第63話 新戦力が躍動するチーム莉子 日須美ダンジョン第2層・探索再開

「それじゃあ、まずは基本的なスキルから覚えていこう! 芽衣ちゃんは今、何が使えるのかな?」


「ええと、『ライトカッター』と『アイシクルシュート』です」


 知らないスキルが出てきたので、六駆は速やかに莉子を頼る。

 もはやこの流れるような展開にも見慣れてきた。

 莉子は「『アイシクルシュート』は中距離攻撃スキルで、氷の弾を撃ち出すんだよ」と説明すると、六駆は大きく頷いたのちに、言った。


「その2つのスキルは、いらないかな!」

「ええ!? あの、芽衣、一生懸命覚えたんですけど。とっても苦労したです」


「だろうね! だって、芽衣ちゃん中距離とか遠距離射程のスキルの才能、ハッキリ言ってないから! 才能がないのに無理して覚えるとか、労力の無駄遣いだね!」


「あ。すみません。芽衣、才能なくて」

「ちょ、ちょっとぉ! 六駆くん!! 相手がわたしならともかく、まだ中学生の女の子にその言い方はひどいよぉ! 言葉でいじめるなら、わたしにやって!!」


 莉子さん、なんだかおかしな事を言い始める。


 もしかすると、新弟子の登場にヤキモチを焼いているのだろうか。

 まさかとは思うが、そんなことはないと信じたいが、万が一と言うこともある。

 クララの様子を見てみよう。


「にゃっふっふー。これは、なんだか面白くなってきたにゃー」


 万が一であった。


 莉子はもう、戻って来られない場所まで行ってしまったのかもしれない。

 どうしてこんな事になってしまったのか。


「いやいや、芽衣ちゃんは才能の塊だよ! ただし、近接戦闘の! 主に肉体強化とか、物理系のスキルが向いてると思うんだよね。ってことで、『瞬動しゅんどう』から覚えていこうか! はい、リング! 指にはめてごらん?」


 勝手に話を進める六駆。

 と、ここで莉子が気付く。


「待って、待って! 芽衣ちゃん、そのリングってはめる時、結構な痛みが!!」

「あうっ!? い、痛いです……」


 お忘れの方もいるだろうから、改めて説明をしておこう。

 トロレイリングは体から煌気オーラを吸い出してスキル発動の補助をする装飾品であり、その特性上、指に煌気オーラの針が刺さる。

 これが結構痛い。注射針を刺す程度の痛みだとかつて六駆は言っていた。


「あ、ごめん! 言い忘れてたよ! 芽衣ちゃん、平気かな?」

「は、はいです! 芽衣、強くなるためなら、このくらいの痛み! むしろ快感です!! とっても気持ちいいです!!」


 芽衣ちゃん、早速アブノーマルな一面をのぞかせる。


 せっかくチーム莉子に常識人が増えたと思ったのに、なんたるぬか喜び。

 六駆を尊敬している時点で極めてアブノーマルなのに、これ以上妙な属性を増やさないで頂きたい。


 芽衣、君はまだ中学生だ。今ならやり直せる。

 戻ろう、正しいルートへ。


「ふむふむ。リングの適正は問題なしと。じゃあ、莉子。発動の感触を教えてあげてくれる?」

「ふぇぇ!? わたしが!? 六駆くんがやりなよぉー!」


「姉弟子なんだから、これからは芽衣ちゃんのお手本になってもらわないと!」


「あ、姉弟子……!! そ、そっかぁ! わたしにも後輩ができたんだぁ! えへへへ」


 莉子がどんどんチョロくなっていく。

 六駆から毒電波でも出ているのではないかと疑いたくなるくらいに、彼に関わる乙女は何かしらをこじらせる。

 なお、クララは最初からぼっちを拗らせていたので、ノーカウントとする。


 それから、莉子は芽衣に丁寧な説明で、リングを使用したスキル発動のコツを伝授する。

 その説明は六駆の10倍分かりやすく、「六駆くん、ぶっちゃけスキルの準備だけしてたら用なしなんじゃないかにゃー」とクララは思った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 六駆の指導方針の確認をしておこう。


