第9話 Cランク探索員・椎名クララ登場
「よっ! ほっ! なんかこの辺り、すごい荒れてるねぇー。どんだけここで戦ったの!? その割に2人とも全然無傷だし!」
メタルゲルを焼き尽くした後に、莉子が『
天井から岩が崩れ、地面は
「すみません! うちのリーダーがむちゃくちゃしてしまいまして!」
「六駆くん、いい加減にしないとぶっ飛ばすよ?」
「ほへぇー! すごい! あなたたち、その装備を見る限り、ルーキーでしょ?」
「ああ、確かに。お嬢さんはなんかカラフルで可愛らしい装備ですね」
「お、お嬢さん? あれ、あたしの方が年上だと思ったんだけど、もしかして若く見えるだけで意外とお年な感じですか?」
「こう見えて結構年なんですよ痛い!」
莉子にも我慢の限界と言うものがある事を、彼女のゲンコツをもって六駆は知った。
「す、すみません! この人、頭がちょっとアレなんです! わたしたち、今日が初めての探索で! どっちも高校二年生です!」
ともすれば無礼にしか見えない、と言うか無礼そのものである六駆の態度を見ても腹を立てることなく、彼女は「はっはー!」と笑って歯を見せた。
六駆と莉子が同時に「「あ、いい人だ」」と判断したのも無理からぬ話。
「じゃあ、あたしの方が先輩だ! 年も探索員のキャリアも! 自己紹介が遅れてごめんね! あたし、
「わわっ、先輩だぁ! あ、すみません! わたしは小坂莉子です! こっちは逆神六駆くん! よろしくお願いします、先輩!」
「はっはー! そんなに緊張しなくても良いよ! ちなみにランクは? この破壊力のスキル使うって事は、もしかしてDで新規登録!?」
「そうなんですよ! うちの莉子さんすごいんで! 痛い痛い痛い!」
「ぜ、全然ですよぉ! もう、まぐれって言うか、悪意って言うか! よくない偶然がたまたまそうさせたと言いますか! あ、あははは……」
「うんうん。仲良くていいねぇー」と頷いたクララは、クレーターの淵に付着している鉱物を見つけ、指で摘まんだのちに、気の毒そうな顔をする。
彼女の言葉が六駆の出来たてほやほやなトラウマに塩を塗り込んだ。
「ありゃー。もしかして、メタルゲルに誘爆しちゃう系のスキル使った? もったいないことしちゃったねぇー」
「……死のう」
「すぐに生きるのを諦めないで! って言うか、六駆くんはちょっと黙ってて!!」
彼らのやり取りを見ていたクララは、2人の事を「実力は充分だけど経験が不足しているルーキー」だと認識したようであり、それは彼女の想像しているものとは違うが、ある意味では本質を引き当てていた。
六駆と莉子、今更ながら、なんという面倒くさい二人組なのだろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「クララ先輩は、あ、すみません。お名前で呼んでもいいですか?」
「うん! もちろん! あたしも2人のこと、莉子ちゃんと六駆くんって呼ぶね!」
「ありがとうございます! クララ先輩は探索員歴、長いんですか?」
「あたしは今年で3年目! 今まではちょっと離れたところのダンジョンに潜ってたんだけど、今回地元にダンジョンが出来たからさ! じゃあ近場でって感じ!」
「わぁ! わたしたちと同じ年から! なんだか親近感を覚えちゃいます! ランクも高いんですよね? すごく可愛い装備されてますし!」
「あはは、ありがと! ランクはCだから、2人と大差ないよ! 装備はね、採取したイドクロアを換金しないで、サポーター課に装備申請すれば、希望通りのヤツを作ってくれるんだよ! スカート、可愛いっしょー!」
体は高校生、頭はおっさんな六駆くん。
ここは口を挟まずにはいられない。
「そんなミニスカートで動き回って大丈夫なんですか?」
おっさん、セクハラをする。
ここで言っておきたい事は、おっさんになるとデリカシーの境界線が曖昧になり、無自覚に、下手をすると良かれと思ってセクハラを働く者がいる事実である。
六駆は、「スカート捲れても平気なのかな?」と思っただけなのだが、聞きようによっては、というか9割5分、いやらしい質問にしか聞こえない。
最後になるが、自覚の有り無しに関わらず、セクハラは即刻ギルティと決まっている。
「あっはは、男の子だねぇー! 平気だよ、ちゃんと下にはスパッツ穿いてるから! やっぱり探索員でもオシャレしたいっしょ? スカートタイプの装備の子、結構いるよ!」
「で、ですよね! すみません、うちの六駆くんが失礼なことを! もう、ホントにどうしようもない人なんです!! ごめんなさい!!」
「気にしてないから、大丈夫! それよりさ、この壁とか天井に付いてる刃状の傷って、何のスキル使ったの?」
莉子の心臓が跳ねた。
彼女は心が清らかな少女であるゆえ、嘘をつくのを良しとしない。
しかし、現状を鑑みた結果、嘘をつくしか選択肢がなかった。
「わ、わたしが、その……。『ウインドキラー』で、少々……」
対して、六駆は嘘をつくことに何の抵抗もない。
心が清らかかそうでないかの判定をするまでもなく、あっち側である。
人はおっさんになると、心がくすむのだ。
「莉子の『ウインドキラー』の切れ味はすごいんですよ! ギランリザードなんかもう、真っ二つで! いやー、才能の塊!!」
「六駆くん! ホントに六駆くん!! 君から真っ二つにしても良いんだよぉ!?」
「うへぇー。すごいね、ルーキーなのに『ウインドキラー』とは! あたし、斬る系のスキルは苦手だから、是非コツとかあれば教えて欲しいな!」
クララの真っ直ぐな瞳が莉子にとってはことさら辛かった。
彼女には目を逸らすくらいしかできないのが、ストレスの底上げを手伝う。
莉子の願いはただ一つ。
「早く行ってくれないかな!!」と言う、ささやかなものだった。
だけど、人の夢と書いて儚いと呼ぶように、ささやかな願いも叶わないのが昨今の世知辛い社会の仕組みなのである。
これだけはどうにか避けたいと思っている言葉をクララは口にした。
「あのさ、良かったらパーティー組まない? あたし、こっちではまだソロなんだよね! このダンジョン、第1層から強いヤツやたらと出るし! 実力派ルーキーと一緒なら心強いなって!!」
「あ。ごめんなさい。うち、そういうのは募集してなくて」
莉子は秒で断った。
その時の彼女の瞳からは、すっかり光が失われていたと言う。
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