第58話 チーム莉子、再始動 日須美ダンジョン前・探索課事務所
始業式の翌日に学校を公欠扱いでサボる逆神六駆と小坂莉子。
六駆は早いところ小金を手に入れて夢の隠居生活へ突入するために。
莉子は自分のために働きづめの母親に代わってお金を稼ぐために。
彼らは再びダンジョン攻略に出動する。
なお、相変わらず探索員としての動機が純度100パーセントのキラキラしたものと、不純度100パーセントのなんだか薄汚れたものと言う両極端な事実には、もはや目をつぶって頂くしかないのである。
人間、長い年月をかけて培った価値観は変えられない。
六駆の言葉であり、とても17歳の考えとは思えないが、果たして一体どれほどの人がまだ彼の事を高校二年生だと思っているのだろうか。
「電車に乗るの、29年ぶりだよ。ちょっと切符買って来るね」
「へっ? 六駆くん、待って! ICカード持ってるでしょ!?」
「ああ、ダメダメ! 失敗して改札に閉じ込められるくらいなら、僕は最初から安全策を行くから! ええと、
「もぉ……。わたしはなんだか、ものすごく面倒な人と仲良くなっていってる気がして、言葉にできないものがあるよ……」
莉子さん、正解。
「ああ、このボタン押すの? なんだ、それならそうと書いてくれたらいいのに!」
「声が大きいよぉ! ついでに、書いてあるからね!? どうしておじさんってちゃんと説明書き読まないのかなぁ?」
こうして、どうにか六駆おじさん、29年ぶりに御滝市からの脱出に成功する。
クララの事をすっかり忘れているのではないかと心配されている、全国25人のクララファンの諸君には安心されたし。
彼女は日須美大学に通っている女子大生。
当然、住まいも日須美市であり、これから六駆と莉子が彼女のホームタウンに向かうのだ。
1人だけ現地集合な事になんだか寂しい気持ちを抱いているクララだが、しばらく待っていて欲しい。
今、六駆おじさんが変なタイミングでトイレに行ったせいで、電車に乗り損ねたところだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「やっほー! 2人ともー! やー、待ったぞなー! 待ちくたびれたぞなー!!」
ダンジョンの前の事務所で待ち合わせをしていたのに、日須美西駅の前にクララが立っていた。
理由は当然、寂しさに耐えかねたからなので、まあその話は割愛しても問題ないだろう。
「すみません、クララ先輩! 六駆くんが! 電車来るって言ってるのに、急にトイレに行くんですもん! 信じられます!?」
「ごめん、ごめん! 僕も自分の
「だからぁ! 女の子の前でそーゆう話をしないの! ホントに、もぉ!!」
クララがいつもの調子で「まあまあ!」と2人をなだめて、張り切って先頭に立つ。
「この街はあたしの庭みたいなもんだからさぁー!」と先輩風をここぞとばかりに吹かせながら。
日須美ダンジョンは日須美西駅から徒歩で15分。
近くにはセブンイレブンがあると言う好立地。
まるでアクセスの良さに全振りして、探索員いらっしゃいと言っているように思えるが、実際はそんなに簡単なダンジョンではない。
ダンジョンのランクはBランク。
出現してから1年半が経つものの、未だに攻略完了パーティーは出ていない。
現在の最深攻略層は第12層。
これは、御滝ダンジョンの最深部と同じ階層であり、少なくともチーム莉子が初めてダンジョン攻略に挑んだ時よりも更に深くまで潜る必要があるのは確定事項。
なお、御滝ダンジョンは協会本部によってSランク認定されているのだが、その事実は機密扱いになっており、一般の探索員には知らされていない。
であるからして、チーム莉子の3人は「あれは多分、真ん中くらいの難易度のダンジョンだったんだな!」と考えている。
「こっち、こっち! 日須美ダンジョンの事なら、クララお姉さんに聞いてくれたまえよー! なにせ、あたしが御滝ダンジョンに行くまではこっちに潜ってたからにゃ!」
「あっ! そうですよね! 近いですもんね、日須美大から!」
「クララ先輩はどうしてこっちのダンジョンの攻略をヤメて僕たちの街に来たんですか? 近ければここの方が楽じゃないですか。交通費もかからないし」
六駆くん、今日も元気にクララの地雷を踏んで歩く。
「うぐぅっ! だ、だってさ! ソロじゃ、第3層までが限界だったんだよー! しかも、第3層までは大したモンスター出ないし! 第4層から急に難易度上がるし! クソダンジョンなんだよ、ここ!!」
探索員がダンジョンの事をクソゲーみたいに言い出すのはどうなのだろうか。
莉子は少しだけ考えて、「クララ先輩も辛い時期があったんだなぁ」と優しく清らかな心でその疑念は包み込まれた。
そんな訳で、やって来たのは日須美ダンジョン探索課事務所。
まずは探索員登録を済ませなければならない。
登録とは「探索員の個人情報の確認と攻略に対する同意」を済ませることであり、ぶっちゃけて言うと「ダンジョン攻略中に死んじゃった時に色々確認するのが楽になるので、先に遺書の用意しといてね」という、悲しき儀式。
「すみませーん! 探索員パーティーです! お願いしまーす!!」
莉子の声に応じて、「はいはーい! 今、参りますよ!」と、元気な声が響いた。
なにやら聞き覚えのある事だなと莉子とクララは思った。
「あらぁー! チーム莉子の皆さんじゃないですか! さすが、敏腕パーティーは地元に留まらず、新たな戦地を探して行くんですねぇ! よっ、無敵の攻略パーティー!!」
彼は本田林。
御滝市役所に勤める、32歳。
では、なにゆえ彼が隣の市の管轄である日須美ダンジョンの探索課にいるのか。
理由は1つ。
彼が実質1人で担当していたチーム莉子がダンジョン攻略を完了させた結果、「この男には探索課の水が合うらしい」と上司に判断され、タイミング良く日須美市役所から「誰か探索課の人を貸してくれないか」と打診があったため、出向してきていた。
つまり、本田林は今回のダンジョン攻略でも、チーム莉子の担当をする事になる。
「皆さんの装備、既に届いていますよ! すごいですねぇ、協会本部からの探索要請なんて! 私もチーム莉子の奇跡の目撃者として、鼻が高いですよ!!」
初登場時は実に鼻持ちならない小役人だった彼も、今ではすっかりマジメな心を取り戻していた。
逆神六駆に関わって真っ当な道に戻るケースは稀であり、その点においても彼は幸運だった。
人は何歳からだって反省してやり直せるのだ。
「こちらのダンジョンは、潜っている探索員の数に比べて、攻略しているパーティーの数が少ないので、今度こそ大金ゲットのチャンスですよ!!」
本田林の言葉が、六駆の心に火をつけた。
そうとも、今回は必ず大金をその手に。
月に2回くらい回転寿司を食べに行ける身分を目指して。
チーム莉子は、日須美ダンジョンの登録を済ませるのだった。
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