第43話 変わり者の魔技師・シミリート登場 ミンスティラリア東の平原・ニカラモル村

わらわも行くのじゃ!」


 魔王様、城から出たいと言い始める。

 当然だが、近衛兵たちが止める。


「なりません! どこにゲリラが潜んでおるのか分かりませんぞ!」

「そうです! ファニコラ様は魔王城から出たらただの可愛い女の子ですぞ!」

「ゲリラの人質になったらどうします!? 怖い人族ですぞ!!」


「うぇぇぇ……。妾も莉子たちと行きたいのじゃあ……」


 六駆は涙を浮かべるファニコラを見て「変わらないなぁ」と頷いたのち、ダズモンガーに尋ねた。


「ゲリラって?」

「あ、それは……。六駆殿には隠し事ができませぬな。先代の魔王様が亡くなられてから、人族ひとぞくの一部が暴徒と化して、魔王軍の者を襲撃するようになっておりまして。吾輩どもはなるべく平和的に解決したいのですが、聞く耳持たず……」


 ミンスティラリアの人族は現世の人間とほぼ同じ見た目をしているが、その誰もが魔術の素養を持っており、また好戦的な教育を施されているため、魔族に対して一方的な敵意、もっと言うならば害意を持つ者が多い。


 そんな態度にイラっとした六駆によって、17年前にことごとく滅ぼされて、2度と侵略行為はしないと調印させたはずなのだが。


「オンドル首長だっけ? あのじいさんは? 多少話が通じたと思うんだけど」

「それが、先代の魔王様とほとんど同じタイミングでお亡くなりに……。今は、子供のカンドルとヤンドルが人族を纏めております」


「あー。なるほど。ボンクラなんだね」

「いえ、まあ、なんと申しますか。少々気性が荒いところがありますゆえ」


「まったく。君らは相変わらず人が良いなぁ。そんな事だからあいつらがつけ上がるんだよ。僕が行って話しつけてこようか?」


 ダズモンガーは慌てて首を横に振った。

 トラの首がものすごい勢いで揺れるので、張子の虎っぽいなとチーム莉子の3人が同時に思った。


「まさか、六駆殿にこれ以上のご面倒をおかけする訳には! 幸い、以前のような全面戦争には発展しておりませんし、我らがしばし我慢すれば気も済むでしょう。彼らの寿命は短いですからな」


「また、生ぬるい事を。まあ、良いか。ダズモンガーくんも立派になったもんね。僕が手を出さなくても平気か!」

「ははっ! お心遣い、痛み入ります!!」


 この世界の人は救いようがないなと改めて認識した六駆は、思考を本来の問題へと回帰させた。

 ワガママ魔王様をどうやって置いて行くかについてである。


「嫌じゃぁ! 妾も行くのじゃ! お主らと遊んでいてもつまらんのじゃ!」

「ま、魔王様! 麻雀しましょう! 我らがお相手つかまつります!」


「嫌じゃ! お主ら、全員がすぐ鳴くし! この前も妾の四暗刻を頭ハネしたし!!」


「やれやれ。困ったな」

「ふっふっふー! このクララパイセンに任せたまえよー! あたしがこっちにお留守番してファニちゃんと遊んどくからさ! 莉子ちゃんと六駆くんで行って来なよ!」


 莉子がすぐに「いいんですかぁ!?」とクララの自己犠牲精神を褒めるが、あさましい考えにおいて六駆おじさんを出し抜くにはクララではまだ経験不足。


「クララ先輩? 実は魔王城が居心地よくて、外に出たくないだけですね?」

「バレちったかー。だってぇ、ここの人たちみんなあたしに優しいし! みんなあたしに構ってくれるし!!」


 オタサーの姫みたいな事を言い出したクララ。

 六駆と莉子は「「あ。この人、このままだとここに居着くな」」と確信したと言う。


 結局、クララをファニコラの遊び相手に任命して、六駆と莉子はダズモンガーと共に飛竜でくだんの変わり者の魔技師の住む村へと向かう事にした。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふぇぇ! この飛竜って、速いし高いし、怖いよぉ!」


 ミンスティラリアに来てから、莉子が六駆の腕にしがみつく回数が格段にアップしていた。

 このままでは、莉子がおっさんに惚れてしまうかもしれない。

 精神年齢46歳と17歳の恋愛は事案なのか。


 これは有識者の間でも激しい議論が交わされそうである。


「まあ、ジェットコースターみたいなGはかかるよね。仕方ないな。『空盾エアバックル』っと。これで多少はマシになったんじゃない?」

「わぁ! すごい、超快適になったよぉ! ありがとー、六駆くん!」


 そう言いながらも、六駆の腕から離れない莉子。

 吊り橋効果ならぬ、異世界効果は凄まじいものがあるのかもしれなかった。


 その後、30分の飛竜の旅を終えて、ダズモンガーが「あそこに見えるのがニカラモル村ですぞ!」と指さした場所に着陸するチーム莉子。


「ダズモンガー様だ!」

「これはようこそ、ダズモンガー様!」

「何用でございますか!?」


「ダズモンガーくん、大人気じゃないの。さすが軍務のトップ!」

「からかわないでくだされ、六駆殿。皆も落ち着いてくれ! 今日は吾輩、プライベートである! 友に会うために来たのだ! シミリートはおるか!?」


 村人が一斉にジャガーの獣人の方を見る。

 顔はジャガーなので強そうだが、体は痩身で見る者に少し頼りなさげな印象を与える。


「なんだ、ダズか。今日は忙しいから、帰ってくれないか。コマを改良したんだ。どのくらい回るか、記録を付けなくてはならない」


 莉子は直感的に察していた。


「この人、六駆くんと同じタイプの人だ!」


 口に出さないのが、莉子の優しさであった。

 代わりに六駆が口に出した。


「まあまあ、そう言わずにちょっと僕の話を聞いてもらえませんか?」

「誰だね、君は。……んん? 待て、見覚えがあるぞ。英雄の逆神六駆。違うかね?」


「英雄かどうかは置いといて、いかにも僕は逆神六駆です」


 村人たちがざわつく。

 逆神六駆と言えば、人族に虐げられていた魔族を救った救世主。

 英雄などでは収まりきらず、神として崇める者も多く存在しており、この村も多数派に属していた。


「おおお! 神だ! 見ろ、銅像と同じ顔をしておられる!!」

「何と言う事だ! まさか、この地に再び降臨されるなんて!!」

「隣におられる女子おなごはきっと、神の妻だぞ!!」


 ついに神様扱いされ始めた六駆おじさん。

 17年前は魔王城で暮らしていたため、村単位まで情報がどのように伝聞されているのかは知り得なかったが、神格化されているとは。

 胆の据わり方には定評のある六駆も、これには苦笑いを浮かべるしかなかった。


 一方、莉子は六駆の嫁扱いされた事実に「ふぇぇ!? ど、どうしよ!? 腕組んでたせいかなぁ!?」と慌てながらも、ちょっとだけまんざらでもない様子。

 異世界は人を恋に落とすのか。


「ふむ。英雄殿との会話か。それなりに有意義かもしれん。ダズ、それに英雄殿とお連れの。まあ、ゆっくりしていくと良い。茶くらいは出そう。我が家へ来たまえ」


「助かります。いや、名前が売れてるってのも意外とアリだね。莉子」

「へっ!? あ、う、うん! そだね! えへへ」


 その英雄の背中にガッツリ書かれている名前が自分のものだとすっかり忘れている莉子なのであった。

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