第116話 突破口 宝石のような梶谷京児 帝都北門
その頃、帝都・ムスタインの北門。
「負傷者は無理をしないでください! ニャンコスさん、怪我人を下がらせて!」
「加賀美さん、安心して! 私たちだって英雄殿に仕込まれたスキルがあるのだから! 少しの怪我くらいなら、衛生兵に任せられるわよ!」
『
当然である。
加賀美が『
前衛を務めてくれている魔王軍の中にも負傷者が出始め、加賀美は決断を迫られる。
このまま後退して本陣からの援軍を待つか。
強行策に打って出て『
前者を選んだ場合は、さほど悲劇的な結末は待ち構えていないだろう。
例えば、六駆を召喚したら、きっと謎のスキルで『
だが、彼の存在は反乱軍においても唯一無二であり、そのジョーカーを戦いの中心から連れ出すのは愚策であると、加賀美は分かっていた。
ならば、『
通常の兵を1とすれば、魔装具に身を蝕まれた兵は7から8くらいの実力に無理やりパワーアップされている厄介な存在。
だが、それでもダンジョンに出現するモンスター程度の強さなので、倒すことは難しい事ではない。
「……くっ。やむを得ないか!」
ここで問題になっているのは、加賀美の優しさだった。
彼らにも家族がいて、怪我をすれば泣き、まかり間違って命を落とせば絶望に暮れる者たちが故郷で待っている。
そう思うと非情になり切れない。
リーダーとして優秀な加賀美だったが、舞台がダンジョンから戦争に変わるとその優しさが枷となり彼の歩みを遅くする。
「ニャンコスさん! 衛生兵の皆さんは、どの程度の傷までなら回復させられますか!?」
「ふんっ! てりゃ! そうね、彼らが使えるのは『
苦渋の決断の時、
そう思われたのだが、この戦場で最もどうでも良いと考えられて既に戦力にカウントすらされていない男が突破口を見出すのだから、戦いと言うものは分からない。
「アーハハ! もうどうにでもなればいいよ! 『ドンナー・シュラーク』!!」
梶谷が、ヤケクソになって落雷スキルを撃った。
彼程度のスキル、しかもそれがルベルバック軍の基本戦術である電撃スキルであれば、まさに焼け石に水。
と、誰もが思った。
次の瞬間。
「がぁぁっ! き、き、きききき…………」
『
その様子を目撃していた加賀美。
放っておけばいいのに、梶谷の身の安全にまで注意していた彼の優しさが功を奏する形となった。
彼はすぐに号令をかける。
「全兵に告ぎます! 敵の弱点は背中に背負っている魔兵装の箱! そこに電撃スキルを撃ちこんで下さい!! どうやらそれで無力化できるようです!!」
梶谷京児、人生において最初で最後の大金星を挙げた瞬間だった。
「アーハハ! ユーたち、ミーに続きなよ!
その大金星を自分で汚していくスタイルなのが、梶谷京児。
加賀美率いる北門の反乱軍が反撃ののろしを上げる。
「守勢4式! 『
加賀美はあくまでも攻勢スキルではなく、守勢スキルで対応する。
だが、相手を倒すのではなく、無力化するのであればこれで充分。
「私たちも続くわよ! まずは先陣を務めるわね! 『
「おおっ! 我らも遊撃隊長に続け!」
ニャンコスの得意技も素早さ特化の電撃スキル。
南雲と六駆の話し合いで「電撃スキルメインの人は北門に回しましょう」と、敢えて本陣から遠ざけた事が吉と出るとは、彼らも思わなかっただろう。
ところで、六駆くんに我々は伝えたい。
戦場でも優しさは生きるのだと。
加賀美の敵兵であってもその身を慮る姿勢が、梶谷さえも見捨てない心意気が、突破口を開くことだってあるのだ。
その願いが届かない事は百も承知である。
◆◇◆◇◆◇◆◇
皇宮では、相変わらず笑いが止まらない阿久津と、それを見て呆れる犬伏の姿があった。
だが、1人ほど危機感を覚えているパーティーメンバーがいる。
その男の名前は、白馬元気。
かつて探索員時代には肉体強化スキルで阿久津パーティーの前衛を務めていた、巨漢である。
名前が元気の彼が、元気を失くしつつあった。
「くっははは! 北門の連中も『
「うっわ、またエグいこと考えるねー。レンネンスールに伝えるわー」
犬伏は基本的に危機意識が低い。
それは探索員として、時には武器になるが、自分の置かれている状況を客観視できない弱点とも言える。
対して、白馬は危機管理能力に長けている。
長年、阿久津と出会う前から前衛特化で探索員をしていた経験からか、「この戦局はまずいな」と言う雰囲気を敏感に察する事ができた。
「な、なあ。あっくん? ちょっとだけ、ヤバくね?」
「あぁ?」
「い、いや。北門に兵を割いて、これで残りがさ。戦える兵士に限れば、もう15000くらいしかしねぇじゃん? ま、マズくねぇかなって」
ルベルバック軍の兵力は60000。
だが、それは衛生兵や幼年学校の学徒動員まで含めた数字であり、実際の数は白馬の言う通り、そろそろ10000を切ろうとしていた。
一方、悪魔……六駆が連れて来たミンスティラリア魔王軍の被害状況は負傷者が数千出ているものの、これまた六駆がすぐに治療するため目減りしない。
「あぁ、そうだな。そろそろこっちも、大物を出していく頃合いかもしれねぇ」
そう言って、阿久津は近衛兵に装備を運んでくるように申し付ける。
すぐにそれは届いた。
『
「白馬ぁ! こいつ使って、敵の要塞ぶち壊してこいよ! できんだろぉ? お前ならよ! 頼りにしてんぜぇ、我がパーティーの前衛くん?」
「えっ。あ、オレが行くのか!?」
「そう聞こえなかったんなら、俺の言い方が悪ぃんだろうなぁ?」
白馬は気付き始めていた。
先ほどまでは、自分たちにとってルベルバック軍は駒に過ぎないと考えていた彼だが、阿久津にとっては自分もその駒に過ぎないのだと。
「は、はは……。行ってくる」
自暴自棄になった者ほど実力以上の能力を発揮するのがこの物語のお約束。
何もかも理解した白馬元気。
7000の兵と共に、出撃する。
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