第110話 阿久津浄汰の決戦前夜 帝都・ムスタイン 皇宮

 一方、帝都・ムスタイン。


 阿久津あくつ浄汰じょうた。31歳。元Aランク探索員。

 現在はルベルバックを陰から支配する快楽主義者。


 そのパーティーメンバーである、白馬はくば元気げんき。28歳。

 同じく、犬伏いぬぶせ雪香ゆきか。27歳。

 両名とも元Aランク探索員。


 3人は皇宮を根城にしており、先代までの皇帝が使っていた絢爛豪華な装飾品に囲まれる生活を望む現皇帝・ポヨポヨを離宮に追い出し、軍事基地として使っていた。


 彼ら3人が元々のパーティーであり、猿渡さるわたり秀麿ひでまろはのちに加わったサポートメンバー。

 阿久津、白馬、犬伏の3名ともが南雲に匹敵する力をこの2年で身に付けていた。


 軍事国家ルベルバックの技術力を利用するだけの知能と適性があった事が、阿久津一党にとっては幸運であり、ルベルバック人にとっては不運であった。


 特に阿久津は、ルベルバックの武器を自分のスキルに転用する術を開発し、条件付きであるがSランク探索員を凌駕する実力を手にするに至り、ついに現世へと侵攻を決意したのが先日の事。


 阿久津にとって、探索員生活は暇潰しのようなものであり、命を懸けたゲームはそれなりに充実していた。

 だが、過分な力は精神を狂わせる。


 ダンジョン攻略で充分な興奮を味わえなくなった彼は、たまたま日須美ダンジョンからルベルバックへと到達し、そこで見た機械文明に心を奪われた。


「これだけの力を得て、現世の監察官どもに一泡吹かせたらさぞかし面白いだろう」


 実に短絡的な犯行動機だったが、物事はシンプルなほど芯が太くなるもの。

 現実的に日須美ダンジョン侵攻作戦は成功寸前まで持ち込めていたし、彼の計画通りに事が運ぶはずだった。



 1人のイレギュラー因子さえいなければ。



 阿久津は情報集積メカ・ランドゥルを自分専用に改良しており、それは目となり耳となり、さらには攻撃の手段となる彼の有能な相棒。

 その相棒の1基が、とんでもない情報と対峙していた。


「……なんだ、ありゃあ。おいおい。冗談だろう」


 以前にも言及したが、逆神六駆は煌気オーラ感知に関して少しばかり苦手意識がある。

 アクツ・ランドゥルが上空の雲よりも高い場所から自陣を視察している事に気付いていなかった。


「どうしたよ、あっくん。なんかおもしれーもんでも見えたのか?」

「おう。相当にぶっ飛んだもんが見えたぜ。モニターに映してやるよ」


 白馬が「ひょー」と奇声を上げる。

 犬伏も「ぱねぇ! ドラゴンとか、あーし初めて見たんだけど!」と興奮気味に答える。


「どっからあんな連中連れて来たのかが、サッパリ分かんねぇの。どう見たってあの軍隊は別の異世界人だろ?」


「待てよ、あっくん。異世界から異世界に移動する手段ってあんの?」

「ねぇとは言わねぇ。異界の門があるだろ。あれが繋がる先は異世界なんだから、そいつを潜りゃどっかしらの異世界にゃ辿り着くだろ」


「はぁー? でも、異界の門ってあんなバカでかいドラゴンとか通れねっしょ?」

「くははっ! だからぶっ飛んでるって言ってんだ! しかも、その手引きしたのが、どうやら南雲の助手の新人くんみたいなんだわ」


 はしゃいでいた白馬と犬伏も、「それはないんじゃね?」と異を唱えた。

 探索員の常識で考えたら、すぐにその答えに行きつく。

 と言うか、その答え以外は出てこない。


 独自スキルを作れるレベルとなれば、Aランク以上。

 転移スキルなんて高等なものになると、最低でもSランク。

 もっと言えば、監察官として研究を重ねてやっと夢想にふける事が許される。


 どう考えても、阿久津から見た逆神六駆は若すぎる。

 意味が分からない。


 だからこそ、面白い。


 退屈に耐えかねて異世界を征服までして見せた阿久津浄汰にとって、逆神六駆は最高の暇潰し相手であり、もしかすると長年感じていた心の穴を埋める存在になり得るかもしれなかった。


