第45話 神獣VS小坂莉子 ついに炸裂する恥ずかしい名前の必殺技

「えっと、ええと! そだ! まずは落ち着いて、相手の特性を把握しなくちゃだよ! 『風神壁エアラシルド』!!」


 莉子はまず防御の姿勢を取った。

 ダンジョンを攻略し始めた頃の莉子ならば、とりあえず何かしらの攻撃をしていただろう。

 これは、六駆の教えが浸透している証拠であった。


「ううむ、なかなか腰の据わった戦闘スタイルですな!」

「でしょう? うちの莉子は物覚えが早いんだよ。『太刀風たちかぜ』を教えたら、その日のうちにほぼ使いこなしてたからね!」


「うぐぅ。耳が痛いですな」

「いやいや、ダズモンガーくんも頑張ったじゃない? 君には確か盾スキルから教えたよね? 毎日『紙矢カタアロー』で追いかけ回して! 懐かしいなぁ!!」


「今度は頭が痛くなってきましたぞ……」


 六駆がダズモンガーのトラウマに粗塩をすり込んでいる間に、莉子とレスジャレオンの攻防が幕を開ける。


「キュルィ! グララララララララッ!!」


「ひゃっ!? なんか来る! えっと、『風神壁エアラシルド』、出力最大っ!! きゃあぁぁっ!!」


 レスジャレオンは魚らしく、ちゃんと水を使って攻撃してくれた。

 圧縮された水が鋭く変形して、槍の雨が莉子を襲う。


「ふぇぇ。危なかったぁ。うわわっ、また来る!! てぇぇぇぇいっ!!」


 莉子はその後、何度かレスジャレオンの水の槍を受けて、通常攻撃はとりあえず水の攻撃オンリーであると結論付けた。

 それらの攻撃は彼女の『風神壁エアラシルド』で防ぐ事ができたので、今度は攻撃に回るのがセオリー。


「よぉし! 『太刀風たちかぜ』ぇっ!!」


「キュルィィィィッ!」


 レスジャレオンも伊達に神獣と呼ばれてはいない。

 莉子の『太刀風たちかぜ』を巨大な水柱で完封する。

 実は今の莉子のレベルとレスジャレオンの強さは、ほとんど五分。

 完璧に拮抗していた。


「いや、これは思わぬ収穫と言うか、アレだね。莉子にとっては良い修行になるよ」

「自分の知らない世界で異形の主と戦えとは、相変わらず六駆殿はお厳しい。どうぞ、魔王様が焼いたクッキーでございます」


「ありがとう。おっ、美味い! ファニちゃんも女の子っぽくなってきたねぇ」

「いえいえ、まだやはり幼いところがございますゆえ、家臣一同苦労しております」


 莉子の奮戦をオカズにティータイムを始める師匠と異世界の兄弟子。

 彼女は成長期。

 よって、下手に手を貸すよりも、自分で進化のきっかけを掴む事が肝要であると言う六駆の考えなのだが、絵面えづらは女子高生を化け物と戦わせて喜ぶおっさんの魂を宿した男子高校生でしかなく、彼の好感度がまた下がること請け合いなのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふぇぇぇ。『太刀風たちかぜ』も『旋風破せんぷうは』も通らないよぉ! どうしたらいいのぉ!!」


