第102話 ちゃんと謝るまで逆神六駆はスキルを止めない かつてゴルラッツ砦があった砂漠地帯

 リゾゾン少佐を捕まえた。

 ただ、彼にはもはや求心力のかけらもなく、アタック・オン・リコへと加賀美が連行する際にも、ゴルラッツ砦所属の兵士たちから罵声を浴びせられる始末。


 そんな面倒なだけで何の利益も生み出さない者を六駆の前に連れて行くとどうなるか。

 だいたい諸君のご想像通りである。


「この人、煮ても焼いても食えそうにないし……。やっちゃいます?」


 だいたいこうなる。


「や、ヤメろ! 捕虜の条約を守れ! この異界人が!!」

「あああああ……。あの、本当に口の利き方には気を付けられた方が……」


 この戦いで六駆ポイントを結構稼いだ山嵐助三郎。

 逆神六駆被害者の会員ナンバー1桁として、親切心からリゾゾン少佐に声をかける。


「黙れぃ! 小童こわっぱが!! この俺を誰だと思っている!?」

「痛っ! 暴れない方が良いですって! マジで!!」


 六駆ポイントを保有している者が理由もなく傷つけられるとどうなるか。

 やはり、諸君のご想像通りである。


「はい、こちらにありますのはちょっと前に森で拾った普通の葉っぱです。それに、こうやって煌気オーラを注入すると……。なんと、小型のミサイルになりまーす! それいけ、『葉六破ようろっぱ』!!」


「がぁぁぁぁあっ!? えっ、じょ、条約!?」

「すみません。僕、義務教育の記憶も怪しいもので。異世界の条約なんて知るはずないじゃないですか! やだなぁ! あははは! はい、2撃目ー!!」


「ぐぇぇぇぇぇぇぇっ!! わ、分かった! アクツ様に貴様らを目通りさせてやる! 俺はこれでも顔が利くんだぁぁぁぁぁぁぁいっ!?」


「まずはごめんなさいでしょうが! 兵士のみんなにぃ! 自分だけ安全な場所に逃げてごめんなさいは!? はい、3撃目! まだ半分残ってますよ!!」



「ご、ごめんなさぁぁぁぁっ!? 痛いっ!! ごめぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ちゃんと言いなさいよ! いい年してぇ! そんな事だからおっさんが迫害を受けるんだ!! ほらぁ、ごめんなさいを言いなさいよぉぉぉ!!!」



 六駆おじさん、戦闘に参加できなかったのが余程不服だったのか、絶好調である。

 最終的にリゾゾン少佐は太陽が照り付ける砂漠の砂上で焼き土下座をする。


 ゴルラッツ砦の兵士たちからは拍手が巻き起こり、「あ、これはどうも! すみません!」とご満悦になったのが、人の姿をした悪魔。


「逆神くん、その辺りでヤメておこう。この人にだって、家族がいるはずだ。悪人は裁かれるべきだけど、その家族にまで罪は及ばないよ! 彼が父であり夫である以上、命は取るべきじゃない!」


