第114話 科学戦 秘密兵器ならミンスティラリアだって負けてはいない 帝都・ムスタイン 郊外

 ルハイオ湖の拠点から戦況を見守る南雲。

 彼の元へと新しい凶報がもたらされる。


『南雲さん。帝都の南門が開きました。とりあえず、確認できるだけで10000人くらいの兵がアタック・オン・リコ目掛けて突撃して来ます』


 ヘンドリチャーナの持って来てくれた淹れたてのコーヒーを一口。

 南雲は落ち着いた口調で指示を出す。


「逆神くん。ミンスティラリアの皆さんに応戦してもらえるか?」

「はいはい! 伝えてきます!」


 自分が戦線に出られない事に不満を抱えながらも、この戦争独特の空気感が大好物な六駆おじさん、小間使いにされてもニコニコしている。

 そのままのニコニコフェイスで南雲の言葉も大声で伝えた。



「敵兵が10000来ますから、こっちも10000ほど出てもらえますか? 大丈夫です! 死ななきゃ僕が回復させてあげますから! 南雲さんは死ぬ気で行って来いって言ってましたけど! ははは!」


「ぶふぅぅぅぅぅっ!!! そんな事言ってないじゃない!? 逆神くん!!」



 これ以降、南雲は伝令役を廃止して、自分で指示を伝える事にした。

 今回は六駆をチョイスした南雲のミステイクと言わざるを得ない。


 ルベルバック軍の科学兵器と、ミンスティラリア魔王軍の逆神流スキルの応戦が始まった。

 『煌気電撃銃アストラペー』をはじめとした未知の兵器に最初こそ押され気味な魔王軍だったが、彼ら魔族はフィジカルが人よりも強靭に出来ている。


 さらに逆神流スキル、もちろん初等クラスのものだと注釈は付くが。

 だが、基礎スキルだって逆神流。その強さは世界最強。異世界最強。

 時間が経つにつれて、進軍してくるルベルバック兵の勢いは衰えていく。


 が、ここで六駆も予想していないものが登場した。


「グァオゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」


 耳をつんざく叫び声。

 見れば、南門からバカでかい機械仕掛けの恐竜が歩いてくるではないか。


 サービスで炎を吐きながら。

 これには魔王軍も堪らず、負傷者を連れて後退する。


「南雲さん! 南雲さん!! なんかティラノサウルス出てきましたよ!!」

「……本当だ。世の中、頭のおかしい人って意外と多いね」


「僕が行って来ても!?」

「目を輝かせないでくれ。胃が痛む。逆神くんは回復役でしょうが。私が行く」


 『双刀ムサシ』を携えた南雲。

 そんな白衣の指揮官に待ったをかけるのは、これまた白衣の研究者。


「待ちたまえよ、南雲殿。ここは私の研究の成果を実証試験するにもってこいだ。悪いようにはせんから、任せてもらえんかね? けいがまだ出るには早かろう」


 シミリートの隣には、「キィィィィィィ」と咆哮する人工竜・リノラトゥハブ改。

 異世界同士の科学戦が幕を開ける。


 ちなみに、南雲はまだ「良いですよ」とは言っていない。

 総司令官の胃腸は戦争を終えるまでもつのだろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「シミリートさん、あれやってくださいよ! 溶岩石ガガガってやるヤツ!!」