 莉子とレスジャレオンの戦いが始まってから15分。

 相変わらず、一進一退の攻防を繰り広げているものの、莉子の消耗が目立ってきていた。


 レスジャレオンは水を使い攻撃するが、そのタネは自分の浸かっている湖から拾っているため、攻撃による体力の減少は極めて少ない。

 対して、莉子はもう『太刀風たちかぜ』と『旋風破せんぷうは』を合わせて12発ほど撃ち込んでいた。


「莉子さんや! 同じ攻撃を繰り返しても効かないんだったら、次の手を打たないと!」

「わ、分かってるよぉ! だけどぉ!」


「大丈夫、いざって時は僕が手を貸すから、思い切りやってごらん!」

「なんだか不安が残るけど……。分かったぁ!!」


 莉子も気付いていた。

 彼女の勝ちへの道筋は今のところ2パターン。


 1つ目が『太刀風たちかぜ』か『旋風破せんぷうは』による中距離攻撃の連続で相手を戦闘不能に追い込む、先ほどから繰り返しているスタイル。

 もう1つは、『風神壁エアラシルド』を展開してからの接近。そののち『斧の一撃アックスラッシュ』で仕留める、近接一点突破型の戦法。


 だが、中距離攻撃はダメージが通らず、相手が水上にいるため、近接戦法に打って出ることができない。

 手詰まりであるが、彼女には切り札が遺されていた。


 逆神家の家族会議によって作られた、莉子専用のオリジナルスキルを諸君は覚えているだろうか。

 莉子の得意とする風スキルではない点、そして煌気オーラの消費が大きい点から、師匠に「いざと言う時に使うんだよ」と言い含められている、あのスキル。


 彼女は「今がいざと言う時だよ! だって、失敗しても六駆くんのサポートがあるもん! この機会に使わないといつまでも機会がこないじゃん!!」と決意を固めた。


「よぉし! ……ふぅ。やぁぁぁぁぁぁっ!!」


 使い方は六駆から伝授されている。

 人差し指をピンと立てて、その先端に全身の煌気オーラを押し留める感覚。

 それが完了したら、一気に放出する。

 その際、放出する出口をせばめるように意識して、煌気オーラを集束させる。


 莉子の必殺技、ついに初公開の瞬間が来た。



「せぇぇぇのぉっ! 『苺光閃いちごこうせん』っ!!」



 『苺光閃いちごこうせん』は圧縮された煌気オーラが一気に放出される、レーザービームのようなもの。

 その威力は込める煌気オーラの量によって変化するが、今回初めて使う莉子であり、当然全力で放たれた。

 莉子の煌気オーラの総量は、一般的な探索員の2倍ほどある。


 すると、どうなるか。


「キュルィ」


 短く悲鳴を上げたレスジャレオンは、首から上を焼き切られて絶命した。

 さらにレーザーの勢いは弱まらず、向こう岸の丘にも着弾。

 その形を変えた。


「やった、やったぁぁ!! あ、あれ?」

「おっと。お疲れ様。ちょっと出力が強すぎたけど、綺麗な『苺光閃いちごこうせん』だったよ! 今ので力加減も覚えたんじゃない?」


 煌気オーラを使い果たして立ち眩みを起こす莉子を華麗にキャッチする六駆。

 そして、流れるように用意していた煌気オーラ充填済みの『注入イジェクロン』を太ももにブスリ。


「六駆殿……。何と言うスキルを教えておられるのですか……。まだ制御できていないのに、使わせないでくだされぇ!!」

「いやぁ、異世界なら平気かなって!」


「六駆殿にとっては異世界でも、吾輩たちにとっては現世ですぞ!!」


 ダズモンガーの言う事には筋が通っており、六駆は「それはまったくその通り!」と自分の非を認めた。

 おっさんは割と簡単に非を認めるので、そうなると振り上げた拳は下ろさざるを得ない。


 「吾輩、向こう岸を見て参ります」と言って走り出すダズモンガーに、「あ、帰りにうろこ剥ぎ取って来てくれる?」と気楽に言う悪魔。失礼、六駆。

 莉子のレベルがまた1段階アップしたのだが、制御できない『苺光閃いちごこうせん』をダンジョンで撃っていたらと考えると、あまり想像をしたくないものである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 バギド湖からニカラモル村に戻ってきた3人を、村人たちが出迎えた。

 「神獣のせいで魚が獲れず困っていた」と口々にお礼を述べる村人を見て、「なるほど。シミリートさんも食えない人だなぁ」と納得する六駆。


 シミリートは必要なイドクロアの採取と、村の食糧事情の改善を1度の労力で解決して見せた。

 村人との付き合いの悪い彼が邪険にされない理由は、その知恵が村を豊かにする事を皆が知っているからに他ならない。


 うちのおっさんにもこのくらいの発想力があればと思わずにはいられなかった。

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