 とにかく実践。さらにスパルタ。以上。


 彼はその方法で、これまで何人かの指導を行い、その中で実に3割が優秀なスキル使いとして成長した。

 残りの7割は挫折しているが、これを高いと見るか低いと見るかは、諸君の判断に委ねようと思う。


「『小太刀こだち抜刀ばっとう』っと。はい、芽衣ちゃん。これ使ってね。込める煌気オーラによって刀身が伸び縮みする具現化武具。じいちゃんが作ったスキルなんだよ」


 ものづくり大好き転生者、逆神四郎。

 彼は多くのスキルを開発し、息子の大吾、そして孫の六駆に伝えている。

 ちなみにそんな四郎が抱える近頃の悩みは、別居中の妻が社交ダンスを習い始めて、知らない男とペアを組んだらしいと知った事である。


「はいです! が、頑張るです! みぃっ!?」


 握った小太刀の刀身が一気に2メートルくらいまで伸びた。

 六駆の見立て通り芽衣は煌気オーラのコントロールが未熟で、そちらの技術の習得には時間がかかりそうだが、彼女の煌気オーラは柔軟性に優れており、その点は非常に稀有な才能だった。


 素養のない遠距離および中距離攻撃スキルも努力で習得できる程の適応力。

 ならば、それを得意分野に生かさない手はない。


「おっ! なんか出た! 莉子さんや、あのモンスターは?」

「シールドヒヒだね。外皮が結構固いから、そこは注意だよ。でも、その分動きは遅いんだよね。注意していれば攻撃はかわせると思うよ!」


「だってさ、芽衣ちゃん。早速さっき練習した通りにやってみよう!」

「は、はいです! やってやりますです! 『瞬動しゅんどう』っ!」


 芽衣の体が躍動する。

 ひと蹴りで3メートルの距離を瞬時に詰める様は、初めての実戦としては充分に合格点であった。


「キキィィィィィッ!!」


「はい! 攻撃が来るよ! 避けて、避けて! ジャンプでもしゃがんでも良いから!」

「みぃっ! みぎゃっ!? あ、危なかったです」


 クララがパチパチと拍手する。

 思わず手を叩きたくなるほどに、俊敏な反応を見せる芽衣。


「六駆くんの人を見る目って確かだよねー。芽衣ちゃん、本当にアタッカー向きっぽい! 体が小さくても攻撃スキルで補えれば問題ないどころか、的も小さいから実に厄介だにゃー」


「おっ。さすがクララ先輩。分かりますか。芽衣ちゃんは煌気オーラの発射が下手なだけで、煌気オーラを練ったり放出して攻撃する事に関しては、才能ありますよ!」


 シールドヒヒの攻撃を再三にわたりかわして距離を詰める芽衣。

 その俊敏な動きに惑わされて、敵に隙が生じる。


「今だ! 芽衣ちゃん!!」

「はいです! うりゃー!!」


 シールドヒヒの硬い外皮を見事に切り裂いた、期待のルーキー。

 初陣の成果は上々。

 これからの活躍を予感させるには充分なものだった。


「お見事! よく頑張ったね!」

「やったです! あの、逆神さん。ご褒美をお願いしちゃダメです?」


「僕にあげられるものなら良いよ? ちなみにお金は100円だってあげないよ?」

「あの、芽衣は逆神さんの弟子になったので、ちゃん付けじゃなくて、呼び捨てで呼んで欲しいです」


「なんだ、そんな事か! 分かったよ、芽衣! これから頑張ろうね!」

「はいです!」


 一方、なんだか面白くなさそうな表情の莉子さん。


「どうしたの、莉子。あ、分かった。トイレに行きたいんだね?」

「もぉ! 違うよ! ……ただ、ちょっとさっ! わたしの時は、小坂さんから莉子って呼んでくれるようになるまで、結構時間かかったなって思っただけだもん!!」


 「それがどうかしたのかな?」と六駆。

 その様子を眺めていたクララは「ふむふむ。微笑ましいにゃー」と、ひとりほくそ笑んでいた。


 さすが、独りで何かをさせるならクララの右に出る者はいない。

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