第119話 北門の攻防戦、終結

 阿久津一党の幹部の1人である白馬元気を討ち取った報は、北門にも届けられていた。


「加賀美さん! どうやら、本陣を急襲していた白馬なる者が倒されたようです!」

「本当ですか! やあ、それは良い事を聞きました! 皆さん、こちらも負けてはいられませんよ! 残りの魔兵装もあと少し! 頑張りましょう!!」


 加賀美の鼓舞に北門攻略部隊も最後の力を振り絞る。

 特に素晴らしい活躍を見せていたのは魔王軍遊撃隊を率いるニャンコス。


 彼女の『獅子雷音ニャコルスヘイスト』は、『瞬動しゅんどう』と電撃の複合スキル。

 戦場を風のように駆け回り、700いた『凶獣外殻キラーミガリア』隊の半数以上を彼女が無力化していた。


「ニャンコスさん! あまり無茶をしないで下さい! 女性の肌に傷がついてはいけません!」

「あら、加賀美さんったら、口説いてるのかしら? でも、安心して! ミンスティラリアでは、女の傷はセクシーの証なのよ!! さあ、残りはあそこの一団だけね!!」


「ここは我らが! ガブルス斥候隊! 『煌気電撃銃アストラペー』、一斉射撃!! 我々の実力では、ここの掃討作戦までしかついていけない! 総員、死力を尽くせ!!」


「はっ! 了解です!!」

「やっぱうちの隊長は正直者だぜ!!」

「そういうところ、結構好きだけどな!!」


 ガブルス斥候隊が残った『凶獣外殻キラーミガリア』に蝕まれた兵を打ち砕く。

 倒れ伏した兵に彼はすぐさま駆け寄る。


「うぁ……。ぐがが……」

「しっかりするのだ! この戦争はすぐに終わる! 貴殿らもゆえあっての行動なのは百も承知! このガブルスが共に助命を乞うと誓おう! だから気をしっかり持て!!」


 ガブルスの行為は人間として褒めるべき、褒められるべきものだった。

 だが、戦場で敵に背を向けてはいけない。


「ガブルス軍曹!! 危ない!!」

「『戦斧乱撃ツェクリトゥフェキ』!! ふははは! 裏切り者どもも随分と弱りおった! ならば、そろそろそれがしが相手をつかまつろう!!」


 ルベルバック軍大将、レンネンスールの不意打ちがガブルスを襲った。

 彼に危機を知らせた部下の言葉を受けて、避ける事も可能だったにも関わらず、ガブルスは動かなかった。


「がはは! この程度、痛くも痒くもないわ! なあ、若いの!」

「す、すみ、すみ……ません」


 彼は先ほどまで戦っていた若い将兵を庇うために、敢えて攻撃を背に受けた。

 ガブルス家の家訓は「聞かれた事には正直に答えましょう」である。


 ガブルスは自分の魂に問われたのだ。

 「真に正しい行動とは何ぞ」と。

 結果、体が正直に応えた。それだけの事だと彼は笑う。


「なんだ、お前たち! もう立っているのもやっとではないか!! ふははは!!」

「あなたはもう、口を開かないで結構です」


 満身創痍なのは間違いない、北門攻略隊。

 そんな中、かつてないほど怒りに燃えている男がいた。


「自分は敵だろうと、敬意を持って戦うのが信条です。しかし、その相手がけだもののように人の心を持てない者であれば、話は別です!」

「ほう。異界の者が抜かしよってからに」


「この加賀美政宗、あなただけは許さない!!」


 イドクロア竹刀『ホトトギス』が真っ黒な煌気オーラに染まっていく。

 加賀美は常に相手に致命傷を負わせないように、力をセーブして戦っている。

 それを解除すればどうなるのか。


 諸君には実際にご覧になって頂きたい。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 レンネンスールは巨大な斧を武器に戦う。

