


「はぁっ!? このネコ、モブじゃねぇし!? ざっけんな、給仕兵じゃないのかよ!!」


 ネコではない。魔王軍親衛隊隊長・ダズモンガーだ。


 彼の『猛虎奮迅ダズクラッシ』は肉体強化した身体から煌気オーラをさらに放出させ、『瞬動しゅんどう』で推進力まで得たうえで敵に突進する、超パワー特化のスキル。

 それを不意に喰らった犬伏は、『透過外殻ステルスミガリア』を破損させてしまう。


「おや。やっと姿が見えた。犬伏くん。最後にもう一度だけ勧告しよう。大人しく投降しなさい。罪は許せないが、できるだけ寛大な処置を私から協会本部に申し入れる事を約束する」


 犬伏の返答は決まっていた。


「うっせー。ハゲ。こっちは浄汰に身も心も捧げてんだよ、バーカ!!」

「なるほど。立派な心意気だ。それだけに残念だよ。情熱の向かう先さえ間違えなければ、きっと立派な探索員になっていただろうに」


 南雲は晴刀と曇刀を交差させた。

 彼の決め技はいくつもあるが、この技も見る者を魅了するとまで言われるほど美しい。


「『雲外蒼天うんがいそうてん紫陽花あじさい』!! 命は取らんよ。まあ、ゆっくり休みなさい。次に目を覚ました時には、全てが終わっているだろう」


 晴刀で南雲は自分の煌気オーラを溶かし雫のような球体に。

 その全てを自在に変化する曇刀で犬伏に撃ち込む。

 まるで、紫陽花の花が咲いたように青と薄紅色の花びらが舞った。


「……くせーんだよ。は、ハゲが」


 最後まで毒を吐く犬伏の根性も立派なものである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 戦闘を終えた南雲に、山根から通信が入った。


『臭くてハゲてる南雲さん。今、いいっすか?』

「なんだ? あと、言っておくが、私は臭くないし、ハゲてもいない!! 確かに色々と気になり始めるお年頃だが、まだ大丈夫だ! 絶対に大丈夫だ!!」


『体臭も脱毛症も、だいたい周りの人から指摘されて気付くらしいですよ』

「えっ!? う、嘘だろう!? 山根くん! 私、えっ!? やーまーねぇー!!」



『本題に入っていいですか?』

「今の私の疑問が本題なのだが!?」



 山根は「大丈夫です、ちょっとだけですから」と言って、話題を終わらせた。

 南雲はもちろん心をモニョっとさせて、「ちょっとってなに!? えっ、始まってるの!?」と激しく狼狽える。


『帝都で将軍の部下が略奪してますよ。今、逆神くんたちが対応してますけど、増援に行った方が良いんじゃないですか? 阿久津も姿が見えませんし』


 南雲は「君ぃ! 現世に帰ったら覚えてろよ!!」と、戦いには余裕の勝利をしたにも関わらず、負け犬の遠吠えみたいな事を言って、駆け足で帝都に向かうのだった。

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