第103話 歓迎される反乱軍と歓迎されない刺客 ゴルラッツ砂漠南部・ツギッタート

「ふっふふー! 運転にもだいぶ慣れて来たよー! どうだね、六駆くん! あたしのドライビングテクニックは!!」

「良いじゃないですか! 僕も煌気オーラの注ぎがいがありますよ! クララ先輩の運転はアクロバティックで退屈しないんですよね」


 ぶっちゃけ、クララの運転は荒々しかった。

 アタック・オン・リコは六駆の煌気オーラで地面から浮いた、ホバークラフト状に走る構造のため、乗員が車酔いを起こすことはない。

 が、ちょいちょい現地のモンスターと衝突事故を起こしている。


 なお、異世界のモンスターとは言え、伝説級のそれでなければアタック・オン・リコの進行を止める事どころか、傷すら付かないので、基本当て逃げである。


 これが現世だったら一発で逮捕案件なので、諸君も車の運転とその際の煌気オーラコントロールには細心の注意を払って頂きたい。


「クララさん。前方に時計塔が見えるのですが、分かりますか? あそこがツギッタートです。この要塞を見れば混乱すると思いますので、ここで1度停車して頂けますでしょうか。ガブルス斥候隊がまず行って、事情を説明して来ます」


「了解だにゃー。あ。間違えてバックしちゃった。にゃははー」


 繰り返すが、現世で車の運転をする際は集中力をしっかりと保ち、判断にミスが起きる前に適切な休憩を心掛けてほしい。


「では、我らが行って参ります! しばしお待ちを!!」

「アーハハ! ミスター逆神! どうしてミーまで行かなくちゃならないんだい!? 砂漠は暑いよ! ミーは繊細にできているんだよ!?」


「いや、梶谷さん何もしてないじゃないですか。ルベルバックに来てから。と言うより、日須美ダンジョンでも何の役にも立ってませんよね? もう皮剥く芋もないらしいですから、お手伝いに行って来て下さい」


 この発言には、南雲はもちろん加賀美までもが助け船を出さなかった。

 現状、アタック・オン・リコの中で芋よりも地位が低い男。梶谷京児。

 もはや彼にはファビュラスもダイナマイトも、パーティーメンバーの信頼もない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ええ……。『苺光閃いちごこうせん』って逆神家の三代が全員で考えたの!? それであの凶悪な破壊力と応用力が! 仕組みだけ教えてくれる?」

「んー。わたしも感覚で使ってるから、仕組みは分かんないんですよぉ。六駆くんなら分かると思うんですけど、呼びましょうか?」


 現在、アタック・オン・リコの中では休憩中。

 六駆の煌気オーラで室温は快適。

 飲料水にまだ余裕があるので、みんなでティータイム。


「よし! 芽衣、そこで煌気オーラを込める! いいじゃない! そうそう! この調子なら、『幻想身ファントミオル』で分身300くらい出せそうだ! 高まってる、高まってるぅ!!」

「みみみみみっ! 安全地帯を拡大するためならば、辛い修行も快感です!!」


「そうだ! その意気! あと5分煌気オーラを全開にしてみよう! やれるやれる!!」

「みみみみみみみみっ!! みみっ! みみみみぃぃぃぃっ!!」


 六駆おじさんは芽衣に「師匠。修行をつけてくださいです」と言われて、大喜びでトレーニングさせている最中。

 その様子を遠目で見た南雲は、「うん。やっぱり大丈夫」と頷いた。


 さらに15分ほどして、ガブルス斥候隊から通信が入った。

 雑音が大きくてよく事情が把握できなかったものの、とりあえずアタック・オン・リコで近づいても大丈夫とのことだった。


「それでは、行こうか。椎名くん。くれぐれも運転は慎重にね?」

「りょーかいです! 南雲監察官! あ、またバックしちゃった! てへっ」


 南雲は祈るようにクララのハンドル捌きを見つめていた。

 そのかいあってか、無事にツギッタートへと到着。


 ピンク色の移動要塞を、住民の大歓声が出迎えた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「な、何事だ!? どういう事情なのかさっぱり分からんのだが!」