 その一撃は人を倒すのには充分な煌気で満たされており、『戦斧乱撃ツェクリトゥフェキ』で相手を近づけさせない戦法を選んだ。


 これは、加賀美の得物が刀だからである。

 レンネンスールも欲と権力に溺れた男だが、元は一兵卒から大将まで成り上った武人。

 戦いのいろはをしっかりと弁えていた。


「山嵐くん!! 頼む!!」

「は、はい! 野郎ども! 最後の大仕事だ!! 『ガイアスコルピウス』!!」


 加賀美は躊躇ちゅうちょなく山嵐に援護を任せた。

 彼らしくない戦法である。

 それは、彼の怒りがなりふり構わぬ位まで高まっている事を意味していた。


「くそぅ! もううんざりだ!!」

「ヤメろ、ヤメろ! 今はもう、泣き言ったって変わりゃしねぇ!」

「そうだ! 現世に帰ったら、みんなでケーキバイキング行こうぜ!!」


 山嵐組でまだ煌気オーラの残っている3人が、『ストーンバレット』で土のバリスタの槍を構築していく。

 ちなみに、ケーキバイキングに行くメンバーに山嵐助三郎はカウントされていない。


「行きます! 一撃必中ぅぅ!! せぇぇぇりゃ!!」

「なにかと思えば、ただの土塊つちくれではないか! この程度のスキル、避けるまでもない!!」


 確かに、山嵐の『ガイアスコルピウス』は避けるほどの威力を保ててはいなかった。

 しかし、お忘れだろうか。

 この戦場に、まだ元気が溢れている者がいる事を。


「アーハハ! ミーの出番だね! ミスター加賀美、こんなとっておきを用意してくれるなんて! サンクス!! イエス、アイドゥー!! 『ウインドキラーシンティラ』!!!」


 土の槍に風の刃が渦を巻き、そこに電撃が加わる。

 これだけの属性が複合されると、全属性対応の防御スキルを展開しなければ防げない。


「くっ、こしゃくなまねを! 『煌気重装盾ズレパーニ』!!」

「斧から手を放しましたね? 申し訳ないですが、自分も全力でいかせてもらいます! 逆神くん! 君に教えてもらった技を借りるよ!! ぐぅぅぅぅぅぅんっ!!」


 レンネンスールが『煌気重装盾ズレパーニ』を展開したと言う事は、現状に限り、こちらは敵からの攻撃に無警戒になれると言う事である。

 その隙さえあれば、加賀美ほどの実力者の手にも余る大技を繰り出す事ができる。


「攻勢零式!! 『紫電しでん雷鳥らいちょう』!! うぉぉぉりゃあぁぁぁぁっ!!!」


 六駆お得意の電撃スキル。

 それを加賀美用に斬撃スキルとしてアレンジした、逆神流の亜種。


 その威力はお墨付き。

 なにせ、本家の六駆が「これもう、僕のオリジナルと同じレベルの威力ですよ!」と褒めていたのだから。


 帝都までの長い道のりで実力者同士に暇を与えるから、このように化学変化を起こしてしまう。

 スキル教えるの大好きおじさんと、自分を鍛える事に余念のない剣士。

 その融合の味はいかがだっただろうか。


「ぐぁあっ!? な、まっ、げぇぇぇぇぇっ!! あああああっ!!」


 煌気によって具現化された巨大な鳥の化身に身を貫かれたレンネンスール。

 彼には答えられそうにないので、味方に聞いてみよう。


「うおぉぉぉぉぉっ! 加賀美さん!! やったぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 山嵐がまず吠えた。

 君も思えば随分と善玉菌みたいになったものだ。


「やりましたよ、ガブルス軍曹! あなたのおかげで、この戦場で死者は出ていません!」

「隊長は我らの誇りです!! それ、みんな! 胴上げだ!!」

「よし来た! そぉれ! ガーブルス! ガーブルス!! ガーブルス!!!」



 それは傷にさわるからヤメてあげて。



「ふぅ。どうにかなったわね。久しぶりに疲れちゃったわ。——ダズモンガー? こっちは片付いたわよ。英雄殿にお知らせしてくれる?」


 ニュンコスが北門の戦いの終結を本陣にテレパシーで伝える。

 さすがの魔王軍の女傑じょけつも疲労困憊で、それを終えると座り込んでしまった。


「アーハハ! ユーたち、だらしないなぁ! ミーはまだまだ元気だよ!!」


 活きの良い盾が1つ残っていた。

 よし、悪魔に連絡しよう。

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