第112話 陸戦 悪意の『凶獣外殻』 帝都・ムスタイン 北門
少し時間は巻き戻る。
加賀美と山嵐組。ガブルス斥候隊。
それに加えてミンスティラリア魔王軍遊撃隊。指揮官はニャンコス。
眼前には帝都北の城門。
守りが薄いとはいえ、かなりの数の兵士たちが待ち構えている。
既に両陣営、逃げも隠れもしない状況。
突入のタイミングを窺い、けん制し合っていた。
「ガブルス軍曹。彼らが身に付けている装備は何でしょうか? あなた方の装備とかなり違うように見えますが」
加賀美は冷静に敵軍を分析していた。
現世ではパーティーのリーダーを務める優秀な探索員。
まず、気になったところを徹底的に突き詰める。
それは、彼のこれまでの正しい経験値が嗅覚として発現している証拠である。
明らかに異質な装備。警戒は必要以上にしても損はないと彼は考えた。
「あれは恐らく、皇帝直属の親衛隊に与えられたと言う最新の魔装武具です。軍の内部でも一部の者だけしか知らない秘匿事項だと耳にした事はありますが、申し訳ありません。見るのはこれが初めてであります」
ガブルスは元々、現世侵攻軍に配属されていた身。
つまり、阿久津の創る新たな軍には不必要とされた人間。
彼にとって幸運だったのは間違いないが、情報を得るべき職務を果たせず沈痛な面持ちを見せる。
そんなガブルスに助言するのは、別の異世界のネコ。
失礼。ライオン。女傑と恐れられているニャンコス。
「私たちの軍にも似たような発想の装備があるわよ。察するに、
『聞こえているよ、ニャンコス殿。こちらにも映像が届いた。君の推測は間違っていないだろう。ただし、注意した方が良い』
シミリートの通信の途中で、轟音が響いた。
敵の先制攻撃だろうか。
いや、違う。
六駆くんのはっちゃけパンチの音である。
皇帝親衛隊の指揮を執るのは、陸軍大将、レンネンスール。
彼はこの落雷のような地響きを進軍の合図とした。
「貴様ら、『
「了解! がっ!? た、大将!?」
「あ、ああ、頭が割れる!」
「が、がぁぁぁぁっ! ぐらぁぁぁぁぁっ!!」
レンネンスールの指示で『
一体何事が起きたのかと、さすがの加賀美も一瞬戸惑いを見せた。
その隙に、非人道的な兵器が目を覚ます。
『あー。聞こえているかね、北の門の諸君。
そこまでの説明で、加賀美たちには充分な情報が伝わった、
目の前で、悲痛な叫びを挙げて巨大な半獣人のような姿に変わっていく兵士たちが、続々と自軍の防衛ラインに向かって進み始めたからだ。
「全員、聞いて下さい! 敵とは言え、彼らは明らかに意志と反する行動を強いられています! なるべく殺めないで、あの魔装具を破壊する事に専念して下さい!!」
「ガブルス斥候隊、了解! 加賀美さんのお心遣いに感謝いたします!」
「ミンスティラリア遊撃隊も、分かったわね! こんないい男の命令なんだから、しっかりと守って見せましょう!」
両軍が交わり、北の門は予想外の乱戦へと向かい始める。
そんな中、一足お先にクライマックスを迎えていた者たちがいた。
「や、山嵐組ぃ! ここでいいところを見せれば、現世に戻ってやり直せる!! 死力を尽くすぞ!! なあ、みんな!!」
「「「うるせぇ! こっちは生き残るために死力を尽くすんだよ!!!」」」
「くそぅ! くそぅ!! 加賀美さんのところが一番安全だと思ってたのに!」
「山嵐組長。オレ、手元に実家の畳があったら、それであんたをぶん殴ってます」
乱戦に巻き込まれる形で早速孤立した、山嵐組。
だが、慌てないで欲しい。
彼らもクライマックスだが、もっと派手なクライマックスを迎えている者がいた。
「アーハハ! ヘイ、ユーたち! ミーを守るように陣形を! とっておきのスキルをお見舞いしてやろうぜ! ユー! ……ヘイ? ユーたち、どこだい?」
ファビュラスダイナマイト京児。
そのパーティーメンバーは、頭領のニワトリを既に見限っていた。
5人全員が加賀美と一緒になって、戦線を維持している。
「アーハハ……。ワッツ!?」
「ぐらぁぁぁぁっ! 止めて……! 私を止めて……!! ぐらぁぁぁっ!!」
「ががががががががっ!!」
『
享年25歳と付け加えるべきだろうか。
◆◇◆◇◆◇◆◇
アタック・オン・リコでは、南雲が状況の把握に追われていた。
北の門の戦いは現状、五分と五分。
だが、それもいつまで保たれるかは不透明である。
南雲も、加賀美の判断を批判するつもりはない。
さりとて、相手は心を奪われた兵士たち。自制心はあっても、自制が利かない。
人としては正しいが、戦局としては不運な事に、反乱軍には心があった。
増援を出すべきだろうか。
いや、それは早計が過ぎる。
だが、ガブルス斥候隊からの情報によれば、今も続々と北の門には『
精神的な優位を譲って、さらに数の優勢さえも失えば、危険な先陣を引き受けてくれた加賀美たちの身にも危険が迫る。
「南雲さん! 僕の出番ですか!?」
監察官きっての知恵者、一瞬だけ悪魔の囁きに
だが、踏みとどまった。
「いや! ここは、第2陣を投入する! 飛竜隊は少々予定よりも早いが上空からの攻撃に移ってもらえるか!! 民間人はサーベイランスで識別可能だから、ゴーグル上に青いポイントが表示されている者は非戦闘員! このように難しい指示を出して心苦しいが、赤いポイントの敵のみを討ってくれ!!」
南雲の読みは今のところ、大きく外れてはいない。
1点だけ見落としていた部分があるとすれば、阿久津浄汰の快楽主義の前には、他者の存在など自分の目的に使う以外の価値を見出さないと言う狂気である。
『こちらダズモンガー! 南雲殿、拝承いたした! 微力を尽くしますぞ!』
『小坂莉子です! わたしも頑張ります!! 六駆くん、見ててねっ!!』
この頼もしい応答に、南雲は背中を押された気持ちになった。
「南雲さん、南雲さん! 僕、空からでもイケるんですけど!? どうですか!?」
「逆神くん。今の私たちの使命は、頼れる仲間たちを信じる事。違うかな?」
違う。
南雲の本心はこうである。
「君を野放しにしたら、帝都を焦土にするでしょう!?」
これが正しい彼の心の叫び。
「なるほど! 確かに、莉子がどこまで戦えるかを見るのは楽しそうですね!!」
六駆にとって、莉子は既に守ってあげなければならない存在ではなかった。
背中を任せられる相棒の実力を信じているからこその発言である。
良いことを考えているのにそう聞こえないのは彼の日頃の行いによる副作用なので、どうか許してやって欲しい。
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