第52話 彼の地にチーム莉子の名を残す 人族武装蜂起の後始末
かくしてミンスティラリアの平和は再び逆神六駆によって守られた。
ならば、それでめでたしめでたし。
そんな風に行かないのが現実だと、酸いも甘いも嚙み分けてきたおっさんは知っている。
戦乱から明けて翌日。
彼らは人族武装蜂起の後始末を始めていた。
「はい。全員魔王城から出ましたか? 万が一にも取り残されていたら、僕のスキルに巻き込まれますからね? 各小隊で点呼を取って、確認が取れたチームから隊長がダズモンガーくんに報告。報告が終わったら体育座りして待機!」
六駆おじさん、体育祭の練習の指揮を執る先生みたいな事を言っていた。
魔王城は元からそこそこガタついていたところに、人族ゲリラ軍からの不意打ちを喰らったので、正直耐久性に極めて深刻な不安が残っていた。
昨夜、六駆はベッドの中で「ガガガガ」と何かが崩れる音を頻繁に聞いて、安眠できなかった。
この先、少なくとも1カ月は魔素問題の解決のためミンスティラリアに滞在する事が決まった訳であり、六駆にとって安眠できる場所の確保の優先順位は非常に高かった。
「六駆殿! 全小隊の点呼が終わりました! 魔王城は現在、完全に無人です!」
「ありがとう、ダズモンガーくん。じゃあ、いきまーす! 『
六駆は自分で「苦手なんだよね」と言いながら、魔王城をリフォームし始める。
それも、猛スピードである。
体育座りをしてその様子を見つめる魔王軍の兵士たちは、感嘆の声を漏らした。
「英雄様! 重傷者を集めましたが、こちらでよろしいでしょうか?」
「ああ、はいはい。トンバウルさんもご苦労様です。けが人の皆さんは、傷口をできるだけ服から出してくださいね! そっちの方が効きますから! 途中で気分が悪くなったりしたら、近くにいる僕の仲間に声をかけて下さい!」
魔王城の修復と同時進行で、『
もうこのおっさんが「苦手なんだよね」と言っても、聞く耳持ってはいけない。
試験の前の休み時間に「全然勉強してないんだよ」とか言いながら、学年トップの成績を取るがり勉なクラスメイトと同じ扱いで結構。
このおっさんに出来ない事が今のところないのだから、これはもう仕方がない。
「六駆殿! 見て欲しいのじゃ! ぬぐぐっ! 『
「おお! ファニちゃんすごい! 威力は弱いけど、ちゃんとスキルの形になってる!」
「あの、六駆殿? うちの魔王様のスキルで、たった今、魔王城の城門が吹き飛びましたが? 吾輩、叱った方が良いですかな?」
「どうせ修復するんだから、平気だよ。それよりファニちゃんを褒めてあげよう!」
ファニコラは、今回の騒動で自分の無力さに忸怩たる思いを持ったらしく、昨日の夜から六駆の周りを駆けまわり「
結果、根負けした六駆が、莉子の修行用にいくつか持ち歩いているリングの1つに『
ファニコラは張り切って、今朝から莉子の指導の下、スキルの勉強を始めた。
前にも言及したが、ミンスティラリアには大気中の
そもそも、ここに住む魔族と逆神流のスキルは相性が良い。
新兵でも逆神流スキルのひとつやふたつは割と使えるのがその証拠。
そんな条件が重なって、そこにリングの効力も加われば、ファニコラにだってスキルが使えないはずがないのだ。
「あははは! スキルと言うものは実に面白いものだのぉ! ダズモンガー! 喰らえ、『
「ぐぁあぁぁっ! おやめください! 魔王様!! 人に向けてスキルを撃ってはなりませぬ!! 六駆殿、軽率にチートアイテムを授けないで下され……」
「いや、でもファニちゃんも魔王としての自覚が芽生えたんだからさ。それを見つけたら、水をあげて育ててあげたいって思うのが人情じゃない?」
「それはそうでございますが」
「ダズモンガー! ダズモンガー!! 『
「ぐああぁぁぁぁあぁっ!! おやめくださいと申しておるのに!!」
ダズモンガーの苦労がこの日から1つ増えたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
数日後。
飛竜に乗って魔王軍の3隊長たちが次々に飛び立っていく。
ダズモンガーは人族の監視のために、スキルを扱える兵士を連れて。
ニャンコスは被害実態を確認するために、ミンスティラリアを巡視する。
トンバウルは六駆が『
チーム莉子もこの日は朝から、ニカラモル村に出掛けていた。
「来たかね。英雄殿。少し相談があったのだ。ご足労頂き、申し訳ない」
「いえいえ。僕らも記録石の事をお願いしてますからね。持ちつ持たれつですよ。それで、魔素はどうなりました?」
「今のところ、魔族の血から抽出したエネルギーを混ぜる事で、人族には反応しない魔素を作り出そうとしているのだが、これがなかなか上手く行かん。そこで、知恵をお借りしたい」
「なるほど」と頷いた六駆は、莉子を指さした。
「では、どうすれば良いでしょうか! はい、莉子さん!! 制限時間は2分!」
おっさんはしばしば謎のクイズを制限時間付きで出題してくる。
無視をすると拗ねるので、これがなかなかに面倒くさい。
「ふぇぇっ!? えっと、えっと! あの、ハンバーグ作る時の、つなぎにパン粉入れるみたいな感じで、何か別のものを加える! ……とか?」
シミリートが天を仰いで「ふっはっは!」と笑う。
莉子は「もぉ! わたしに分かる訳ないじゃん!」と怒る。
「ああ、いや、失敬。別に莉子殿の言う事がおかしかったから笑った訳ではないのだよ。むしろ、その柔軟な発想に驚き、その程度の事に気付けなかった私の未熟さに、思わず笑ってしまったのだ。気を悪くしないでくれ」
莉子の発案は、六駆も思いつかなかったものだが、実は非常に優れた名案だった。
魔素と魔族の血筋は、相性が悪い。
現在の魔王軍において、魔術師の数がスキル使いの5分の1程度しかいないのがその証拠。
ならば、彼らが扱いを得意としている
「莉子。この機械に
「ええー? 壊れたりしない? ヤダよ? わたし、後で怒られるの!」
「くくっ。壊れたら作り直すさ。莉子殿、頼む」
「もぉ! なんだかよく分からないけど! てぇぇぇいっ!!」
この、莉子の
魔族にとっては魔法に転用もできる上に、スキルの威力が増すと言う、夢のようなものだった。
新エネルギーの名前はシミリートにより、リコニウムと名付けられる。
その記念すべき出来事については当然トンバウルの自著にも記され、後世に伝えられる。
莉子の名前は、ついに異世界にもその足跡を残すのだった。
もちろん、彼女の知らないところで。
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