第117話 走る『巨躯外殻』 ギリギリを攻める攻防戦(目に見えない何かと戦っています)

 アタック・オン・リコの脇には、六駆の野戦病院が開設されていた。

 さすがに負傷者も増えて来たが、その分敵兵士の数が目に見えて減って来ている。


「逆神くん。回復した者たちはもう休ませてあげてくれ」

「えっ!? せっかく回復したのに!?」


「私と君の間で、回復の意味が根本的に違う気がするんだよね」

「嫌だなぁ! 一緒ですよ! ローソンでからあげクンが売れたら補充する感じでしょ?」



「ヤメてくれるかな!? 私ね、監察官の中でも穏健派で知られているんだよ!?」

「僕の目指すところは隠居です! なんか字面が似てますね!!」



 南雲は不当にイメージを低下させられている事実を知り、脳裏には地獄に垂らされた糸を必死に登る自分と、その足を笑顔で引っ張る六駆の姿が浮かんだと言う。


 そんな南雲に監察官室から情報が入った。


『南門からまた大軍が来ますよー。数はだいたい6000から7000。ただ、今回はちょっと特別っすね。白馬元気がいます。阿久津パーティーの1人です。元Aランク探索員で、長いことタンク役やってた人です』


 南雲は山根からの通信で、「そろそろ終盤戦か」と察した。

 自分のパーティーメンバーを戦場に出して来るのは、阿久津のやり方を考えるとクライマックスが近い事は明らか。


 異世界人を駒のように扱いここまでの戦局を維持して来た敵のやりようを、南雲は理解していた。


「南雲さん」

「ああ。分かっているとも、逆神くん。言わなくとも伝わっている」



「いえ。その白馬さん。なんか泣いてますけど」

「えっ!? そうなの!? それは意味分かんない! お腹痛いのかな!?」



 7000の兵の戦闘を走る白馬元気。

 名前にあるまじき行為、号泣しながら全力疾走でこちらへ向かっていた。


 ある意味では元気モリモリである。


「なんですかね、アレ。妙な煌気オーラがあの人から出てますけど」

「うん。確かに。現世のものではないが、ルベルバックのものとも微妙に違うな」


 反乱軍の賢者たちが「あれ何かしら」と囁いていた頃、白馬は件の兵器を起動させようとしていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 白馬は悔やんでいた。

 阿久津の本質を見抜けなかった自分の愚かさにである。


 犬伏はバカだから、多分最後まで気付かないだろうとも思った。

 自分たちは、あの狂人が楽しむゲーム盤の上にいる、レアキャラなのだ。

 だから、普段は大事にされていた。


 だけど、レアキャラだって駒は駒。

 使いどころがくれば、何の躊躇もなく盤上にさらされる。


 そこで不平不満を叫んだら「なんだこいつ」と冷たい瞳で見られ、盤上から払いのけられてそれで終わり。


 時すでに遅し。

 こうなっては、もう、戦場で大暴れするしかない。


「『巨躯外殻タイタンミガリア』、着装!! ぐぉぉぉっ! 痛ぇぇっ! ぐぉぉぉぉぉっ!!!」


 白馬の体がみるみるうちに大きくなっていく。

 その姿はまさに巨人。


 身の丈15メートルはあろうかと言う、巨大な姿へとその身を変えた。


 アタック・オン・リコの名前で既にギリギリを攻めているのに、巨人化するスキルとか本当にヤメて欲しい。

 こうなると、早いところ白馬巨人を倒してもらうしかない。


 頼むぞ、南雲修一。逆神六駆。

 巻きで済ませてくれ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「おお!! 見て下さい! 進撃の巨人みたいですよ、南雲さん!」



 おい、六駆。やめろ。



「ううむ。あれは煌気を体に注入して、無理やりに巨人化させるスキルのようだな。君の『注入イジェクロン』と原理は似ているが、用途が惨たらしい。相当な苦痛が伴うだろうに」


