第51話 気付けばまたしても異世界を平定していた逆神六駆

 六駆の言葉が全土に響き渡った瞬間。

 莉子たちは戦いを終えて、負傷者の治療にあたっていた。


 そこにはファニコラの姿もあった。

 彼女は「危のうございます!!」と止める近衛兵たちに向かって「このような時に動かぬして、なにが魔王なのじゃ!!」と一喝。

 特別な事はできないが、傷ついた兵士に水を与えることくらいはできる。


 ファニコラはまだ幼いが、立派に魔王としての器量を持っていた。


 そんな折、六駆のよく分からないけどヤバそうな宣言が聞こえた。


「うぇぇぇ!? ど、どういうことなのじゃ!?」


 せっかく権威を示した直後なのに、六駆の意味不明な言葉に混乱するファニコラ。

 それに同情するように、莉子が言った。


「ご、ごめんね? うちの六駆くんが、また何かとんでもない事をやらかそうとしてるみたいで……。あの人、相談しないでホントにやっちゃうんだよね」


 クララも同意する。


「何か問題があるなら早く言わないと、六駆くんは事後承諾すれば許されると思ってるからにゃー。どうする、ファニちゃん?」


「ど、どど、どうすると言われても! 魔法がなくなるのは困るのじゃ!!」

「しかし、六駆殿が何のお考えもなくそのような行動に出るとは思えませぬが。む。しばしお待ちを。テレパシーが飛んできております。これは、シミリートか!」


 はぐれ者の天才も六駆の言葉を聞いており、優れた魔技師である彼はその本質を理解していた。

 いくら人付き合いが嫌いだと言っても、国の危機とあらば彼も魔王軍に協力するのはやぶさかではない。


『ダズか。大至急、私のところへ来てくれ。そして、私を戦地に連れて行け。英雄殿に提案がある。急げ』

「お、おう! 確かに、現地に行くのが早かろう! 分かった!!」


 ダズモンガーの判断は素早かった。

 すぐ飛竜の用意をし、負傷兵の治療をニャンコスに任せて、出発する。

 同乗者には、もちろん莉子とクララの姿もあった。


 チーム莉子として、六駆のやる事について疑問はないが、何をするにしても責任だけは一緒に背負いたい。

 そう思うのは、共犯者同盟を結んでいる莉子の矜持。

 クララも、パーティーメンバーとして、思いは同じ。


「行くのじゃ、ダズモンガー!」

「ファニコラ様。時間がないのでもう説得は諦めますが、大人しくしてくださいますね? 吾輩か、莉子殿、クララ殿の傍を絶対に離れますなよ!」


「分かっているのじゃ! 魔王として、決断するのはわらわでなければいけないのじゃ!!」


 意思の固いファニコラも加えて、4人はまずシミリートを拾い、さらに西へと飛竜を急がせる。

 道中に残る戦いの爪あとが、彼らにやるせない感情をもたらしていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃の六駆おじさん。


「『完全監獄ボイドプリズン』!! 超広域展開!!」


 どうやらこっちに魔王軍の話が分かる人たちが向かっているらしいとトンバウルから聞いた六駆は、とりあえず人族の兵を無力化することにした。

 ファニコラはもちろん、非戦闘員のシミリートにも、万が一があってはならない。


 『完全監獄ボイドプリズン』は17年前に六駆が時の魔王軍に授けた『六駆監獄ロックプリズン』の元になったスキルであり、その領域内での全ての攻撃が包囲したバリアによって弾かれる。

