第44話 神獣の鱗を手に入れよ ニカラモル村付近・バギド湖
シミリートの家にお邪魔した六駆と莉子。
中はまさに科学者のラボと言った様子で、あちらこちらによく分からない機械や
部品が散乱していた。
そのいくつかを見て、莉子が声を上げる。
「あれ、こっちのヤツと、そっちも! イドクロアを使った装備だよ! 探索員協会のマークが入ってるヤツもある!!」
シミリートは満足そうに頷いた。
「君はなかなか見所がある。ご指摘の通り、それらは君たちがダンジョンと呼ぶ異界への道で収集したものだ。ああ、言っておくが、別に手荒な方法を取ってはいない。廃棄されたものを拾ったり、時に友好的な者とは物々交換を持ちかけたりもした。ミンスティラリアのものは、イドクロアと呼ばれて、君たちは貴重がるのだろう?」
シミリートの見識の深さは、既に六駆のそれを超えていた。
ただ、六駆の見識の浅さは小学生レベルであるため、それを超えて見せたからと言って信頼ができるかと言えば、答えはノーになる。
「シミ。お主の道楽が六駆殿のお役に立つやもしれぬのだ。力を貸してくれぬか?」
ダズモンガーとシミリートは幼少期からの付き合いで、お互いを愛称で呼び合う程に仲が良い。
そのため、ダズモンガーの命を救ったと聞いていた六駆には、シミリートもそれなりの感謝と敬意を持っている。
ただし、シミリートは極度の人嫌いであり、村の人間とも積極的に関わろうとはしない。
そんな彼であるからして、異世界人である六駆とはついぞ顔を合わせず仕舞いだった。
その2人が、17年の時を経て、こうして出会う。
「ふむ。まあ、良いだろう。ダズの命の礼もしていないし、世界を平定してくれた恩も受けたままだからな。戦争が終わって、私も研究が随分と捗るようになった。英雄殿にはその分の返礼をせねばなるまい」
「いやぁ、助かります! 事情を説明させてもらいますね! 莉子が!!」
「はいはい。六駆くんじゃ話が進まないもんね。わたしが頑張りますよー」
六駆がセルフ戦力外になり、莉子が代わって事情をシミリートに説明した。
不足する部分はダズモンガーが補うが、詳しい説明に差し掛かって少し経ったところで「いや、もう結構」とシミリートは手で制した。
「要するに、だ。その記録石の中身を、破壊せずに、かつ、君たちがこの世界に来た事実を書き換えてしまえば良いのだろう? 例えば、ダンジョンの攻略は完了したが、そこにはなにもなかった。こんな風に」
莉子が驚いて、目を丸くしている。
ダズモンガーが慌てて彼女にフォローを入れる。
「シミはこういう男なのです、莉子殿。一を聞いて十を知ると申しますか、百を、さらには千を知ると申しょうか。とにかく頭の回る速さが常人では計り知れぬスピードでして」
「だったら、魔王城でお抱えの技師になれば良いじゃないですか」
「……ふむ。興味深い構造だ。英雄殿。この記録石とやら、割ってみても良いかね? どうせこれをどうにかしなければ帰ったところで同じ事なら、今ここで開けてしまっても問題ないと思うのだが?」
シミリートは六駆の質問よりも先に、自分の質問を通した。
六駆は「もちろん!」と快諾する。
すると彼は、思い出したように、先ほどの質問の答えを提示した。
「私は人の下で働くのは好かんのでね。過ぎた能力は、集団の中では必ず
「ああ、分かるなぁ!」
六駆のその手の経験は異世界を周回する過程で何度も経験しているので、シミリートに同調するところ大だった。
その様子を見ていた莉子は「わたしがしっかりして、六駆くんの居心地のいい環境を作ってあげなくちゃ!」と静かに決意する。
それから1時間。
わずか1時間で、シミリートは記録石の解析を終えていた。
「この村から少し行ったところに、バギドと言う湖がある。そこに神獣などと崇められているデカいだけの魚がいるから、そいつを倒して鱗を剥いで来てくれ」
「おいおい、シミ。もっと具体的に話せ。いつも言っておるだろう。お主の言葉は足らなすぎる。それでは何がどうなっているのやら」
ダズモンガーの注意を「ふっ」と鼻で笑ったシミリートは続ける。
「英雄殿は理解されているようだが?」
「なんだかよく分かりませんが、その魚を狩って来れば、シミリートさんが上手い事やってくれるわけですね!?」
「くくっ。そういう事だ。君らの世界で言うところのイドクロアだから、余分に取って持ち帰れば良い。倒せればの話だが、まあ英雄殿なら
おつかいクエストは異世界の基本。
右も左もわからない場所では、おつかいを頼まれる方がよほど楽であることを、六駆は熟知していた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
飛竜に乗る距離ではないとダズモンガーが言うので、六駆と莉子は歩いてバギド湖へと向かう。
草木の生い茂る道なき道の先頭を行くダズモンガー。
彼が『
距離にして5キロほどだっただろうか。
六駆は普通に疲れていた。
最強の男でも、疲労を感じないわけではない。
「短距離走の世界記録保持者と中学生が100メートル走ったとして、失われる体力は等しいでしょう?」と言う屁理屈が六駆の持論である。
無茶苦茶な事を言っているのは既にお察しの通り。
ただし、反論はお勧めしない。
おっさんの屁理屈に反論すると言う行為自体が、既におっさんの術中にはまった証明であるに他ならないからだ。
「六駆くんは休んでていいよ! ここはわたしが頑張るっ!」
「おお! ホントに? 助かるなぁ!」
「なんと! 莉子殿もやはり相当な実力者であらせられましたか!!」
「莉子は僕の弟子だからね。ダズモンガーくんの妹弟子だよ」
「なんと……。莉子殿、さぞかしお辛い日々を過ごしておられることでしょうなぁ」
「あ、分かります? 六駆くんのスパルタって、そんなに前からなんだぁ……」
2人がため息で考えをシンクロさせていると、神獣と呼ばれているデカい魚が湖面から顔を出した。
外敵を襲うどう猛な種族であるとシミリートから聞いていたので、莉子は「ピラニアみたいな感じかなぁ?」と想定していた。
神獣の名前はレスジャレオン。
体長15メートルほどのデカい魚だった。
「ギャゲェエェェェェェェェェッ!!」
「ひゃあぁぁぁっ!? お、おお、おっきい!! 大きすぎるよぉ!! 六駆くぅん!!」
「大丈夫、リコスパイダーよりは小さいよ! 諦める前に挑戦しないと! チャレンジ精神を失うと、人は老いるんだよ! がんば!!」
チャレンジ精神を失って老いたおっさんが、広げたレジャーシートの上で寝転がりながらのんきに声援を送り始める。
莉子にとって異世界で初めての戦闘が始まる。
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