第84話 防衛ライン・チーム莉子
現在の日須美ダンジョンは緊急事態に直面していた。
近場の高ランク探索員がおっとり刀で駆けつけており、なにより協会本部に8人しかいない監察官ですらあと少しで日須美ダンジョン第1層に転移してくると言う、年末に企画される月刊探索員の「今年の出来事10選」にランクインは確定の、非常事態で異常事態の緊急事態。
そんな渦中の最前線にいるのがチーム莉子。
よくよく面倒に巻き込まれる彼らであるが、トラブルメーカーが揃っているため、責任の所在を追求すべきは今でない事だけが明らか。
全員が容疑者だからである。
「莉子さんや。ちょっと拷問してもいい?」
六駆おじさん、敵勢力の捕虜を見つめながらナチュラルに言った。
その余りの自然な態度に莉子も「んー」と一瞬考えてしまう。
だが、我らが心清き乙女、小坂莉子。
彼女は常識と良識を兼ね備えているのは諸君もご存じの通り。
「ダメだよぉ! こーゆうのって、アレなんじゃないの!? 捕虜の取り扱いみたいな条約とかってないの!?」
「いや、相手は異世界人だし、いいかなって!」
良いことあるかい。
この危険思想の塊を今すぐに黙らせてほしい。
チーム莉子の常識持ち3人で速やかに袋叩きにしてくれないか。
「あの。芽衣は思いつきましたです。逆神師匠はマインドコントロールみたいなスキル、使えないです? 自白剤みたいな効果のヤツです」
芽衣ちゃん、師匠の悪いところに影響を受けるのが早すぎる。
発想がジャック・バウアーのそれである。
確かに、現状最も必要とされるのは敵の情報。
どれほどの勢力なのか。
目的は何なのか。
それらを解明すれば、チーム莉子の行動指針になる。
だが、女子中学生が自白剤とか言ってはいけない。
お願いだから、好きなクレープの味とかについて語っていて欲しい。
できるだけ甘酸っぱいヤツで頼めるだろうか。
「司令官さん。悪いようにはしませんから、ちょっと事情を教えてくださいよ」
「ふんっ。我らは誇り高きルベルバックの軍人ぞ! 情報と魂だけは命を落とそうとも口には出さん!!」
六駆が「やっぱり一発くらい派手なスキル撃つか!」と思っていたところに、クララが声をかけた。
彼女は「ここはあたしに任せたまえよー!」と言う。
クララさん。君には荷が重すぎる。下がっていると良い。
交渉とは、コミュニケーション能力に長けた者のみに許される上級会話術。
クララは孤高のぼっち。
パーティーに加入するまで、2年と半年もの間ソロ狩りをしてきた彼女にそれができるとは、とても思えなかった。
「おじさん、おじさん! 今ならまだ間に合うよ! こっちにいる六駆くん、実は全てを知っててさ! 遊びでおじさんたちを試してるの! ほら、この浮いてる機械の事とか、ぜーんぶバレちゃってるんだよ!」
「な、なにぃ!? ランドゥルを知っているだと!? これが情報集積装置で、
「そうそう! しかも、ルベルバックの事もぜーんぶバレちゃってるの! ここに来た目的も、ボスの名前まで! ヤバいぞなー!!」
「な、なんだとぉ!? では、本国にやって来た異界の戦士の事も知っているのか!? 国王様が彼を重用していることもか!? この侵攻作戦も彼の発案だと言う事もか!?」
クララを褒めれば良いのか。司令官を
判断は諸君に委ねようと思う。
その話はとりあえず棚にでも上げておいて、である。
なにやら、得るべき情報が勝手に集まってきた。
1つ。この状況はランドゥルと言う名のメカで敵の本陣に筒抜けであると言う事。
2つ。現世の事を熟知している人間がルベルバック本国にいると言う事。
3つ。斥候隊の司令官がポンコツだと言う事。
どれも看過できない情報だが、特に3つ目は見逃せない。
しばらくお喋りしていれば、知っている事を全部吐き出してくれそうである。
もしかすると、司令官もぼっちなのかもしれない。
ぼっち同士は引かれ合う運命であると考えれば、辻褄は合う。
そんなしょうもない考察をする暇がなくなってしまったのは、実に残念。
六駆が額に指を当てて言った。
「あー。下の階層にすごい勢いで
「ふぇ!? ど、どうしようって!? ……でも、ここで食い止めないと、上の階層に軍隊が進んじゃうんだよね? いきなりこんな人たちが来たら、大パニックだよ!! 六駆くん、わたしたちで止めよう!!」
話は纏まった。
これより先、チーム莉子が日須美ダンジョンの防衛ラインとなる。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「それじゃ、僕と莉子で下の様子見てきますから、クララ先輩。芽衣と一緒に捕虜の見張りをお願いします。妙な動きをしたら、死なない程度にスキル攻撃を。これだけ派手にドンパチやってるので、高ランク探索員の人なら異常に気付くはずですから」
「にゃるほど! あたしたちは救援を待てばいいのだね!」
「そうですね。来てくれたら良いですけど。僕だったら面倒事に関わりたくないので、察知した上で帰りますから! ははは!!」
「芽衣はもう悔いはないです。こんなに可愛い装備を着られただけで、探索員になれて良かったと思えるです。おじ様、芽衣は立派に散りましたです」
防衛戦で戦力の分断は愚策とも取れるが、チーム莉子の場合は事情が異なる。
逆神六駆と言う巨大戦力を保持しているため、彼を盾にして意思決定をする者が帯同すれば、それだけで凄まじい防御システムの完成なのだ。
「クララ先輩、芽衣ちゃん! 行ってくるね!!」
「あいあい! 莉子ちゃん、気を付けて! 六駆くんがいるから平気だと思うけどー」
「小坂さん、いざと言う時は人生で楽しかった事を思い出してくださいです」
こうして、チーム莉子は防衛ライン担当の六駆と莉子。捕虜の監視に加えて応援部隊到着を待つクララと芽衣の二手に分かれた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「まずいな。莉子、僕は少しだけ先に行っておくよ。なんか、もう隊列組まれてるっぽいから」
「ええっ!? じゃあ、どうするの!?」
第16層へと続く道を走りながら、相談中の2人。
六駆は親指を立てて、歯を見せる。
その表情がやたらと輝いていたので、莉子の不安は増大した。
「不意打ちは卑怯だけど、この襲撃も不意打ちみたいなものだから、イーブンってとこで! ちょっとだけデカいのをお見舞いしてくる! 莉子は爆風に備えてガードしててね!!」
六駆との付き合いも長くなって来た莉子さん。
だいたい何が行われるのか理解して、足を止めた。
「か、加減してよぉ!? 『
「分かった! 任せといて!!」
そのまま第16層へと到達した六駆を待ち構えていたのは、約60人の鬼の面の軍勢だった。
「止まれぇ! 貴様、異界の戦士だな!? 抵抗しなければ悪いようには……ちょっ!?」
中隊の先頭に立つ兵士は、意外と紳士的に警告をしてきた。
それを無視するのは我らが主人公、逆神六駆。
「そぉら! 『
防衛ラインが古龍のブレスで戦いの狼煙を上げた。
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