「失礼。南雲殿。あれはけいの国でも運用されているスキルなのか?」


 スキル大好きチーム、集結。

 シミリートもアタック・オン・リコへとやって来た。


「いえ、とんでもない。探索員協会はあのように非人道的なスキルは使いませんよ」

「僕はあの手のスキル、10個は持ってますけどね!!」



「違うんです! 逆神くんは探索員協会出身じゃないんです! 信じて下さい!!」

「ふむ。分かっているとも。英雄殿は特別製だ」



 ワイワイやっていると、監察官室の山根くんからツッコミが飛んでくる。


『あの、盛り上がっているところ恐縮なんですけど。進撃の白馬が魔王軍の兵たちをバシバシ蹴り飛ばしてますよ? お借りしているのに、あれはまずいんじゃないですか?』



 おい、山根。やめろ。進撃とか言うな。



 南雲監察官、「それはいかん」と我に返る。

 そんな彼の肩をポンポンと叩く者がいた。


 南雲は振り返らない。

 それが誰だか分かっているから。

 ついでに目がキラキラしているだろうと分かっているから。


「南雲さん、南雲さん!」

「逆神くんは負傷者の治療にあたって! 絶対ダメだよ! 君がやろうとしている事、私だって分かるようになって来たんだからな!!」



「僕もちょっと巨人化して戦うだけですよ! 嫌だなぁ!」

「それがダメだって言ってるんだよ!! 本当に嫌だな、君の思考は! ピンポイントで嫌なところを撃ち抜いてくるんだから!!」



 南雲のファインセーブが飛びだしたところで、彼らは短い相談をする。


「ここは私が出ようか。あの程度、どうとでも出来る」

「ふむ。意見具申をよろしいか? 南雲殿が出ると、この場の最高責任者が英雄殿になるが、それは構わないのかね?」


 非常に構うところ大であった。


「じゃあ、南雲さん。アタック・オン・リコ使います? 『苺大砲いちごキャノン』だと殺しちゃうかもしれないですけど。さっき僕が使ったみたいに、スキル砲としても運用できますから」


「久しぶりに良いことを言ったな、逆神くん! では、椎名くんに頼もう! 彼女の弓スキルは大したものだ! 狙撃手としても能力は生かせるだろう!」


 ここまでアタック・オン・リコの中で暇していたクララ。

 まさか戦争になってもぼっちを喰らわせられると思っていなかった彼女に、大役がやって来た。


「あたしの出番!? マジ!? それ、ちゃんとしたヤツ!? ダイジェストとかにならない!?」

「みみっ。椎名さん、落ち着くです。芽衣も特に何もしてないです」


「芽衣ちゃんは分身したりできるじゃん! あたしなんかさー。ルベルバックに来てほとんどバトルに参加させてもらえてなかったしさー。もう、ずっとこのままなのかにゃーとか思っててさー」


「みみっ! 椎名さん! 早く何か撃ってくださいです!! 近づいてきます!! おっきいのがこっち来るです!! みみみみみみっ!!!」


 クララの闘志が燃え上がる。

 今こそ敵を砕けと輝き叫ぶ。


「よぉし! パイセン、頑張っちゃうにゃー!」


 クララが立ちあがる拍子に、足がシフトレバーに触れた。

 結果、アタック・オン・リコが急発進して六駆を撥ねた。


「ちょっとー。クララ先輩、ヤメてもらえます? なんか、異世界転生周回者リピーター時代を思い出す衝撃だったんですけど。僕じゃなかったら死んでますよ?」


「にゃははー。ごめん、ごめん! よぉし! 芽衣ちゃん、あたしたちの出番はこれからだ!!」

「甚だ不安です。ここが一番安全だと思って引きこもってたのに、こんなの詐欺です」


 巨人と要塞の戦いが始まる。

 危険を多く孕んでいるので、本当に巻きで倒して欲しいと切に願う。

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