第39話 六駆の弟子だったダズモンガー 飛竜の背中

 魔王軍迎撃部隊隊長、ダズモンガー。

 彼は何を隠そう、六駆がミンスティラリアに転生して来て、しばらく山で遊び惚けていた時期にたまたま出会った、第一異世界人だった。


 六駆は出会いの縁を大切にするため、人族に弓矢で追い立てられていた若き頃のダズモンガーを『太刀風たちかぜ』で救った。

 異世界に転生したからと言って、必ずしも人間側に味方しなくてはならないルールはない。


 さらにこの時期の六駆くんは、逆神家の崇高なる使命(笑)に嫌気がさし始めていた時期であり、ぶっちゃけるとやさぐれていた。

 そんな時、自分の親父と同じ年くらいのおっさんがダズモンガーを嬉々として追い回している現場に遭遇したのだ。


 それはもう、『太刀風たちかぜ』を大盤振る舞いしたと言う。


 その縁で魔王軍と繋がりを持つことになるのだが、それはダズモンガーと出会ってから実に3年後の事だった。

 よく山の中で3年もダラダラできたものである。


 とにかく暇だった六駆は、ダズモンガーにスキルのいろはを教えた。

 この世界に現世で言うところのスキルは存在せず、代わりに魔法が普及していたのだが、ダズモンガーにはその素養がなかった。

 だが、スキルの才を持っていた。


 六駆が暇に任せて色々教えていたら、ダズモンガーは魔王軍屈指の戦士として勇名を馳せるようになったため、彼は六駆の弟子でもあり、共にこの世界を平定した同士でもあると言える。


 いずれにせよ、六駆には頭が上がらないのだ。


「そうだ、ダズモンガーくん! 元気だった? いやー、久しぶり!」

「六駆殿はまったくお変わりないようですな! 凄まじいスキルの切れ味! このダズモンガー、貴殿に救われた時の事を思い出しました!!」


 『天滑走アマグライダー』を使いながら、器用にダズモンガーと会話をする六駆。

 その頃、莉子が回復して目を覚ましていた。


「えっ、やっ!? あ、あれ? 六駆くん? ……えーと。クララ先輩、クララ先輩! 起きて下さい!! 起きてー!!」

「やー。もう、あたしは限界です。豚骨ラーメン替え玉2回目はちょっと、マジで!」


「なに寝ぼけてるんですかぁ! 起きて下さい! もぉ!!」

「はっ! そうだ、どうなった!? あたしたち、死んだ!?」


 莉子は上空を指さして、クララに告げる。


「なんか、六駆くんがクルクル回りながら翼の生えたトラさんと楽しそうにお話してます……」

「わぁお。規格外過ぎて、何からツッコミをしたら良いのか迷うねー」


 近況報告と言う名の雑談に夢中の六駆が莉子とクララの覚醒に気付いたのは、それから5分後のことだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ああ、良かった! 莉子! それにクララ先輩も! 『注入イジェクロン』で煌気オーラを大量に入れ過ぎたせいで、申し訳ない!!」


 実は、2人の煌気オーラが枯渇寸前まで行ったタイミングで六駆が適当に『注入イジェクロン』をしたため、血圧の乱高下で眩暈や失神が起こるのと似たような、ある種のショック症状を起こしていたのだった。


