第99話 砦攻略作戦 先鋒・木原芽衣 ルベルバック中西部・ゴルラッツ砦

 ゴルラッツ砦は300人の兵士を収容するルベルバック軍の軍事基地。

 元からモンスターも多い土地柄のため、それらを日々相手している兵士たちの練度は高い。

 また、脅威の頑丈さを誇り、建築からこれまで1度として破壊された事はない。


 また、その砦を仕切るリゾゾン少佐は軍の中でもアクツ派の急先鋒として有名で、新皇帝体制になってすぐに忠誠を誓った事で、ゴルラッツ砦を任された経緯があると言う。

 つまり、説得によって懐柔することは望み薄である、とキャンポムは語った。


「と言う事は、戦闘ですね! ちなみに砦って破壊しても良いんですか!? 何て言うか、アレですよね! 誰かが自信満々にふんぞり返っている場所をぶっ飛ばすのって、得も言われぬ爽快感がありますよね!!」


 誰だ。作戦会議に悪魔を加えたのは。


 帝都決戦の作戦ならばともかく、こんな局地戦で六駆の出番はない。

 それに関しては、大人の思考チームの見解が一致していた。


「逆神くん。君の存在はなるべく隠しておきたいんだ。日須美ダンジョンでの戦闘だけならば、君の事をただの腕の立つ探索員だと阿久津は考えているだろう」


 Dランク探索員の六駆からすればそれでも過剰な見積もられ方なのだが、南雲に言わせるとSランクの上がないから仕方なくそう表現しているだけで、人の姿をした兵器だとは敵に悟られていないだろうというのが、氏の見解であった。


「俺も南雲監察官に賛成です。逆神さん抜きでも、砦の攻略は可能だと愚考いたします」

「司令官! 我らガブルス斥候隊がまずは情報を集めて来ましょうか!?」


「斥候隊を出すよりも、このまま攻め込んでしまった方が良いかもしれませんよ? ランドゥルで本国にはアタック・オン・リコの存在がバレているかもしれませんが、砦にもその情報が通じているとは限らないですし。ならば、時間を空けずに総攻撃も手かと」


 南雲、キャンポム、ガブルス、加賀美の作戦会議はスムーズに進行する。

 彼ら4人の価値観は似通っており、これは幸運かと思われた。


 莉子はクララと楽しそうに自分の名を冠した移動要塞の車窓から景色を楽しんでおり、芽衣は六駆によって『幻想身ファントミオル』の修行中。

 鼻くそ連合隊は給仕の手伝いをしており、キャンポム軍は武器の換装中。


「さあさあ、食事ができましたよ! 戦いの前にはまず食べなくちゃ! 皆さん、どうぞ! クララさんとガブルス隊が仕留めて来たクルルックのシチューです!!」


 ヘンドリチャーナの号令で、鼻くそ連合隊が順番に配膳して行く。

 なかなか様になっており、六駆は「あの人たちこの国に置き去りにした方が社会の役に立つんじゃない?」とまた悪魔のような事を考えていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 食事を済ませてしばらく走ると、いよいよ件の砦が視界に入る寸前までアタック・オン・リコが侵攻する。

 ゴルラッツ砦は砂漠の真ん中に立っており、遮蔽物がない。

 そのため、現在地の森を抜けるとそのまま戦闘に移行する可能性は高かった。


「それでは、砦での戦いは加賀美くんを中心に、キャンポム隊と山嵐組。場合に応じて私が加わる布陣で行く。異論のある者は申し出てくれ」


「はい! 僕の出番がないのはつまらないです! 痛いっ! 莉子さん!? 痛い痛い!!」

「す、すみません! こっちは大丈夫ですぅ!」


「小坂くんは現世に帰り次第、本部でランクアップ査定を受けようね。君の指揮官としての才能は稀有だ。逆神くんをコントロールできるとか、稀有以上の形容が見当たらないのが残念なくらいだ」