「加賀美さん、あなたは良い人だなぁ! じゃあ、最後の一発はヤメときます! ソソソソさんでしたっけ? 加賀美さんにお礼言って!!」


「ひゃ、ひゃい! ありがとうごじゃいましゅぅぅぅぅっ!!」


 六駆おじさんの憂さ晴らしが、今回はいい方向に転がっていた。

 ゴルラッツ砦の佐官はリゾゾン少佐のみ。

 一緒に隠れていた大尉も捕縛済みであり、現場で指揮を執っていたヒングロ大尉がキャンポムに向かって歩み出た。


「キャンポム少佐! 私はヒングロ大尉であります! この度は、負傷兵に対して寛大なご処置を感謝いたします!!」

「いや、俺に礼は不要だ。負傷兵の回復は、先ほどリゾゾン少佐に罰を与えた逆神さんが全て担ってくださっている。礼を述べるなら、彼にしたまえ」


 ヒングロ大尉は「はっ!」と返事をして、動ける兵士は全員が六駆の方を向く。

 続けて「ありがとうございます! 逆神殿!!」と敬礼した。

 ゴルラッツ兵たちの意志が一体感を見せる。


「あー。大丈夫ですよ、そういうのは。うちのリーダーの信条なんです。相手がどんなにカスでも同じ土俵に降りちゃダメだって。あ、ちょうどいいや! 莉子ー!!」


 南雲たちの作戦会議に参加していた莉子が、タイミング良くアタック・オン・リコから出てきたところだった。


「ふぇ? なにー? わわっ、『気功風メディゼフィロス』がすっごく広域展開されてる!」


「紹介します! 彼女が僕のチームのリーダーで小坂莉子! 皆さんの砦を粉々に消し去ったのも、彼女のスキル!! すごいでしょ?」



「全隊! 小坂莉子様に最敬礼!! 許可が出るまでその姿勢を死んでも維持!!」

「ふぇっ!? な、なに!? なんでわたし、こんなに崇められてるのぉ!?」



 そののち、加賀美から事情を全て聞いた莉子は、最近お馴染みになった莉子パンチで六駆に制裁を加えた。

 その様子を眺めているゴルラッツ兵たちは「悪魔よりもまだ上の存在が異界にはあるのか……」と、慄いたらしい。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「あれ? 逆神くん、どこ行った!? 負傷者の回復しといてくれって言ったのに!」

「南雲さん。彼なら、あそこです」


 加賀美から、こちらも事の次第を聞いた南雲監察官。

 コーヒーを噴くかと思いきや、今回は違う。


「裏切った上官に制裁を与えるデモンストレーションは、まあいいか。いや、人道的には良くないよ? でも、さっきの『苺大砲いちごキャノン』見た後だと、そう思うのも仕方なくないか!? なあ、加賀美くん!! 私がおかしいのか!?」


 ちょっとお疲れ気味の南雲さん。

 早いところ新鮮なカフェインを与えて差しあげろ。


「キャンポム少佐! 我らゴルラッツ兵も少佐の義勇軍にお加えください! 盾にでも何でも、なってみせます!!」


 六駆おじさんの良くないハッスルが、珍しく本当にいい方向に物事を進めている。

 これはある意味では事件である。


「そうか。貴官らの申し出、嬉しく思う。最高指揮官に問い合わせてみよう。南雲さん、こちらにいらっしゃったのですか」


「うん。悲しげな叫び声に誘われてね。話は分かった。志願兵は80人くらいいるのかな? アタック・オン・リコにもまだまだ余裕はあるし、君たちの心意気を我々としてもありがたく迎えさせてもらおう!」


「感謝いたします! よし、全隊! 負傷者の傷が癒え次第、持ち出した武器の中から使えそうなものをありったけかき集めろ!!」


「はっ!!」


 こうして、ゴルラッツ兵が反乱軍に参加し、少し軍勢が拡大した。

 リゾゾン少佐以下、反乱の可能性が高い者はキャンポムの指示により、部下が責任を持ち異界の門前の『完全監獄ボイドプリズン』へと連行することとなった。


 だが、人が増えると言う事は、それを賄うものも同じだけ必要となる。


「南雲さん。給仕長として意見具申しても構いませんか?」

「何でも言ってくれ。と言うか、私はよそ者なんだから。そんな風にかしこまらなくても良いんだよ。それで、どうした? ヘンドリチャーナくん」


「帝都・ムスタインまでまだ距離が半分以上あります。先の事を考えると、この辺りの街で食料を備蓄しておきたいのですが。ゴルラッツ砦の兵糧をあてにしていたのですけども、その、粉々に吹き飛びまして……」


 六駆は自分のしたことを全て棚に上げて、笑顔で申し出る。


「やっぱりリゾゾン少佐にもう少し『葉六破ようろっぱ』ぶっこみに行きます!?」

「よし。逆神くんはしばらく休んでいてくれ! とにかく分かった、近くの街に寄って、必要な準備をしよう。キャンポムくんに任せるよ。地理に関しては彼が反乱軍の中で一番詳しいだろうから」


「はっ! では、この近くにある一番大きな街へ参りましょう。ツギッタートが良いかと。この砂漠地帯のオアシスに造られた街で、流通の拠点です」


 こうして、アタック・オン・リコの次なる目的地が決まった。

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