第109話 ただいま ミンスティラリア魔王軍、異国の地に堂々参上 ルハイオ湖・反乱軍拠点

 『ゲート極大陣グランデ』から、まず六駆が後ろ歩きで登場した。

 彼は続けて、まるで交通整備をする警察官のように『光剣ブレイバー』を輝かせて、「オーライ、オーライ!」と何かを案内していた。


 それが人工竜・リノラトゥハブ改だと分かると、ルベルバック反乱軍に緊張が走った。


 さらに続けて出てきたのが本物のドラゴンであり、ルベルバック人はもとより、現世チームも「やっぱり異世界に長期滞在すると疲れが溜まるよね」と一様に自分の感覚を疑ったと言う。


「オーライ、オーライ! はい、ストップ!! 良い感じです、シミリートさん!!」

「逆神くん。おかえり」



「ああ、南雲さん! 思っていた以上の戦力を引っ張って来れました!」

「オーライじゃないよね!? なに引っ張って来ちゃってるの!?」



 六駆は「そんなに褒めないで下さいよ!」とベタなボケをして、ダズモンガーを呼んだ。

 彼は律義に『瞬動しゅんどう』で即座に馳せ参じる。


「こちら、ミンスティラリア魔王軍の軍務最高指揮官のダズモンガーくんです」

「お初にお目にかかります。吾輩、ダズモンガーと申します。此度こたびは六駆殿の危機との事で、微力ながらお力添えできればと参上した次第で」


 トラの顔にデカい翼の生えた鳥獣人を見ても驚かなかったのは、南雲も異世界で亜人種との交流を深めた経験があるからだった。

 と言うか、ドラゴン山ほど連れて来た六駆にドン引きしているので、これ以上なにを驚けば良いのか、彼には分からない。


「これはご丁寧に。私は探索員協会で監察官をやっております、南雲修一です」

「ダズ、少しいいか。横から失礼。私は魔技師、いや、魔王軍開発室室長のシミリートと言う者だ。けいが私の改ざんした記録石を解析した南雲殿か?」


「あああ! では、あなたが記録石を!! あれには本当に手こずりましたよ! とんでもない技術をお持ちで!」

「いや、それはこちらのセリフだ。不躾ぶしつけな言い方を許してほしいのだが、けいらの国は技術がさほど発達していない。にも関わらず、私の改ざんを見破るとは、只者ではないとお見受けした。少し話をさせてはもらえんか?」


 南雲の研究者魂に火がついてしまった。

 だが、この場で最も冷静でいなければならない彼が、どれほど甘い蜜を目の前で垂らされようとその責務を放棄するなど——。


「山根くん! やーまーねぇー!! ちょっとサーベイランスで敵陣観察してて! 私、今から異世界の凄腕技師とお話しするから!! お願い、特別賞与出すから!!」


 割とあっさり放棄した南雲監察官。


『へーい。まあ、動きがあれば分かりますからね。どうぞ、お楽しみください』


 六駆はダズモンガーとキャンポムを引き合わせて、戦略について話し合いの場を持たせる。

 そののち、ガブルス斥候隊と、遊撃隊隊長のニャンコスをこれまた顔合わせを済ませるように取り計らった。


 なお、トンバウルはミンスティラリアにて留守を預かる。

 彼はこの戦いの記録をその目で見て後世に遺せなかった事を激しく悔いていたらしいが、ニャンコスとじゃんけんに負けたので致し方ない。


 軍務関係の取り次ぎを済ませた六駆は、莉子たちのところへと向かった。

 ルベルバックの気温は高い。

 快適なアタック・オン・リコから出ると、一気に汗が噴き出してくる。


 目の前には澄んだ水をたたえる湖がある。


「六駆くーん! 一緒に泳ごうよぉー!!」

「そうじゃ、そうじゃ! わらわも六駆殿と水遊びがしたいのじゃ!!」


 チーム莉子の乙女たちは何故か水着姿で楽しげに過ごしていた。

 敵陣目前の前線基地で唐突過ぎる水着回。


 六駆もついに頭のネジが全部取れたのか。

 そうではない。


 彼がこれからこの行為の正当性を説明します。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 時間は少しさかのぼり、今朝の事である。

