第111話 開戦 戦いの鐘を鳴らすなら任せとけ

 明けて翌朝。

 ガブルス軍曹から報告が入った。


「総司令官! 帝都に動きがあります! 煌気オーラが大量に1か所へ集まっていると見張りの者が!」


 南雲はモーニングコーヒーを片手に、静かに頷いた。


「うん。あちらが先に仕掛けて来るつもりなのかな。まあ、敵が準備に時間をかけてくれたおかげで、こちらとしても対応策は山ほど作る事ができた」


 アタック・オン・リコの中では、南雲を中心に主要メンバーが軍議を開く。

 南雲、加賀美、キャンポム、莉子とミンスティラリア代表でダズモンガー。

 そこに悪魔……六駆の姿はなかった。


 理由は簡単である。



 「僕が行って、ばばーっと片付けてきますよ!」しか言わないからだ。



 自分でミンスティラリアに軍備拡大の交渉へ行ったのに、いざ開戦が迫ると「やっぱりここは僕だけで大丈夫ですよ!」とか、支離滅裂な事を言い始める。


 「昨日と言ってる事違うじゃん」現象は、おっさんが持つレアスキル。

 最近はあまり見かけなくなってきたが、職場に1人くらいは存在するので、このスキルの使い手と遭った時は注意されたし。

 その言葉を鵜呑みにすると、高確率で痛い目を見る。


「どうしますか? 敵軍の動きを見てから、迎撃戦としますか? こちらも軍備の数ならばほぼ同数。質で言えば遥かに勝っておりますが」


 キャンポムの意見も悪くはなかった。

 だが、南雲はミンスティラリア魔王軍に頼り切る戦法を良しとしない。

 彼は監察官きっての知恵者で、常識と良識を持ち合わせている男。


 最近はコーヒー噴きながらツッコミするおっさん化が進んでいるが、本質的には良心と効率の両立を目指す。


「いや。相手の立ち上がりを待っていては、消耗戦になる可能性が高い。できれば、敵味方、双方の損害は最小に抑えたい。こちらから打って出よう。北の門から陸上部隊を突入させる。加賀美くん、予定通り指揮を頼む。山嵐組も連れて行ってくれ」


「分かりました。魔王軍のニャンコスさんが率いる遊撃隊と、出来るだけ注意を引き付けてきます!」


「ガブルス軍曹。案内と補佐は君の斥候部隊が務めろ。我らの祖国を取り戻すための戦いの一番槍を任せる」

「はっ! キャンポム指令! このガブルス、命に代えても遂行します!!」


 第一陣を投入した後は、臨機応変にいくつか用意した策を発動させていく。

 チーム莉子は今回、分散させて各部隊に配属させる事となった。


 ダズモンガーの飛竜隊には莉子。

 アタック・オン・リコにクララ。

 後方待機の予備戦力として芽衣。


 六駆も後方待機。監視付きで。

 悪魔の監視と言う一番難しいミッションを担うのは我らが監察官、南雲修一。



 六駆くんを抑えるのが最大のミッションって何だ。

 誰と戦っているんだ、お前たち。



 キャンポム隊は戦いの終局が近くなった頃合いを見計らって、皇宮へ突入し、現皇帝ポヨポヨの身柄を確保する。

 クーデターになってしまうが、そもそも現皇帝の政権も侵略と策謀によって樹立されたため、のちの皇帝人事等は国が落ち着いてからすれば良い。


 また、軍部に残っている将官、特に将軍であるエッカミルの暴挙を事前に止めるのもキャンポムの役目。

 重責を担うため、必要に応じて南雲のサポートが行われる予定である。


 軍議の締めくくりに、南雲が言った。


「諸君、これは戦争だが、殺し合いではない。特に現世から来た者は、探索員が犯した過ちを正すべき戦いだ。出来るだけ、相手を傷つけないでくれ。そして、出来るだけ、いや、手前勝手な言いようだが、君たちは傷つかないでくれ。たった1人の謀略で血を流すなんて、そんなバカな話はない!」


