第33話 ダンジョンのボス現る 御滝ダンジョン第11層

 第11層。

 下りてきて、感じたことが3人とも一致する。


 莉子とクララの思う事が重なるパターンは多々あるが、六駆もそこに乗っかるとなると、なかなかのレアケース。

 そして、珍しいからと言って、必ずしも吉兆でないのがダンジョン攻略。


 この階層は大きなドーム状の造りになっており、思い起こすのは第3層。

 巨大蜘蛛、リコスパイダーと遭遇したあの場所に酷似している。

 ならば、もしかすると。


 人は経験から学ぶ生き物であり、今回はその警戒心が幸いする。


「莉子、クララ先輩!! 左に思い切り飛んで!!」


「りょーかい!! 莉子ちゃん、ごめんね! うりゃあ!!」

「ひゃわっ!? あいたたっ。な、なに!?」


 そこに立ちはだかっていたのは、巨大な竜。

 だが、明らかに通常のドラゴン系のモンスターとは異なる点があった。


 体の大部分を何やら金属やメカのようなものでデコレーションされている。

 もしかすると、こんなオシャレなドラゴンが新種として現れたのかもしれないが、普通に考えるとその可能性は低いかと思われた。


「これ、モンスターじゃないな。人工物だ。なんだか妙な煌気オーラがあるなとは思っていたけど、こいつの動力源だったか」


「ちょっとぉ! 六駆くん! 1人で納得してないで、ちゃんと説明してよぉ!」

「あたしはなんとなーく察しちゃったにゃー。これは、結構ヤバめ?」


 人工竜の目が光り、明らかに3人を標的とした様子が見て取れた。

 六駆の行動は早い。


「『瞬動しゅんどう』! からの『滑走グライド』で、『豪拳ごうけん二重ダブル』!!!」


 ガキンと金属音が響き渡る。

 莉子は「師匠が最初から本気出すなんて珍しいなぁ」とのんびり構えていた。

 それは六駆に向ける絶対的な信頼の裏返しなのだが、対してクララは少し懐疑的な思考を脳裏に浮かべていた。


 「あの六駆くんがいきなり攻撃仕掛けるのっておかしくない?」と、理由を明確にできないものの、違和感を覚える。


 2人の考えとはまったく別のところで、激闘の幕が上がった。


「こりゃあ骨が折れそうだ! 『滑走グライド二重ダブル』! 緊急なので、2人とも、乱暴に掴んでごめんね! あと、胸とかに手が当たっても許して!!」


 人工竜は六駆の『豪拳ごうけん』を首に受けてもなお、形を保っていた。

 もちろん、ダメージはある。首の金属がボロボロと崩れた。

 だが、生物の急所の一つである首は頑丈に作られているようであり、致命傷には至らず。


 むしろ、今の攻撃によって、六駆を脅威として認定したらしい人工竜。

 六駆をロックオン、などとしょうもない事を言っている場合ではなかった。


「キィィィィィィィッ! ガガガガガガガガ!」


「ひゃあぁぁっ!? なにあれ!? なにこれぇ!?」

「六駆くんにさらってもらわなかったら、今頃潰れてたにゃー」


 人工竜の肩から噴射口が現れ、岩が連射される。

 クララの使う『ストーンバレット』によく似ているが、威力の桁が違う。

 ついでに岩の一つ一つが熱を持っているらしく、ダンジョンの壁が一瞬にしてクレーターだらけの月面へと変貌を遂げた。


「とりあえず、2人を抱えたまま状況を分析するよ。あれ、多分だけど異世界の技術で作られてるね。僕らの感覚で言うと、竜の形をしたロボだ。単純な行動プログラムっぽいけど、それが逆に厄介。シンプルなものの方が頑丈になるでしょ? ほら、スマホって落としたら結構な勢いで壊れるけど、ガラケーって無事だったりするじゃない」


