第46話 くすぶる戦乱の炎 迫りくる人族の武装ゲリラ軍
「ふむ。良いぞ。やはりレスジャレオンの鱗がこの記録媒体の部品に限りなく近い。レスジャレオンについての説明はダズから聞いてくれるかね」
シミリートは莉子が討伐した神獣から剥ぎ取ったイドクロアを手に、記録石の解剖実験を再開した。
実に生き生きとした表情の彼を見ていると、六駆も莉子も希望を抱かずにはいられない。
ダズモンガーがレスジャレオンの由来について解説をする。
あの神獣と呼ばれていた魚は、倒しても10年周期で復活を繰り返すのだと彼は語る。
そして、それまでの記憶をどこに保管しておくのかと言えば、
レスジャレオンは、自分の情報を全て記録させた鱗が1枚あれば、時間をかけながら元の姿へと体を構築する。
その情報集積量の質の高さと、10年にも及ぶ期間の長さにシミリートは目を付けたのだった。
「どうだ、シミ。お前ならば、どうにかできるであろう?」
「ダズ。その質問に、私は結果でしか答える事は出来ないよ。成功すればイエス。失敗すればノーだ。ただ、全力は尽くさせてもらうがね」
「このような事を申しておりますが、シミはやる時はやる男ですゆえ! 六駆殿、莉子殿、ご安心めされよ!! まだ時間がかかりそうですので、バギド湖に戻って釣りでも致しますか? 吾輩、釣りならば腕に覚えがありますぞ!」
「ああ、ダズモンガーくん釣りとか狩りとか上手かったよねー。僕のご飯のお世話をずっとしてくれてたもんなぁ。ああ、懐かしい!」
「六駆くんがそんなに昔から生活力がなかったんだと思うと、わたしは複雑だよぉ。今度おうちにお邪魔する時は、何かオカズ持って行くね?」
ほのぼのとした時間が流れる。
と彼らが思ったのは、ほんの1時間にも満たない間だった。
釣りに出かけようとした3人の元へ、村人が走って来る。
呼吸もままならない彼は、ダズモンガーにすがりついて、助けを求める。
その背中には、矢が突き刺さっていた。
「きゃあっ!? だ、大丈夫ですか!?」
「莉子、下がって! 『
六駆は村人の背中から矢を吸い取り、『
さらに『
先んじて送り込んだ
「だ、ダズモンガー、様ぁ……。人族のゲリラが……村に……」
「分かった! もう喋らずとも良い! 六駆殿、この者をお任せしても!?」
「もちろん。僕の力でどうにかなれば良いんだけど」
「ダズ。やるなら村の外でやってくれよ。修理をするのは私の仕事になるからね」
「バカを申すな! ……そのような配慮、今の吾輩にできると思うか!?」
「だろうね。やれやれ。また仕事が増えるか」
ダズモンガーは単身、シミリートの家から飛び出していった。
そこには、炎に包まれたニカラモル村があった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ひゃはは! 殺せ、殺せー! 今日、この瞬間こそ、我ら人の復権を掲げる記念日よ! 汚れた獣人どもを根絶やしにしろ!!」
村の入口には、人族のゲリラ部隊が展開していた。
その数20。
この小さくのどかで穏やかな村を焼き討ちにするには、充分過ぎる脅威。
「き、貴様らぁー!! ぬぅぅん! 『
ダズモンガーは力いっぱい
その球は弾けると、一斉に雫となって降り注ぐ。
本来は硬度を持った散弾の雨を降らせるスキルだが、今回は消火活動に応用するため、豪雨として燃え盛る炎を迎撃した。
「村人がいねぇぞ! さては逃げやがったな!? くそ! せっかく狩りの時間だってのによ! 『フレアボール』!!」
不幸中の幸いと言うべきか、村人の避難は済んでいた。
背中に矢を受けた青年が、身を挺して危機を知らせたのだ。
篠突く雨の中でも威力が衰える事のない炎の魔法で、さらにゲリラたちは民家に火を放つ。
「させないもん! やぁぁっ! 『
そんな悪の火を打ち消すのは、我らが正義の乙女、小坂莉子。
まだ習得していない『
「かたじけない、莉子殿! ぬぉおおぉぉぉっ!! 『
「ぎゃあぁっ」
「ひぎぃ! な、なんだぁ!?」
「おい! この村ぁ、非戦闘員だけじゃねぇのかよ!」
「俺が知るか! 逃げんだよ!!」
ダズモンガーの動きは速い。
ゲリラ軍を1人たりとも逃がすつもりはなかった。
「うるぁ! ふぅんぬぅ! ぜらぁ! 貴様ら、無抵抗な者しかおらぬと知って、この村を襲いおったのかぁ!! 『
六駆直伝の『
このスキルの優れた点は、自在に移動しながら
ダズモンガーは、見事に19人のゲリラを戦闘不能に追い込んだ。
魔王軍の双璧の異名は伊達ではない。
「お、おい、よせよぉ!」
「貴様の首など、容易く折れる! 答えよ! 貴様らの目的はなんだ!? なにゆえこの村を襲った!?」
ダズモンガーは怒りに身を任せながらも冷静だった。
ゲリラを1人だけ無傷で残し、尋問する。
彼には分からない。どうしてこの村を襲う必要があったのか。
すると、ゲリラは命惜しさにものの数秒で白状した。
「俺たちは、適当な村を襲って! そんで、魔王軍の注意を引き付けて分散させろって! そう命令されただけなんだよぉ!」
特に目的意識も持たずに、ただ命じられたと言う理由で穏やかに暮らしていた村人に害意を向けたと言うゲリラの残党。
その首をへし折らないダズモンガーは、まさしく武人の誇りに満ちていた。
「……目的を申せ! 人族は何を企んでおる!!」
「詳しくは知らねぇよぉ! ただ、主力部隊が向かった先は知ってる! 教えるから、助けてくれ!! なっ!?」
「早く言わんか!!」
「ま、魔王城だよ! なんか知らねぇけど、今日が人族の復活祭なんだってよ!」
ダズモンガーの脳裏には、様々な思考が乱れ、流れ、そして消えていく。
これまでゲリラ軍の侵攻に対して対処が甘すぎたのか。
自分の責任で、魔王城が危機に陥ったのではないか。
どうすれば良いのか、誰か教えてくれないか。
「ダズモンガーさん! 早くお城に戻りましょう!!」
莉子は世界が変わっても、真っ直ぐにただ正解のルートを指し示す。
彼女のリーダーシップに救われた者は数知れない。
ここにも、また1人。
「な、なあ? 正直に話したんだから、許してくれぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
最後のゲリラを湖の方向へ思い切り投げ飛ばしたダズモンガーは、莉子に尋ねる。
「一緒に闘ってくださると申すのか!? 危険はあれど、得るものはありませぬぞ!!」
「わたしたちはもうお友達です! 困っているお友達を見過ごせませんよぉ!!」
涙を流しながら頷いたダズモンガー。
莉子と共に、飛竜に飛び乗った。
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