 六駆は『気功風メディゼフィロス』を超広域展開で使用しながら、メカティラノサウルスとリノラトゥハブ改の戦いを見学する気満々だった。


「くくっ。英雄殿は根っからのバトルマニアだな。私としても、ギャラリーが英雄殿とは望むべくもない。ぜひ、意見を拝聴させてくれ。今後の改良材料にしたい」

「任せてください!!」


 南雲はその様子を見ながら、「あ、これ私が何言っても状況変わらないヤツだ」と理解したので、再びアタック・オン・リコの中へ。

 北門の戦いと、監察官室から逐次入って来る山根が操るサーベイランスの情報を受け取る事に専念する。


 六駆がメカティラノサウルスと呼ぶ『煌気狂竜ティガネラス』と、人工竜・リノラトゥハブ改がついに相対した。

 帝都から7キロ、アタック・オン・リコから8キロの地点である。


 六駆は周囲に流れ弾で被害が出てはならぬと『超石壁グウォールド大囲いエンサルク』で2体の竜を防御壁で包むようにスキル展開。

 遠隔発現だが、常に煌気オーラを注いでいるので頑丈な舞台が完成する。


「これはこれは。英雄殿、感謝する」

「いえいえ! 僕も升席で観戦できて嬉しいので! 思い切りやってください! あの壁なら、僕の全力スキルでもギリギリ壊れませんよ!」


 つまり、この世にはあの石の壁を壊す手段はないと言う事か。


 『煌気狂竜ティガネラス』が炎に鉄の弾を交えたブレスを吐き出した。

 リノラトゥハブ改はそれを受けて少しふらつく。


「ああ! 攻撃が被ってる!! これは良くないなぁ! 絵面が良くない!!」

「くくっ。英雄殿。あれはリノラトゥハブではない。リノラトゥハブ改なのだよ」


 シミリートはそう言うと、端末を取り出して操作する。

 1秒のラグもなく、リノラトゥハブ改が「キィィィィィィッ!!」と咆哮し、目に見えるレベルの電流を帯びた尻尾を振り回す。


「おおお! すごい! あんな事もできるんですか!」


「英雄殿。あちらの人工竜は自律型のようだ。そして、けいがダンジョンで戦ったリノラトゥハブも自律型だった。対して、今回私はリノラトゥハブ改を操作している。自律型のメリットは、操作する者、もしくは搭乗者がいなくとも稼働できる面にある。ならば、私はどうして敢えて自分で操作していると思うね?」


 六駆は即答する。

 その間に、リノラトゥハブ改は冷気を帯びた爪で『煌気狂竜ティガネラス』の胸を抉る。


「そりゃあもう、決まってますよ! 操縦者の技量が高ければ高い程、自律型との差が顕著になりますね! 今のシミリートさんみたいに!」

「くくっ。お褒めに預かり光栄の極み。では、仕上げにとっておきをお見せしよう。これは莉子殿のスキルを参考にさせてもらったのだよ」


 シミリートがポチポチと操作をすると、リノラトゥハブ改は両足を地面に突き刺し、動かなくなる。

 それを好機と見るや、『煌気狂竜ティガネラス』は炎の鉄球を浴びせ続ける。


「ものすごい勢いでやられてますけど? 耐久力もすごいですね」

「いや、これで良い。まだ、あまりの威力に予備動作が多くなるのが課題でね。英雄殿、確認するが、全力で撃っても防壁は無事なのだね?」


「もちろん、保証します」

「くくっ。結構。では、リノラトゥハブ改。放て!」


 「キィィィィィィ」と哭いた人工竜は口を開けて、中からカノン砲が出て来る。

 既に充填を終えているらしく、凄まじい煌気オーラの塊がその時を待っていた。


「キィィィィィィッ! ——ガォン!!」


 なんだか見たことのある苺色の熱線が高速、高密度で放たれた。

 そのまま首を右から左へと動かすリノラトゥハブ改。

 『煌気狂竜ティガネラス』は成す術もなく、爆発四散した。


「おおおお!! すごいですね! 僕、ちょっと『超石壁グウォールド大囲いエンサルク』の出力上げましたもん! いやぁ、お見事なスキル!!」

「くくっ。難点は、1度撃ってしまうと煌気の補充に1日かかるところだがね。ちなみに、名前はオリジナルに敬意を表して『リコブラスター・15式』と言う」


 六駆はキャッキャとはしゃぎながら「きっと莉子も喜びますよ!」と言っていたが、その事実を知った彼女に莉子パンチを浴びせられる事になるのは、戦争終結後のことである。

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