第100話 ゴルラッツ砦の戦い

 芽衣の奮闘により、ゴルラッツ砦攻略戦が開始された。


「みみみみっ! みみっ! みみみみみっ!! 『瞬動しゅんどう』! みみみみみっ!!」


 芽衣は『幻想身ファントミオル』で200人まで自分の分身を増やし、さらに『瞬動しゅんどう』でむちゃくちゃに動き回る。

 超高速で移動するまさに幻想的なちっこい女の子を撃って良いものなのか、砦の迎撃部隊も判断に困っていた。


「逆神くん。君、木原監察官の姪御めいごさんに何と言う魔改造を……」

「ははは! これはすごいですよ! 今回は陽動でしたけど、彼女に攻撃スキルが3つ、いや、この際1つだけでもあれば、充分な脅威ですよ! やりますね!」


「加賀美くん! ヤメてくれ! 君まで逆神流に染まらんでくれ!! 私は木原監察官と次に会う時、平静を装えるか不安だよ。あああああ、誰かコーヒーくれる? 熱くて苦いヤツ」


 加賀美は感嘆の声を上げ、南雲は敵陣よりもはるかに激しい動揺をしていた。

 そんな芽衣に満足気なのが、チーム莉子。


「わぁぁ! 芽衣ちゃん、すごいっ! 頑張ってスキル覚えたかいがあったね!!」

「だにゃー。これでもう、コネ採用なんて言わせないぞなー!!」

「うーむ。こうなると、次はステルス属性のスキルでも覚えさせて、暗殺者スタイルに育てていくのも面白いかもしれないなぁ」


 アタック・オン・リコの窓からパーティーメンバーのひよっこが今まさに成長の時を迎えている様を、やんややんやと見守る3人。


「では、我々も行こうか! 山嵐くん、自分が先陣で斬り込むから、援護射撃を頼めるかい? 確か、君たちのパーティーは土属性が得意だったよね?」

「は、はい。俺もこいつらも、土特化っす!」


「分かった! 自分が城門を斬るから、そのあと30秒したらできるだけ大きな一撃を! 敵の戦意は一瞬で削れるだけ削っておきたいからね!」

「はい! 了解です! お前ら、行くぞ!!」


 加賀美と山嵐組が分身し続ける芽衣に紛れて、アタック・オン・リコから飛び出した。


「木原さん、ナイスプレーだよ! よく頑張ってくれているね! もう少しだけ踏ん張っておいてくれるかい? 自分が砦を無力化するから!」


「みみっ! 芽衣はここで増えたり減ったり動いたりを繰り返しておくです! お任せです!! みっ!」


 加賀美は芽衣の実力と気迫に目を細めて、イドクロア製の竹刀『ホトトギス』を構えた。

 煌気オーラで脚力強化を済ませると、「せぇいやぁ!!」と一気に城門へ迫る。


「と、止まれ! 止まれ!! こ、こいつ、全然聞く気ねぇぞ!! 当たんねぇし!!」

「お、おい! 逃げんなって! 門を守れよ!!」


 ゴルラッツ砦の兵士たちは、日常的に戦闘訓練をしている本隊と比べても実力は引けを取らないのに、無能な指揮官のせいで危機意識、そして危機に直面した際のケア諸々の数値が極めて低かった。

 そんな隙を見せてしまえば、加賀美政宗を止める事は出来ない。


「失敬! 通らせて頂く! 攻勢3式! 『一点集中いってんしゅうちゅう群雀ぐんじゃく』!!」


 加賀美の鋭い突きが城門に風穴をあける。

 その突きが5発、10発、30発と高速で繰り返され、50を超えたところで門は粉々に崩れ落ちた。


「山嵐くん! 頼む!!」


「う、うっす! 『ガイアスコルピウス』!! お前ら、合わせろ!!」

「くそ! 現世に帰ったらもう探索員ヤメっからな!」

「俺は田舎に帰って実家の畳屋を継ぐ!!」


 山嵐お得意の土で圧縮されたバリスタ。

 だが、今回のものはこれまで登場したどの『ガイアスコルピウス』よりも強力。

 なにせ、パーティーメンバー5人が装填された槍を『ストーンバレット』でどんどん巨大化させている。


 そうして完成した巨大な槍が、風通しの良くなった砦に襲い掛かる。


煌気オーラ全部乗せだ! 行けぇぇぇぇ!!!」


 鼻くそまで身をやつした山嵐組。

 だが、これは彼らにとって、やり直しの第一歩かもしれなかった。


「うげぇぇぇぇ! こりゃダメだ! リゾゾン少佐ぁ! おい、少佐どこだよ!?」

「知らねぇよ! お前、軍曹だろうが! 兵の指揮執れよ!!」

「そう言うお前も軍曹だろうが!!」


 山嵐組の極大『ガイアスコルピウス』は、敵の戦意を見事にそぎ落としていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 加賀美は単身で砦の中に突入。