 敵を内側に入れて、外側を安全地帯に換える防御スキルである。


「はい、みんなー。こっち来てー。回復しますからねー」


「ひっ!?」

「我々は、軽傷でございますので!!」

「そうです、そうです! お心遣いだけで胸がいっぱいです!!」


 トンバウル軍の兵たちは、先ほどの急にキレる六駆を見ていたため、正直英雄にドン引きしていた。

 だが、傷ついた者を放置するのをきっと莉子は良しとしないだろうと六駆は考え、こちらも超広域展開の『気功風メディゼフィロス』を使用する。


 思いがけず温かい癒しの風に包まれて、疲弊した兵士たちはほっこりしたと言う。

 この時の情景は、後世、トンバウルの自著で「悪魔が神と表裏一体であることの証明を私はこの目で目撃した」と記されている。


 スキルの超広域展開を2つ掛け持ちして平気な顔をしている六駆を見て、両陣営が「関わりたくない」と心を一つにし始めた頃合いに、飛竜の姿が見えてきた。


 チーム莉子、久しぶりの集結である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「莉子! 無事で良かった!!」

「六駆くんも! 絶対平気だと思ってたけど! 頼りになるわたしの師匠だもん!!」


「やー。相変わらず、仲がおよろしいですにゃー。ファニちゃん、あれがラブコメだよ。よく見ておくんだよー」

「なるほどなのじゃ! 妾もやがてはラブコメなるものに手を出したいのじゃ!!」


 この瞬間、魔王軍の6割が言い知れぬ不安に駆られたと言う。


「ああ、良いかね、英雄殿。無駄を省いて話がしたい。魔素を消すとは?」

「どうも、シミリートさん。いやね、考えたんですよ。魔素がある限り、この人たちまた力を蓄えて一斉蜂起しますよ、絶対。だから、大気中から魔素自体を消してやろうかなと思いまして」


「……なるほど。お考え、理解した。確かに、それは有効な手立てだろう。だが、魔王軍にも魔術師や魔技師がいる。魔素を全て消されるのは困るな。そこで考えたのだが、魔素の形を変えることはできないか?」


「ふむ。形を変える」


「実に都合のいい考えで、論理的でないのも承知の上だが、例えばだがね。魔族にのみ魔法が使えるように、魔素を再構築する。と言うのはどうだろう。いや、我ながら荒唐無稽こうとうむけいな事を言って恥ずかしいが」


 六駆は少しばかり考えた。

 割とすぐに代案を思い付く、歴戦の英雄。


「じゃあ、こういうのはどうですか? 僕が全土から魔素を1度吸い上げますので、シミリートさん。魔素を上手い具合に魔族にしか使えないように調合してください」


「くくっ。英雄殿は無茶を言われても涼しい顔で、そのまま無茶を返してくるとは。分かった。やってみよう。ただし時間が欲しい。3ヶ月。いや、1ヶ月で良いから、吸い上げた魔素をそのまま維持しておいてくれないか?」


 ここでむちゃくちゃ理論を展開中の2人に待ったをかけるのが、顔は怖いが心は優しいダズモンガー。


「待て、待て! 六駆殿は、その間ずっとスキルを使用しておられるおつもりか!? いくら貴殿が人の理を超える存在だからと言って、それはいくなんでも!!」



「できますよ?」



「吾輩は、未だ師の力量を計り知れなんだか……」


 最後に、六駆は魔王の許可を求める。


「ファニちゃん? 話の意味が分からなかったと思うけど、人族から魔素を取り上げてもいいかな?」


「うむ! それが平和に繋がるなら、妾は賛成じゃ! 人族にも、不自由ない暮らしを約束するから、今度こそ魔族と仲良くして欲しいのじゃ!!」


 六駆は「また……。魔族はお人好しが過ぎるなぁ」と首を横に振って呆れる。


 そして、彼は両手を空に向けて広げると、いつになく真剣な表情で「ふぅぅんっ」と気合を込めた。

 なにせ、異世界に漂う魔素を全て吸い取ろうと言うのだ。


 彼も、「気合くらいは演出しないといけないな!」と、サービス精神を目覚めさせていた。


「『極大吸収グランスポイル』!!!」


 彼の広げた両手の先には、光る粒子が急速な勢いで集まっていき、1時間もしないうちにミンスティラリア全土の魔素を吸い上げてしまった。


「じゃあ、この魔素の塊は空に固定しておきます。現状、誰も魔法は使えないし、どうこうしようもないでしょう」



 こうして、逆神六駆は2度目のミンスティラリア平定を果たした。

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