 六駆は今の説明をドーム状の外壁をグルグルと回りながらこなしていた。

 それなりのスピードになると、人工竜は標的を認識できなくなるらしい。

 だが、このまま回遊を続けている訳にもいかない。


「六駆くん。わたし、ちょっと気持ち悪くなってきたかもだよぉ」

「あ、莉子も? 実は僕も。三半規管が弱いんだよね。ぶっちゃけると、もう倒れそう」


「えええ!? 六駆くんが倒れたら、あたしたち確実に全滅だよ!? 一旦下りよう!」


 クララは悔やんだ。

 もっと早く進言すれば良かったと。

 何故ならば——。


「ゔゔゔ……。あ、ダメだ。立てそうにない。気持ち悪い。2人ともさ、フリスクとか炭酸飲料持ってない? ああ、ダメだ、ダメだ。ちょっと横になるね」


 六駆が自分のスキルで酔っていた。

 ただでさえ未知の人工竜が相手なのに、さらなる緊急事態が莉子とクララに襲い掛かる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ど、どどど、どうしましょう!? クララ先輩!! 六駆くんが役立たずに!!」

「ええー。あたしたちを守るためにグルグルしてくれたんだから、そんな風に言うのは可哀想だにゃー。それにほら、今もああして」


「キィィィィィィィッ! ガガガガガガガガガ!!」


 横たわる六駆に向けて、人工竜は「そこにいたのか」と言わんばかりに燃える巨岩を撃ちつけている。

 その容赦のない攻撃には、さすがの莉子も心配になり、師匠の名を叫ぶ。


「六駆くん! やだぁ、六駆くぅぅぅん!!」

「はーい。ああ、大丈夫、大丈夫。『空盾エアバックル』を自動発現しているから、この程度の攻撃なんともないよ。だけどね、すっごく気持ち悪い」


 意外と平気そうで、莉子はクライマックスっぽく叫んでしまった事を恥じた。

 その上で、作戦を立てる。

 すぐに思考の切り替えが出来るようになったのは、探索員としてのレベルが上がった証拠である。


「クララ先輩! 六駆くんがおとりになっているうちに、攻めましょう!」

「わお。思い切ったね、莉子ちゃん。あたしたちのスキル、通るかな?」


「クララ先輩の『サジタリウス』を出して貰えますか? それで、『ヘビーアロー』を打ってください。それで少しでも傷が付いたら、わたしの『斧の一撃アックスラッシュ』で!」

「リーダーの指示には従うにゃー! 囮くん、今の作戦はどうかな!?」


「正直効くかどうかは怪しいですけど、今はこいつ、僕に夢中ですからね。僕とイチャイチャしてる間は、やりたい事ができると思うので、やってみよう!!」


 六駆の『空盾エアバックル』は強度が低く壊れやすいシールドだが、広域で張る事ができる利点がある。

 そんな心許ない盾1枚しかないのにも関わらず、もはや隕石の大群の様相を見せ始めた人工竜の猛攻に耐えている時点でかなり無茶苦茶やっているのは諸君もお察しの通り。


 だが、六駆の教えを覚えておいでだろうか。

 彼はよく「スキルはメンタル勝負」と言う。


 それでは、今の彼を見てみよう。


「ゔぉえ……。ああ、ダメだ。これは無理だ。視界が歪み過ぎて、万華鏡みたいに見える。うふふふ」


 完全にメンタル不全に陥っている。

 それでもなお『空盾エアバックル』を広域展開しているのは流石であるが、実は他のスキルを使う気力がないのかもしれない。


 気力を失うのもおっさんの得意技であるからして、その可能性は高かった。

 こうなると、少しのチャンスにオールベットするのが最善策であり、莉子の判断は正しい。


「行きましょう、クララ先輩!」

「あいあい! 後衛は任せてくれたまえ! ……ホントに効いたら良いんだけど」



 実は強敵相手にチーム戦は初めてのチーム莉子。

 これまでは六駆が全て片付けて来たが、こんなパターンも時にはあるらしい。


 彼女たちの奮起は、吉と出るか、凶と出るか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る