第59話 新たなダンジョンは低刺激 日須美ダンジョン第1層
更衣室へ向かったチーム莉子は、探索装備に着替える。
赤と黒の可愛いショートパンツ姿の莉子。
黄色のミニスカートの裾を
未だに配給装備で、漆黒の痛マントを羽織る六駆。
「あのぉ、逆神様? そろそろ、装備を変えられてはいかがですか?」
「いえ、大丈夫です。この装備で僕の身の丈には合っていますから!」
彼の配給装備は、全身が灰色の地味なもの。
そこに真っ黒なマント。背中には金色の刺繍で「御滝市良いところ、チーム莉子最強!」と書かれた強すぎる自己主張。
実は、「なんだかヤバいパーティーがいて、その中でも莉子とか言うヤツはとびきりやべーらしい」と一部の探索員の間で噂が立ち始めている。
この「やべーヤツ」の正体は六駆なのだが、背中にある金色の文字が目撃者にインパクトを与え、いつの間にか莉子の名前にすり替わっていた。
何と言う風評被害だろうか。
「えへへー! やっぱり自分だけの装備を着ると、心が引き締まるよね! なにより可愛いしっ! ほらほら、六駆くん、可愛いでしょ? 特別に見てもいいよぉ?」
「おりょ、莉子ちゃんご機嫌な感じ? これは頼りになりますなぁー! さすがリーダーだにゃー」
だが、莉子が楽しそうなので、その事実を敢えて知らせる必要はないだろう。
今日も彼女には清く正しく、真っ直ぐに道を歩んで行ってもらいたい。
「それじゃあ、行こー!! 頑張るぞー!!」
「「おおーっ!!」」」
チーム莉子の士気は高い。
いざ、新たなダンジョンへ。彼らの新しい戦いが始まる。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「莉子! なんか見たことないのがいる! あれ、貴重なヤツ!? いきなり当たり引いた!?」
第1層に入ってすぐ、未知との遭遇を果たす。
だが、未知なのは六駆にとってだけで、莉子とクララにとってはうんざりするくらい既知だった。
というか、ダンジョンのモンスターを語る上では外す事のできない、中学校のダンジョン基礎の授業で使われる資料集の表紙も飾る、モンスター界の大ベテラン。
その名はグアルボン。
「六駆くん……。覚えてない? 御滝ダンジョンでクララ先輩がグアル草使って目印を残してくれてたこと」
「ああ、はいはい! 覚えてるよ! 何とか言うモンスターの
「うん。その
「ちくしょう!!
グアルボンはこちらから攻撃しなければ、探索員が100人隣を通ろうと意に介さない穏やかな気性を持つモンスターであり、「あいつからはグアル草が採れるし、無理に狩らないでも良いだろう」という暗黙のルールまである。
バスケットボールくらいのサイズのカエルっぽい見た目は、「キモ可愛い」と一時期ブームになり、今でも根強いファンがいるほどである。
「グアル草だけ採って行くかにゃー。このダンジョンは攻略が進んでるから、使う機会はないと思うけど、隠し通路とかあった時に役立つし!」
クララは腰を下ろして、グアル草を丁寧に摘み取る。
ちなみにグアル草は最も安いイドクロアとしても有名で、そのお値段なんと1本で15円。
莉子が六駆にその事実を伝えると、彼は冷めた声で「そう……」とだけ答えた。
さらに第1層を歩いて行くチーム莉子。
道中、モンスターに遭遇する。
それは六駆にとって願ってもいない展開のはずなのだが、彼のやる気の炎はどんどん勢いをなくしていた。
「『フレイムアロー』! 莉子ちゃん、よろしく!」
「はい! 『
「あー。お見事、お見事」
ダンジョンの基礎知識を全て忘れ散らかしていた六駆にとって、御滝ダンジョンのモンスタードロップ法則が彼のスタンダード。
だが、御滝ダンジョンはイレギュラーな場所であり、その法則性はむちゃくちゃだと言うのは諸君もご存じの通り。
つまり、日須美ダンジョンの構造こそ正しいダンジョンの在り方なのだが、必然的に弱くイドクロアも持たないモンスターが増えることで、反比例するように六駆の目から光を奪っている。
「ちょっとぉ! 六駆くんも働いてよぉ! わたしたち、
「だって、ここのモンスター、ひどいじゃない? こんなの、ファニちゃんでも倒せるよ? 小学生女児が倒せる相手に、いい年した僕がガチったら恥ずかしいよ」
「あと、
「もぉ!」と怒った素振りを見せる莉子だったが、実際のところ六駆の言うとおりであり、この階層で彼にスキルを使われると、たまにすれ違う探索員にわざわざヤバいおじさんの存在を知らしめる事になると彼女も理解していた。
こうなると早く階層深くまで潜って、イドクロアを収拾しつつ情報も集めるのが最良の策だと莉子は判断。
クララもその意見に賛同した。
六駆は独り、空気椅子のタイムトライアルに挑んでいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ペースを上げて第1層を駆け抜けるチーム莉子。
もちろん、低ランク探索員の手に余りそうな、ほんの少し強いモンスターは移動しながらちゃんと倒している。
思えば、ただのツタに絡まれて泣いていた女の子が短期間で見違えるほどの成長を遂げている。
これも共犯者同盟の力なのだが、六駆に言わせるとまだまだ彼女はひよっこ。
やがて来る、六駆が待ち望む隠居の時。
その時が来れば
空気椅子を嗜みながらも、ちゃんと未来的な思考をしていた六駆おじさん。
「あっ! 見て、多分あそこ、第2層への道じゃないかな?」
「やー! そだそだ、間違いないにゃー。あたしも久しぶりに来たから、結構忘れてるよー。六駆くんの事を笑えないなぁー」
「あはは! いくらなんでも六駆くんほどじゃないですよぉ! この人、既に社会不適合者みたいなものですから! やだなぁ、もぉ、クララ先輩ってば!」
「……莉子さん? おじさん、確かに何もしてないけどさ、耳は聞こえてるよ?」
六駆が師匠らしい事を考えると、莉子が図ったかのようにディスる。
ある意味では実に相性のいい2人。
「みぃぃぃぃぃっ!? ひぃやぁっ、た、たしゅけてぇ! んぎゃぁぁっ!!」
下の階層から、活きの良い悲鳴が聞こえた。
声から察するに女の子のものであり、それもかなり若いと六駆は考える。
六駆の描いたチーム莉子・完成形パズルのピースが意外な形で埋まろうとしているのだが、当然彼らには予想できるはずもない。
出会いとはそういうものである。
チーム莉子に変化の時、
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