 ただひとつ、阿久津は計算違いをしている。



 逆神六駆は探索員の枠に収まる男ではない。



 その勘違いに気付いた時にはもはや手遅れなのだが、彼にとってそれもまた1つの快楽。

 狂人と悪魔が相対する時、果たしてどちらが最後に立っているのだろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「俺らも準備するぞ! 白馬、『煌気人形デクキュリオ』を全部稼働させっから、帝都の住人を根こそぎ連れて来い!」


「マジでか! 本気じゃん、あっくん! 『煌気人形デクキュリオ』は現世攻略の隠し玉だったんじゃねぇの?」

「バーカ。隠し玉をずっと隠してるより、使った方がおもしれーに決まってんだろ!」


 白馬は「くーっ。痺れるねー!」と口笛を吹いて、帝都の住人たちから煌気オーラを奪い、代わりに苦痛を与える仕事へと出掛けて行った。


「あーしは何しよっか?」

「犬伏は兵隊どもに『凶獣外殻キラーミガリア』仕込んどけ! 適当に、新兵器とか言ってな! あいつらもこれまで美味い汁吸わせてやったんだから、ここ一番では働いてもらわねぇとな! くはははっ!」


「うっわ、マジ鬼じゃん! りょー。あーしは知らねーから! 浄汰、死んだら絶対天国いけないね!」

「はっ! 死んだ時のこと考えて生きててなんかおもしれぇのか? 死にゃあそのうち土に還るだけだろ。天国なんてもんはねぇんだよ! あるとすれば、ここが天国だ!!」


 犬伏も「ホント、あんたといると退屈しねーわ」とゲスな笑みを浮かべて、兵団の屯所へと出掛けて行った。


 お互いに手の内を見せているようで隠している、不思議な状況の反乱軍と阿久津一党。

 かつてない興奮に笑いが止まらない阿久津。


「南雲に、それから助手の小僧! せいぜい俺の退屈を解消してくれよぉ!!」


 血戦けっせんの時は迫る。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 一方、注目の的な六駆くんの様子は。


「ちょっと! 誰ですか、僕のスープにグアル草入れたの!! ひどい!! こんな嫌がらせ受けたの初めて!! もう現世に帰る!!」


「お、落ち着け、逆神くん! ミンスティラリアではグアル草を普通に食べているそうじゃないか。郷土料理の1つだよ!!」


「だって! グアルボンのふんから生える草ですよ!? ダズモンガーくん、知ってて僕に5年もの間、グアル草入りのスープ食べさせてたの!?」


「え、いや、吾輩たちの間では普通の食べ物ですゆえ。六駆殿のお口に合いませんでしたか? そ、それは気付かずに、何と申し訳ない事を……!!」


「違うよ! 違うんだよ!! お口に合ってたの!! すっごく美味しいと思って食べてたんだよ! 下手すると、ミンスティラリアの料理の中で一番好きまであるよ!!」


「なら良かったじゃないか! さあ、スープが冷めてしまうから、頂こう!」



「じゃあ、どうして南雲さんはグアル草をよけて食べてるんですか!?」

「えっ。だって、グアルボンのふんはちょっと……。ほら、現世組はみんな食べてないよ?」



「僕はさっきまで普通に食べてたんですよ!!! だったら、教えないで欲しかったですよ! お前が食ってんの、グアルボンのふんだぞってぇぇぇぇ!!!」


 六駆くん、グアル草をハーブか何かと勘違いして、ミンスティラリア滞在時の5年間「美味い、美味い!」と毎日食べていた事が発覚。

 カエルっぽいモンスターの糞から生える草が大好物だった事実を受け入れられずにいた。


 我々は彼に問いたい。

 本当に血戦の時は迫っているのだろうか。

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