 ファニコラが「わらわもルベルバックに行くのじゃ!!」とワガママを言い出した。


 六駆も「まあ観戦するくらいなら、アタック・オン・リコの中で済むし良いか」と思ったのだが「妾の『石牙ドルファング』で敵を討つのじゃ!!」と腕まくりするので、これには最強の男も困った。


 戦闘のいろはを全て知り尽くした男でも、女子の扱いは未履修科目。

 ファニコラは御年122歳だから女の子じゃないと思った者には、魔王軍の誰かがすぐに急行するのでご注意されたし。


 とりあえず、異世界の魔王様を危険にさらすのは良くない。

 だけども、どうやってそれを止めたら良いのか分からない。


 すると、頼りになるクララパイセンが「良いこと思い付いたにゃ!」と言った。



 それが水遊びだったというお話。



 ミンスティラリアは割と水に恵まれており、ファニコラも水遊びが大好き。

 敵の居城が目と鼻の先にあるのに何してんのとお思いかもしれないが、これだけの軍備を整えた六駆には我々も強く意見はできない。


「ほれほれー。六駆くん、水着女子が4人もいるぞなー! パイセンの体、見ても良いんだぞ!!」

「あ、大丈夫です」


「ちょっとぉ! クララ先輩、寂しいからって六駆くんを誘惑しないで下さいよぉ!!」

「みみっ。小坂さん、もう発言が相棒の次元を超えて……みみっ!」


「ふぅーんだ。どーせ、莉子の胸は小さいから水の抵抗を受けなくていいね! とか言うんでしょ? 知ってるんだからっ!」

「いや、莉子の体を初めてまじまじと見たけど、すごく魅力的だね!」


「ふぇ!? な、なな、何言ってるのぉ!? 六駆くんがおかしくなったぁ!!」

「引き締まっていて無駄なぜい肉も付いていないし、逆に太ももなんて程よく筋肉がついていてオールラウンダーには理想的なボディバランス!!」


「あ、やっぱり。どうせ、そーゆうことだろうなって思ってた。思ってたもん」


 ぷいっと顔をそむけながらも、体の事を褒められてちょっと嬉しそうな莉子。


 諸君。残念だが、莉子さんはもはや手遅れ。

 繰り返す。莉子さんはもはや手の施しようがない。


「まあ、せっかく水着をファニちゃんが貸してくれたんだし、めいっぱい楽しんでおくと良いよ! 進軍は早くても明日。何なら明後日になるかもだからね」


 六駆くんが珍しく良いことを言った。

 ルベルバックへとやって来てからもう1週間。

 チーム莉子は六駆おじさん以外、みんな10代の多感な女子なのだ。


 血と硝煙の匂い漂う戦場の事を一時でも忘れて、リラックスする事こそが彼女たちに最高のパフォーマンスをさせる方法だと、六駆は本能的に察していた。


 戦いの支度ならば、全て自分ですれば良い。

 それこそが彼の主戦場であり、まさに適材適所。


「山根さん。聞こえてますか? 逆神です」

『聞こえてるっすよー、逆神くん。どうかした?』


「帝都の様子を知りたいんです。できれば、ギリギリまで迫ったものを。具体的にはですね、煌気オーラのバリアがあったりすると、せっかくの飛竜隊を生かせないんですよ」


『逆神くんの目でも分からないの?』

「さすがに距離があり過ぎますね。僕が偵察に行っても良いですけど」


『あー。なるほど。阿久津の実力だったら、逆神くんが気配を消していても万が一って事が想定されるんだね。了解。やってみるよ』


 着々と迫る阿久津あくつ浄汰じょうた包囲網。

 彼は一体、どこまで状況を把握しているのだろうか。

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