 南雲の作戦を簡単に説明しよう。


 まず、アタック・オン・リコと陽動役が敵の注意を引き付ける。

 その隙に、加賀美政宗と山嵐組が突入する。

 現世のスキルに即対応できる手練れは少ないと思われるため、この第一陣がどれほどの兵力を削られるかがひとつの鍵となる。


 続けて、キャンポム隊を戦線に投入。

 基地司令官のリゾゾン少佐はアクツ派だが、部下も全員そうであるとは言い切れない。

 むしろ、現体制に不満を募らせている者も多いだろうとガブルスは語る。


 まさに中間管理職のガブルスの弁には説得力があり、さらに彼は「キャンポム少佐は軍の中でも求心力があるので。少佐の姿を見れば翻意する者も多く出ると思います」と続けた。


 ここまでの戦力で砦を制圧できない場合に限り、南雲が出動する。

 阿久津も南雲監察官の存在は知っていても、その実力の全てまでは把握していないだろう。

 そのため、叶う事ならばこの戦闘では南雲まで出したくはない。

 『苺光閃いちごこうせん』を持つ莉子も同じ理由で温存しておきたい。


 クララはアタック・オン・リコの運転があるため、今回は不参加。

 六駆の扱いに関しては全会一致で「悪魔を放つには早すぎる!!」と可決していた。


 帝都までの距離はまだある。

 ここで六駆のヤバさをわざわざアピールすれば、防御を必要以上に固められるだろうし、警戒も増すだろうし、そもそも逃亡を図られるかもしれない。


 ファビュラスダイナマイト京児は電撃属性がメインなため、相性を考慮して厨房で引き続き芋の皮むきに勤しんでもらう。


 問題は、陽動役を買って出た彼女である。


「芽衣、大丈夫? 無理しなくても良いんだよ? 僕は弟子を徹底的にしごくけど、芽衣、君はまだ回避スキルしか使えないんだから。怪我でもしたら大変だ」


「みみみみっ! 平気です! 避けるだけで後は安全な要塞の中にいられるとか、乗るしかないです、このビッグウェーブに!! みみみみっ!!」


 芽衣は自分が戦闘の役に立てない事を気にしていた。

 それで当然なのだ。

 なにせ、彼女はFランク探索員。探索員の中でも最下級。


 焦る事はない。

 ないのだが、彼女の中に流れる木原の血がそうさせるのか、彼女はいつになく前向きだった。


「避けるなら芽衣も自信があるです! 見せてやるです! この逃げ足の速さを! です!!」


 結局、弟子のやる気を無下にしたくない六駆の意向もあって、芽衣に陽動役をさせる事に決まった。

 「危ないと感じたら六駆が飛び出す」と言う条件下で。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 アタック・オン・リコは最大速度でゴルラッツ砦に接近する。

 そこでまず、六駆が警告。


『えー。お世話になっております。こちら、反乱軍でございます。投降する場合は悪いようにはしません。三食昼寝付きでお迎えいたします』


 当然のように「ふざけるな」とアタック・オン・リコに『アストラペー』の一斉射撃が降り注ぐ。

 その隙を見て、芽衣がちょこちょこと砦の前に立つ。


「みっ、みみみみっ! 『幻想身ファントミオル』!! 『二重ダブル』です!!」



 芽衣が200人に増えた。



「ちょっとぉ!? 六駆くん!? 芽衣ちゃんのスキルに何したの!?」

「いや、それがね。ダンジョンからずーっと『幻想身ファントミオル』の訓練させてたら、いつの間にか『二重ダブル』のレベルまで練度が上がっちゃって。芽衣の避ける事に関する情熱はすごいよ!」


「みみみみみみみっ!! か、かかってこいです!! みみみみみみみっ!!!」


 いきなり1人が200人になった様を見ていた偵察隊は、度肝を抜かれた。

 見事なほど鮮やかに隙を作り出した、木原芽衣。


 砦の攻略戦がスタートする。

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