第41話 魔王・ファニコラのおもてなし
ファニコラは、小学校高学年の女児にしか見えない。
青い髪と灰色の瞳は神秘的な雰囲気を醸し出しているが、まさか彼女が
「た、大変失礼いたしましたぁ!! ごめんなさい、そんなに年上だなんて思いませんでした!! もう、全部六駆くんのせいです! わたしがあとで叱っておきますので!!」
莉子は、自分の失礼も全てひっくるめて六駆のせいにした。
今日の莉子さんは少しズルいが、たまには見逃してあげて欲しい。
「よい、よい!
「は、はいぃ! 莉子でございますぅ!」
「莉子、どうしたの? そんなに怖がらなくても、ファニちゃん普通の女の子だよ?」
実は今回、珍しく六駆の言う事がだいたい正しい。
ファニコラは魔族としてはまだまだ未熟で、スキルはもちろん、魔法も満足に扱えない。
見た目通りの女児である。
ランドセルがあれば、立派に小学生が名乗れる。
ただし、魔王軍内の支持率、と言うか人気は非常に高く、「ファニコラたんのためならこの命などいりませぬ! はぁはぁ!!」と息巻く部下で溢れている。
家臣に恵まれているのだが、まだ遊びたい盛りのファニコラにとってその環境は結構退屈であった。
そこにやって来た、昔良くしてくれた救国の英雄、六駆再訪の報せ。
ファニコラは家臣を全て部屋から追い出した後「やったぁ! 六駆がまた来たぁ!!」と玉座の周りを駆けまわって喜んだと言う。
ちなみにその様子は近衛兵たちに筒抜けで、彼らは「これだからうちの魔王様は推せる!」と、勝手に士気を高めたらしい。
「莉子、そしてクララ。その、なんじゃ。あのぉ、よかったらでよいのじゃが、妾と、と、友達になってくれぬか?」
「くぅぅーっ! これは断れないよ、莉子ちゃん!! あたしは本能に逆らえない!!」
「だ、ダメですよぉ、クララ先輩! 社交辞令かもしれないじゃないですかぁ!!」
ファニコラは、潤んだ瞳でもう一度頼んだ。
「莉子。ダメかのぉ?」
「全然ダメじゃないです! お友達になります!!」
日頃から理性的な莉子が本能に負けるのは珍しく、六駆は「やれやれ。まだ子供だなぁ」と、おっさんの視点で微笑ましくその様子を見守っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ダズモンガー! もっと料理を持って来させよ! 莉子のお皿が空いておるぞ!」
「ははっ! これはいけませぬな! すぐに!」
ファニコラの提案で、謁見からわずか1時間経たないうちにチーム莉子を歓迎する食事会が開かれた。
「あ、お気遣いなく! えと、ファニコラ様?」
「ファニちゃんと呼んでくれぬと、返事はせぬのじゃ!」
「うっ! じゃ、じゃあ、ファニちゃん。わたしたちの事情ってどのくらい伝わっていますか?」
「敬語をヤメぬと、返事はせぬのじゃ!!」
「うううっ!! ファニちゃん、わたしたちの事情って理解してくれてるかなぁ?」
「うむっ! バッチリ把握しておるぞ! 莉子!!」
現在、莉子さんがチョロくなっております。
普段の賢く礼儀正しい莉子が好きな方は、今しばらくお待ちください。
「わたしたち、この記録石って装置があるせいで、この世界から現世に戻ったら多分、うう、と言うか確実に酷い目に遭いそうなんだよねぇ……」
「それは許せぬのじゃ! ダズモンガー、全軍を指揮して、現世とやらに攻め込むか!?」
ファニコラは幼いが見識は深く、思考力は現世の大人よりはるかに高い。
だが、残念なことに、六駆の言葉を借りると「脳筋的な考え方」をする。
「やっ! それはダメだよ、ファニちゃん! それやると、あたしらマジで帰るとこ失うんで! お気持ちだけで結構だよ! ありがとね!」
クララの一言がなければ、現世とチーム莉子with魔王軍の全面戦争に発展していた。
実に素晴らしいタイミングの合いの手。
さすが、クララも六駆の相手をしてそこそこの時を過ごしているだけの事はある。
面倒な相手を黙らせる術を身に付ける練習台として、おっさんほど適役な人選はないと彼女たちは知っている。
「しかし、ならばどうするのじゃ? 妾としては、六駆殿たちにいつまで居てもらっても構わぬのじゃが」
「うーん。お母さんに心配かけたくないからなぁ。って言うか、こっちに来てもう結構経ってるよね!?」
話を引き取るのが大好き、六駆おじさん。
ここぞとばかりに手を挙げる。
「それは大丈夫だよ。異世界と現世って、時間の流れが違うんだ。僕らは
引き取るだけ引き取って、中途半端な説明をして、満足して食事に戻るおっさん。
結果的に手間を増やさないでほしい。
異世界ごとに差異はあるが、だいたい現世での1日がこちらでは5年ほどと諸君にはお考えいただけると話が早い。
六駆が異世界転生
結構大事な内容なので、赤線でも引いておいてもらえるだろうか。
「そっかぁ。じゃあ、時間だけはあるんだね。それは良かったけど、全然解決になってないよぉ! どうするの、六駆くん!!」
肉料理をモグモグやっていた六駆くん。意外と建設的な事を言う。
「まあ、こっちで記録石をいじれる人を探してみて、見つかればそれで良し。ダメなら、僕がフルパワーで記録石を複製してみようかな。一応、無機物を複製するスキルも覚えてるんだよ。じいちゃんに習ってさ。ただ、僕の得意分野じゃないからあまり期待はしないで欲しい」
「安心するのじゃ! 万が一の時は、ミンスティラリア全軍で現世に攻め込むのじゃ!!」
「おおおっ!!」
脳筋女児が高らかに宣言すると、家臣が盛り上がる。
「ふぇぇ。なんだか、これまでで一番六駆くんが頼りになる気がするよぉ」
「いやー! まあ、だいたい僕の責任なんだけどね! ははは!」
そうなのだ。
六駆が異世界と関りがある事を隠して探索員になり、挙句自分の知っている異世界を万の確率から一発ツモ。
さらには莉子に逆神流のスキルを授けたのも六駆。
割と元凶である。
だが、莉子は探索員になれた事、逆神流のスキルを教えてもらえた事、いずれにも感謝しており、まかり間違っても恨みに思っているような感情はない。
そしてそれは今後も変わらない。
その点だけはハッキリと明言しておきたい。
六駆と莉子は共犯者同盟。
彼らの絆は、ちょっとやそっとじゃ切れない程に太く、頑丈に育っていた。
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