 「ごめんね! 反省してる!」と反省の見えない態度で謝る六駆に、莉子はイラっとした。

 だが、彼女は確認すべき事があった。

 パーティーのリーダーとして、チーム莉子の常識人として。


「あのぉ。そちらの屈強な方は、どちら様なのかなぁ?」

「ああ、このトラっぽい人? この人はダズモンガーくん! いいヤツだよ!!」


「ちょっとぉ! なんでそんなに気安いの!? か、噛みつかれちゃうよぉ!!」

「落ち着きなって! クララ先輩を見習って!」

「あたしはね、生きて帰ったら豚骨ラーメンの替え玉2回するんだーって考えてた」


 まったく要領を得ない莉子。

 そこに降下して来たダズモンガーが、片膝をついて頭を下げる。


「これは六駆殿のお連れ様方。この度は知らぬこととは言え、大変な失礼を! どうかお許し下され!!」

「ふぇっ!? ひゃ、ひゃい! こちらこそ、何の手土産も持ちませんで!!」


 莉子の常識人としての対応が、この場にあってはかなり非常識に見える。

 物事と言うのは多角的な視野を持つべきだと教えてくれているのだろうか。


「このような場所では話をするにも落ち着きますまい! よろしければ、我らの居城へお越し下され! 魔王軍全軍で歓迎させて頂きますぞ!!」


「ろっ、六駆くぅん!?」

「まあ、良いじゃない。お呼ばれしようよ。色々とまずい事も分かってきたし」


 この時の六駆のあまりの落ち着きっぷりに、莉子は思わず胸の高鳴りを感じたと言う。

 それはいわゆる吊り橋効果なので、どうか恋心と勘違いしないでもらいたい。


 気付け、莉子。


「しばしお待ちを! 今、飛竜を呼びましたゆえ!」

「ふぇぇ!? ひ、飛竜ですかぁ!?」


 それから10分ほどで、本当にデカいドラゴンが飛んできて、莉子は「あー。ダメだ、わたしが考えてもこれ、何も解決しないや」と、少し投げやりになったのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 飛竜の背中の乗り心地はなかなか悪くなく、風を切って飛ぶ爽快感を六駆は気に入っていた。


「なるほど、ダンジョンでこの世界と繋がったと。いえ、吾輩も部下から、異空間へ通じる揺らぎが発生したとの報告を受けましてな。ひとまず、リノラトゥハブを配備したのですが」


 リノラトゥハブと言うのは、どうやらチーム莉子が一致団結して倒した、御滝ダンジョン最下層を守護する人工竜の事らしいと3人は理解した。

 ついでに莉子は、六駆おじさんが自分の胸に何をしたのかを思い出して、先ほどの胸の高鳴りは相殺された。


「この異世界って六駆くんが昔救ったんだよね? じゃあ、平和的な関係が築けるんじゃない?」

「そこなんだよね。あのさ、僕が異世界と関係を持ってた事がバレるとまずいんじゃないかなぁって思ってさ」


「あ゛っ。く、クララ先輩?」

「やー。まずいよねー。前にも言ったけど、協会本部に超調べられると思うよ」


「じゃ、じゃあ、内緒にしておくのは!? この異世界とは、はじめましてのていで!!」

「それ、僕も考えたけどさ。多分無理だよねー。ほら、これ、これ」


 六駆は自分の右胸についている記録石を指さした。

 もちろん、莉子のショートパンツのバックルと、クララのジャケットの袖にも、同様の記録石が付いている。


「……壊しちゃうとか?」

「記録石って壊したり内容改ざんしたりできない作りらしいよ? 並の人間がそんなことしたら、もっと注目されちゃうにゃー」


「詰んでるじゃないですかぁ! もぉ! なんで六駆くんはこの世界を救ってるのぉ!!」

「ええ……」


 とりあえず、調べられると莉子はマズい。

 異質なスキルを使う者として、まず間違いなく査問にかけられるだろう。


 言うまでもなく、六駆はもうマズいとかヤバいの次元ではない。

 現に六駆は、その2つをとうに超えて、今はダルいにまで到達していた。


「吾輩たちもこの世界の英雄の帰還でございますからな! 協力は惜しみませんぞ! まずは、城で疲れを癒してくだされ! さあ、あちらに見えてきました!!」


 六駆の記憶もかなり戻って来ていた。

 確か、あの城に2年ほど住んでいたと彼は思い出す。


 ウォシュレットを魔技師に作らせた確かな記憶が、確かに間違いないと告げていた。

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