第85話 ルベルバック軍VS『苺光閃』 日須美ダンジョン第16層

 日須美ダンジョン第16層は細い通路で構成されていた。

 そんな場所なのに高火力のスキルで挨拶をする六駆。


「そ、総員! 『アスピーダ』を解放せよ! こりゃいかん! 最大出力で!! 煌気オーラ切れを起こしても構わんから!!」


 六駆の『大竜砲ドラグーン』は手加減されていたとはいえ、相手を殲滅するつもりで放たれていた。

 それを、ルベルバックの軍勢は『アスピーダ』と呼ばれる光る盾のようなもので防ぐ。


 どうやらルベルバックの兵士たちは、武器によってスキルを増幅させる技術を持っているらしく、現世ではそれを相当高性能なイドクロア装備と呼んぶだろう。


「うわー。まさか1人も倒せないとは。加減が過ぎたかぁ」


 兵隊1人の煌気オーラ総量はたいしたことのないものであり、莉子にはもちろん敵わず、クララといい勝負のレベル。

 それなのに、これほどハイスペックな盾を展開させて見せたルベルバック軍。


「いいぞ! これは本気が出せそうだ!! ふふふ、ワクワクしてくるね!!」


 未知の科学技術力を持つ軍隊を前に、六駆おじさんの眠れる闘争本能が目覚めようとしていた。


「ストップ! 六駆くん!! 何しようとしてるのぉ!?」


 そこに待ったをかけるのが良心の乙女、小坂莉子。

 防衛ラインとして、戦線を維持するのが目的である事を彼女は忘れていなかった。

 ちなみに、六駆はとうに忘れている。


 彼の闘争本能に子守唄を聴かせるのだ。


 ここで敵軍を蹴散らすのは容易いだろう。

 だが、圧倒的な力を見せてしまえば、相手はどう出るか。


 「これは旗色が悪い」と素直に撤退して、2度と現世にちょっかい出してこなくなるのならば、それが一番良いに決まっている。

 だが、そんな殊勝な考えを持つ輩は、最初から侵略などしてこない。

 更なる大軍を準備して、より強力な用意を整えて反転攻勢に打って出るだろう。


「いや。とっておきのスキルを何発かお見舞いしようかと!!」

「うわぁ。すっごい良い笑顔!! じゃなくてぇ! ダメだよ、そんなことしたら!!」


 莉子は自分の考えを六駆に伝える。

 かつて、異世界転生周回リピートの2周目くらいまでは、六駆だって戦略を立てて、正しいロジックの元に緻密な戦闘を行っていた。


 だが、彼は強くなり過ぎていた。


 いつの間にか戦いにおいて、「目の前の敵を叩き潰せば良いじゃない!! 何度でも!!」と思い始めていた六駆くん。

 それがだいたい17年前くらいの話なので、莉子がおぎゃーと生まれて今の姿になるまでの時間と言う事になる。


 ならば、彼の考えを一蹴するのは少しだけ気の毒。


「なるほどねぇ。防衛戦なんて、もう何十年もしてなかったからなぁ。そうかー。莉子の言う通りだ。さすがリーダー! 頼りになる!!」

「えへへ。そうかなぁ? 六駆くんに戦闘で頼りにされるとか、超レアな体験だから嬉しくなっちゃうよぉ! いつもは情報提供だけだもんっ!」


 面白くないのはルベルバック軍。

 いきなり頭のおかしい威力のスキルぶっ放されたかと思えば、目の前で若い男女がイチャイチャし始めた。

 これはもう、彼らにも怒りに震える権利はあるかと思われる。


「前衛部隊! 『アストラペー』用意!!」


 どうやら、彼らの基本攻撃が電撃を高圧縮して銃から放つ『アストラペー』であると六駆はもちろん、莉子も理解した。


「あ。それはもう見たんで、大丈夫です。『避雷鳴殺迅ひらいめいさつじん』!!」


 六駆は槍を一本具現化して、適当に投げつける。

 もちろん、六駆が投げるのだからただの槍ではない。


 しかし、ルベルバック軍からすれば六駆は明らかに若く、「偵察を命じられた新兵か何かだろう」と判断してしまうのも無理からぬこと。