 歯向かう兵は斬り伏せ、戦意を失くした者には目もくれず、司令官の部屋を探す。


 山嵐組も続く予定だったのだが、煌気オーラを振り絞り過ぎて彼らは既にガス欠状態。

 だが、今回は彼らに労いの言葉をかける六駆くん。


「頑張ったじゃないの、山嵐くん。仕方がないから回復してあげよう」


 六駆の中で山嵐助三郎の扱いが鼻くそから人間に戻ったらしかった。

 『注入イジェクロン』により、煌気オーラの回復までしてあげる大盤振る舞い。


「ひぃっ!? な、ナイフでどうするんですか!?」


 まあ、普通はこうなる。

 緑色のナイフを背中にぶっ刺した後に「回復だよ」と伝える六駆。


 山嵐や他の組員程度の煌気ならば、ものの数秒でフルチャージできる。

 なんと優しい、寛大な処置だろうか。



「はい! これでまだ戦えるね! 行ってらっしゃい!!」

「……えっ?」



 全然優しくなかった。

 逆神六駆はリアリスト。まだ使える戦力を遊ばせる事など良しとするはずがない。


 結果、キャンポム隊が突入するのに合わせて、再び戦地へとぶち込まれる山嵐組。

 だが、彼らの長所はすぐにヤケクソ状態になれるところにある。


「くそぉぉ! どうしてこんなことに!! んがぁぁぁぁぁぁ!!」

「俺らモブじゃん! なんでモブがメインの部隊と並んでんの!?」

「ぜってぇヤメてやる! ヤメてやるからなぁぁぁぁ!!!」

「おらぁぁ! かかってこいやぁぁぁ! 『ストーンバレット』舐めんなぁぁ!!」


「お前ら……! そうだ、今こそ山嵐組の総力を見せる時!!」

「いや、組長。現世に帰ったら絶対に解散しますからね?」


 改心しても、取り戻せないものはある。

 山嵐助三郎はそんな切ない現実を我々に教えてくれていた。


「全員、『煌気細剣クシフォス』での攻撃に専念せよ! 砦の中で『煌気電撃銃アストラペー』は効果が薄い! 投降する者は受け入れる! ただし、刺客には注意するように!!」


 キャンポム隊の突入をもって、戦局はほぼ決していた。

 彼の姿を見た砦の兵士たちは、未だに姿さえ現さない基地司令官のリゾゾンよりも、常に自ら前線へと出陣するキャンポム指令官の勇猛さに魅了される。


 結果、次々に投降する兵士が現れ、徹底抗戦する構えの兵士はわずかとなった。


「攻勢1式! 『啄木鳥きつつき』!! こちら加賀美です! リゾゾン少佐の姿は未だ発見できません! 砦の中は一通り回ったのですが! 南雲さん、どうしますか!?」


 ルベルバック軍の通信機を借り受けている現世チーム。

 意思疎通は逐一取れる。戦いの基本である。


「分かった。聞いたか、キャンポムくん。戦局が落ち着き次第、砦の中から出て来てくれ!」

「こちらキャンポム、了解! しかし、どうされるおつもりか!?」


 南雲監察官の後ろには、悪い顔をした逆神六駆が立っていた。


「ふふふ。良い作戦があるんですよ。砦の中にいないとなると、多分地下に頑丈なシェルターとか作ってるパターンでしょうから。だったら、出て来てもらうまでです」


「負傷兵も敵兵も全部まとめて、とりあえず砦から退避! なんかヤバい事が起きるぞ!! 逆神くんの発案だから!! 分かるでしょ、みんな!!」



 その後、反乱軍の一致団結により、速やかな砦内の大掃除が行われた。

 さて、悪魔の出番がやって来る。

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