第101話 戦慄の『苺大砲』 ゴルラッツ砦、制圧を超えて消失

 その準備は、キャンポム隊の突入と同時に始まっていた。

 キャンポム隊と山嵐組が砦へとなだれ込んで行ったのを見届けた六駆は、芽衣を回収してアタック・オン・リコの運転席へと戻る。


「お疲れ様だよぉ、芽衣ちゃん! すごかったね! 頑張ったね!!」

「うちのルーキーは超優秀だにゃー! パイセンも胸張って自慢できるよ!!」


「みみみっ! お役に立てて、芽衣も嬉しいです!!」


「……六駆くん? どうしたのかなぁ?」


 六駆は腕組みをしながら、難しい顔をする。

 そして、苦々しく言葉を紡いだ。



「いや、莉子は胸張っても見た目が変わらないから可哀想だなって思って!」

「……ふぅーん? 六駆くん、そーゆうこと考えてたんだぁ? ふぅーん?」



 そののち、莉子パンチによる六駆の粛清が行われた。

 様子を見ていた南雲は、なんだか分からないけども言い知れぬ不安に襲われたらしい。


 そこで、加賀美からの報告が入って来た。

 リゾゾン少佐が砦の中のどこにもいないと言う。


「これはまた、妙な事になってしまったな。まさか、敵軍の将が姿さえ見せず逃げの一手に出るとは。負傷者の搬出と探索を並行するとしよう」


「南雲さん」

「どうした、逆神くん」



「いえ、ここにも負傷者が。頬っぺた引っ叩かれました。うちのリーダーに」

「君、3の倍数の時間になるとアホになるとか、そういう呪いにでもかかってるの?」



 六駆は「ふっふっふ」と笑ったのち、「まあ負傷は冗談ですが」と前置きした。

 彼が前置きする時は、だいたい良くない事が起きる知らせである。

 南雲も短い付き合いの中でそれを学んでいた。


「ついにこの、移動要塞アタック・オン・リコの隠された機能をお見せする時が来たようですね!」

「できるだけしめやかな空気感で頼むぞ。それで、何が隠されているのだ?」


「アタック・オン・リコの正面に砲門が3基取り付けられているのはご存じですよね?」

「もちろんご存じだとも。物騒な形だなと思っていたさ」


「あれをただ鉄の弾撃ち出す砲門だと思ってましたか? ノンノン、そんな訳ないじゃないですか! あれこそ、この移動要塞の華ですよ!!」


 六駆は「準備をします」とだけ言って、運転手のクララに注文する。


「クララ先輩、方向転換してもらえますか? 砲門を砦に向ける形で」

「あいあーい! 了解だにゃー。あたしね、教習所で縦列駐車上手いねって褒められたことあるんだよ? すごくない?」


 クララの縦列駐車のくだりは割愛される。

 理由が必要だと言うのならば、それが運命だからとしか言えない。


「莉子さんや。出番ですぞ。ちょっと君の実力を少しだけ敵さんに見せてあげよう」

「ふぇ? わたしが何かするの? 要塞の中で?」


 ここで何かを察した南雲監察官が、全通信機に向かって「早いところ砦から逃げなはれ!!」と緊急指令を伝えた。

 話の時間軸が再び重なり、アタック・オン・リコの中では、いよいよ秘密兵器の説明がされようとしていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 まず、六駆は南雲に対して「危ないんで、みんなに1キロくらい砦から離れてもらってください。あと、砦の中に残っている人の命の保証はできません。ふふふ」と笑みを浮かべて勧告した。

 その表情は悪鬼そのもので、南雲は長年のキャリアから「ああ、これは直ちに命の危険があるパターンだな」と判断する。


 敵味方、全ての生きとし生けるものを砦から退避させる、南雲。

 加賀美とキャンポムが中心になって「命と待遇を保障する」と言って砦を回った。


 山嵐組とガブルス斥候隊が砦内を隅々まで確認して、地上の見える場所に残っている人影はない旨が南雲に伝えられた。


「それじゃあ、莉子! この穴に両手入れてくれる?」

「えー。なんかヤダなぁー。六駆くんの作ったものだもん」


「大丈夫! これは莉子専用のギミックとして作ったから、君じゃないと動かないんだよ! 僕が莉子のために頑張ったんだから!!」

「……もぉー。そんな風に言われると、わたしも断れないじゃん! もぉ!」


 イチャイチャしながら、莉子は2つ空いた穴に手を入れる。

 その先にはレバーのようなものがあり、「これ握るの?」と六駆に質問した彼女。


「そうそう! それを握ったら、上のモニター見てくれる? ほら、砲門とリンクしてるでしょ?」

「あっ、ホントだぁ! わたしの操縦で角度が変わるよ!」


「よし、問題ないね! では、照準を砦に合わせて! 下に向けすぎると、多分そこにあるであろうシェルターがこの世から消えるから、慎重にね!」

「はぁーい!」


 相変わらず、高校生のカップルがゲームセンターで協力プレイをしているようにしか見えないのに、南雲の背中は冷えていく一方だった。

 そんな彼の元へ、梶谷が熱々のコーヒーを持って来た。


 まったく同じタイミングで、六駆が莉子の肩を叩いて、合図する。


「照準が定まったら、『苺光閃いちごこうせん』を撃って! 全力で構わないよ!」

「ほえ? なんだか分からないけど、了解! ……ふぅ。『苺光閃いちごこうせん』っ!!」


 グォォォンとアタック・オン・リコが吠えた。

 1秒にも満たない間をおいて、3基の砲門から苺色の熱線が発射される。


 その威力は凄まじく、堅牢な造りをしているという話だったゴルラッツ砦が一瞬にしてちりとなり、南雲が瞬きを数回したのちにはもう何も残っていなかった。


 コーヒーは噴かないのかとお思いの諸君。

 残念ながら今回、南雲監察官はコーヒーを口に含む前だった。


 熱々のコーヒーはそのまま南雲の股間にこぼれたが、不思議と熱くなかったと彼はのちに語る。


「どうですか!? これがアタック・オン・リコの隠し玉! 名付けて『苺大砲いちごキャノン』です!」



「どうもこうもないなぁ。逆神くん、本当に協会本部を物理的に消せるじゃないの。えっ、君の転生した先の異世界って、どこも地獄だったの? 全部が魔界?」



 焦土と化したゴルラッツ砦。

 南雲の計画は大幅な変更に迫られていた。


 勝つか負けるかではない。


 相手をいかに殺さないで反乱を完遂させるかに、彼の思考はシフトしていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 何もなくなった砦跡に加賀美たちが戻って来た。


「おや? キャンポムさん。ここに明らかな入口のようなものがありますが。これが逆神くんの指摘していたシェルターでしょうか?」

「ああ、その可能性が高そうですな。ぶ厚い鉄製で出来ています。『煌気細剣クシフォス』を持って来させましょう」


 その申し出を加賀美は丁寧に断った。

 自分がいれば必要ない、と。


「攻勢4式! 『鷹狩り』!! せぇやぁぁっ!!」


 鉄板が綺麗に4分割されて、薄暗いシェルター内に光が射し込む。

 そこには、数人の兵と、よく太ったガマガエルのような男がいた。


「南雲さん、こちら加賀美です。映像を送ります。現場はこのようになっています」

「キャンポムです。この男がリゾゾン少佐で間違いありません」


 ゴルラッツ砦攻略戦は、反乱軍の圧倒的な勝利で幕を閉じた。

 その報は、近隣の都市へと風が運ぶ。


 反乱軍への追い風となるのだろうか、それとも。

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