 今後の教訓として、「相手の見た目で判断しない」と言う、六駆を相手にした人がよく陥る罠の対処法を心に刻むと良い。


「悪く思うなよ、若いの! 撃てぇー!!」

「どういたしまして。そちらこそ、悪く思わないで下さいね。『起動アライズ』!!」


 彼の投げた槍は、スキルの名前通り避雷針。

 放たれた『アストラペー』は全てそこに集まり、帯電した槍は六駆の合図で敵陣めがけて襲い掛かる。


「ぐおっ!? またしても奇怪なスキルを! 重装兵、前へ!! 『ズレパーニ』を展開せよ!!」

「はっ! 下がれ、下がれ! 銃撃隊ども!!」


 重装兵と呼ぶにはあまりにも規格外の、端的に言うとバカでかい兵隊がズシンズシンと足音を立てて先頭に出て来る。

 3メートルはありそうなその巨体。

 ジャンプしたらダンジョンの天井に頭が刺さりそうである。


 そのインパクト大な重装兵は、大仕事もやってのける。

 六駆の電撃吸収反射スキルを全てその身で受けて、耐えきってしまった。


「あららー。敵さんにスキル無効化系のヤツがいるよ。超面倒なパターン」

「それも大変だけどさ。なんか、六駆くんのスキルを知ってる感じじゃなかった?」


「アレだね。ランドゥルだっけ? フワフワ浮いてた機械。情報集積がどうこうって捕虜が言ってたヤツ。それでもって、僕のさっきの戦闘を記録してたんだろうなぁ」

「ええーっ!? ピンチじゃん! どーするの!?」


「別にピンチじゃないんだけど。莉子の言いつけ通り、適度に相手を痛めつけながら、この戦線を維持するって難しいね。ジェンガだっけ? あの、組木を抜いて行く遊び。あれやってるみたいで、フラストレーション溜まるなぁ。あと、スキルの名前がやたらと聞き慣れないのもなんか腹立つね!」


 その間にもルベルバック軍はスキル無効化の重装兵を最前線に出して、銃の弾、と言うよりはカートリッジを交換している様子を見せる。

 これから新しい攻撃をしますよと教えてくれるような仕草には、彼らの自信が見え隠れして六駆おじさんのこらえ性を刺激する。


「やっぱり一発派手なヤツを!!」

「ダメーっ!! そんな事するなら、わたしが撃つよ!」


 売り言葉に買い言葉だったのだが、六駆くん、悪魔じみたアイデアを思い付く。

 その瞬間の彼の顔は般若のようだったと言う。


「よし! 莉子が撃とう!!」

「ふぇぇ!? いや、そうは言ったけどぉ! わたしのスキルなんかじゃ、通用しないんじゃないかな!?」


 莉子は自分を過小評価している。

 彼女のスキルは充分に効果を発揮するし、能力はBランク探索員の上位クラスに到達するほどの成長を遂げているのだから。


 だが、六駆の狙いは違う。

 莉子には、あの必殺技があるではないか。


「ええー!? あれを撃つの!? しかも、出力状態を維持して!? で、できるかなぁ?」

「そうそう。さすがにあれならスキル無効化も突き破れるよ。そういう風に作ったんだから。多分、一時的に戦線を後退させられるんじゃない?」


 相談している間にも、ルベルバック軍の2撃目が迫っていた。

 莉子は決意する。


「分かった! ……ふぅ。……たぁぁっ! 『苺光閃いちごこうせん』!! やぁぁぁっ!!!」


 熱線がルベルバック軍の前衛と最前線に出ていた重装兵を襲った。

 『ズレパーニ』と呼んでいたのは重装兵の鎧だったらしく、それも見事に焼き切った。


「兵長!! 被害が甚大です!!」

「くっ。仕方がない。1度下の駐屯地まで戻れ! 負傷者の手当てをする!!」


 ひとまずこれで防衛ラインは死守できた。

 さりとて、これからチーム莉子はどうすれば良いのだろうか。

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