「俺が行って確認して来ましょう。しばしお待ちください」


 そう言ってキャンポムがアタック・オン・リコから降りると、更に歓声が大きくなった。

 彼らは口々に「ようこそ救国の義勇軍!!」と彼らを歓迎する。


 キャンポムが群衆にもみくちゃにされながら戻ってきて、事情を説明した。


「どうやら、ゴルラッツ砦を陥落させた報せが届いているようでして。ポヨポヨの圧政に耐えかねていた民衆の中で、我々反乱軍が英雄視され始めているのかと」


 南雲は「なるほど」と短く答えた。


『良いじゃないですか。英雄扱いを利用させてもらいましょうよ。南雲さんなんて、そっちじゃ英雄扱いでもされてなかったら白衣着た不審なおっさんですからね!』

「山根くんはさ、私が無事に帰ったら絶対に減給するからね? もう、私がいなくなるとやりたい放題してるじゃないか」


 山根は監察官室で常にサーベイランスを稼働させ、アタック・オン・リコの周囲を警戒している。

 ちゃんと仕事をしているのに、なにゆえ南雲に叱られるのか。


「君がピザポテト食べた手を拭いたの、それ私の白衣だからな? 見てるんだぞ、そういう細かい悪事を! ああ、ほら! 今度はピザポテト食べながら私の端末を触る! 自分のヤツを使いなさいよ! 君、ちょっと逆神くんに似てるぞ!!」


『いやー。Sランク探索員を超える逆神くんに似てるとか、それって褒め言葉じゃないですかー。やだー』


 山根は『ところで、現世の煌気オーラが1つ近づいて来てますよ』と南雲に告げる。

 南雲は「ああ、分かっているよ」と答えた。


「アーハハ! みんな遅いYO! 待ちくたびれちゃったZE!!」

「ご苦労だった。梶谷くん。どうだね、街の様子は」


「なかなかエキサイティングでマーベラスな感じがフィーリングでバイブス上がりますYO! さあ、南雲さんも降りてくださいYO!!」


 六駆が立ち上がる。

 それを手で制するのは南雲監察官。

 彼の両手には、いつの間にか『双刀ムサシ』が握られていた。


「降りるのは君だ。梶谷くんに上手く化けたつもりだったか?」

「何言ってるんだYO! ひどいZE、南雲さん!!」


「せぇいっ! 『小咲こさき爆蓮華ばくれんげ』!!」


 南雲は素早く白刃を一振り。

 梶谷(?)がそれを曲芸のようにバク転して躱して見せる。


「梶谷くんはバカだが、そこまでバカっぽい喋り方はしない。君は誰だ」


『はいはい! サーベイランスは絶好調! カタカタターンと! 出ました! ビンゴ! 阿久津パーティーの1人、猿渡さるわたり秀麿ひでまろです!』


「なんだよ、話とちげーじゃん。南雲はとろい監察官だから、暗殺よゆーって浄汰じょうたは言ってたのによー。かーっ。じゃ、このだっせぇ変装はヤメだ、ヤメ!」


 猿渡が正体を現した。

 しかし、ここは街の中。反乱軍としてはうかつにスキルを使えない。


 それを理解している猿渡。

 アタック・オン・リコに向かって攻撃を仕掛ける。


「『サブマージョン・ディープ』!! ぎゃはは! バカ騒ぎしてる街のヤツと一緒に沈んどけ! バーカ!!」


「逆神くん! 加賀美くん!」


「はいはい。なんですか、このスキル。一定の範囲を水没させる効果かな? こんなもの反射する価値もない。ふぅぅんっ!」


 六駆の気合で猿渡のスキルが霧散した。

 続いて、加賀美が竹刀『ホトトギス』に南雲を乗せて、スキルを放つ。


「行きますよ、南雲さん! 攻勢5式! 『渡り鳥』!!」

「げぇっ、マジかよ! ぐぁぁぁっ!」



◆◇◆◇◆◇◆◇



 加賀美の『渡り鳥』の衝撃でおおよそ2キロほど街から吹き飛ばされた南雲と猿渡。


「君からは聞きたい事が山ほどある。しばらく付き合ってもらおうか」

「なんだぁ? 結局ヘボ監察官と2人きりじゃん! ついてるぅー!!」


 南雲修一の戦いが始まった。

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