 南雲の号令に、全員が黙って頷いた。

 そして、各々が背負う任務のために、アタック・オン・リコから駆け出していく。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃の六駆くん。


「はぁぁぁぁぁっ! 『瞬動しゅんどう三重トリプル』!! からのぉ! 『破断掌デストロイ』!!」


 作戦会議に入れてもらえなかったので、やる事もない。

 だったらとりあえず「僕、いつでも行けますよ!」と言うアピールをすればいいじゃん、と、ほんわかぱっぱな思考が導き出し、たった今地面にクレーターを作ったところである。


 その衝撃音は凄まじく、100キロ以上離れた異界の門前の駐屯地まで聞こえたとか。

 つまり、アタック・オン・リコにはもちろん、帝都・ムスタインにもばっちり聞こえていた。



 何やってんの、六駆おじさん。



 総司令官の南雲が血相を変えて走って来る。

 続いて、地面が月の表面みたいになっている様を見て「ああ……」と天を仰ぐ。


「何をしとるんだね、逆神くん!」


 南雲よ、それはもう言った。

 君は次の言葉を続けると良い。


「いやぁ、ちょっと準備運動を! 久しぶりの戦争ですからね!! ミンスティラリアの内乱以来だから、1ヶ月と少しぶり!!」


「戦争ってそんなに頻繁に起きないよ? いいから、君はアタック・オン・リコの中にいてくれ! ちゃんと出番作ってあげるから!! と言うか、独りにならないでくれるか!? くそっ! 私としたことが!! どうして小坂くんを現場指揮官として出したんだ!!」


 南雲監察官、早速痛恨のミスを犯している事に気付く。


 そうなのだ。

 逆神六駆を制御できるのはチーム莉子のパーティーメンバーのみ。

 とりわけ、小坂莉子の運用能力の高さは凄まじい。


 そんな彼女を「かつてダズモンガーと組んで闘った」と言う事情で相性の良さを優先して、飛竜隊の現世からの責任者に任命してしまった南雲。


 今さら気付く。


 彼女は何があっても、逆神六駆とカップリングさせておくべきだったと。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こちらは帝都・ムスタインの皇宮。


 もちろん、先ほどの衝撃音はここにも届いていた。


「あっくん、すっげぇ音してんだけど! 南雲って実はヤべーんじゃね!?」

「いや、つーか地震っしょ? 生き物が起こす衝撃じゃなくない?」


 白馬はくばは見当違い。

 南雲修一は充分ヤベー実力を持っているが、まだ人間の括りから出てはいない。


 犬伏いぬぶせの見解、気持ちは分かる。

 一撃で地面を月面に変えるような攻撃に人が関わっていると考えられないのが普通。


 阿久津は首をコキコキと鳴らしながら「はっはぁ!」と歓声を上げた。

 まさか、この男には分かったと言うのだろうか。

 逆神六駆の持つ、この世に存在が許されるかどうかの瀬戸際を彷徨う凶悪な力について。


「こいつぁ、アレだな。どっかの異世界製の科学兵器を試し撃ちしたんだろ!」



 阿久津。違う、そうじゃない。



「帝都防衛システム、『自動拡散防壁ケレブリス』を展開しろ! 後は、手筈通りだ。北の門のところにゃ、『凶獣外殻キラーミガリア』装着させた軍を配備! 指揮は大将のレンネンスールにやらせとけ!」


「んじゃ、オレ『自動拡散防壁ケレブリス』の方やるわ!」

「はぁ? だっる。レンネンスール生理的に嫌いなんだけどー。はいはい、命令通信しときますわー」


 阿久津は答えにたどり着けなかったが、結果として防衛力を高める判断をする。


 六駆くんの準備運動で、戦いの幕が上がる。

 本当に何をしているのか。

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