第7話 秘密の共有 共犯者同盟結成

「もうダメだ。僕は立ち直れないよ。1キロで30万って言った? あいつら、どう見ても重そうだったから、1匹で2キロと考えると、60が15体で。……ああ、死のう」


 六駆は自分の浅はかさを改めて思い知らされた。

 本来、探索員の目的は大きく分けると2つ。


 1つは、どんどん深くまで潜っていき、繋がっている異世界へ達すること。

 そののち、友好的な国と国交を結んだり、敵対する場合はこちらから攻め込んだりと、状況によって対応は変わるが、異世界へ到達できるレベルの探索員であれば、この業界では引っ張りだこになる。


 ちなみに、こちらは六駆にとってどうでも良い方である。


 もう1つが、先ほど景気よく燃やしたメタルゲルの外皮のように、希少なイドクロアを回収して、それを政府に買い取らせることで収入を得ること。

 前述のダンジョン攻略は地位や名誉が得られる代わりに、実入りは少ない。

 対して、こちらはトレジャーハンターのようなものであり、イドクロアも収集すればするほど換金できる。


 こちらが六駆にとっては実に大切。

 適当に荒稼ぎして、とっとと隠居生活しようと言うのが彼の目的なのは諸君もご存じの通り。


「えーと、逆神くん? まあ、その、元気出して! 最初だもん、ミスだってするよ!」


 莉子のフォローは、この場合、六駆を奈落の底にえいやと突き落とすものだった。


 確かに、最初はミスをするだろう。

 それから、持っている知識と経験を照らし合わせて、成長していくだろう。

 しかし、お忘れだろうか。



 六駆の知識はゼロに等しい。もはや、記憶喪失レベルなのだ。



 つまり、これから何度経験を積もうとも、起きるミスは知識を持っている者の比ではなく、更に悪い事に今やダンジョンの基礎については中学生で学ぶ一般教養。

 探索員を志す者ならば知っていて当然が前提になる訳であり、同業者にガンガン出し抜かれる未来が六駆の前で腕組みして立ちはだかっていた。


「いや、ダメなんだよ。僕、30年以上前に習った事なんて思い出せない。最近は、自分が卒業した中学校で三年生の時何組だったかも思い出せないもの」

「えー。あの、試験の時から気になってたんだけど、どういうことなの?」


 六駆は全てを莉子に話した。


 自分が異世界転生を繰り返し、実に29年もの間、現世を留守にしていた事。

 それにより精神年齢が上がり、ぶっちゃけもう疲れた事。

 だから、ダンジョンの探索員になってひと稼ぎして、リタイアしようと考えた事。


 普通は信じられない与太話だが、莉子も彼の繰り出す見た事もないスキルを目の当たりにしている以上、それを一蹴するのははばかられた。


「つまり、逆神くんって、見た目は17歳のままだけど、中身は46歳のおじさんってことかな?」

「ヤメてくれないかな。自分で言うのは平気だけどね。その、若い子に言われるおじさんって響きが既に大ダメージなんだけど」


「わわっ、ごめん! あ、でも相手がおじさんだったら、敬語の方が良い? 失礼なことを言ってしまい、大変申し訳ございませんでした?」

「……死のう」


「ごめん、ごめん! 冗談だよぉ! でも、そっかぁ。じゃあ、わたしは探索員になれなかったんだぁ……。くすん」

「あ、それに関しては、僕の方も申し訳ない。なにぶん、こっちの記憶があやふやだったもので、小坂さんにいなくなられると困ると思って、つい」


 ここで、莉子が閃いた。


「……あのさ、逆神くん。わたしたち、共犯者になろう!」

「おじさんにも分かるように言ってくれる?」


「逆神くんは、わたしの師匠になるの! その代わり、わたしは逆神くんを知識でサポートする! 言っとくけど、わたし成績はとっても良いんだからね? 多分、逆神くんは覚えてないだろうけど!」


 莉子に遅れること5分。

 六駆おじさんも、ようやく理解する。


「それは素晴らしい! 小坂さんが一流の探索員になる頃には、僕もそれなりに貯えができているだろうし! そうしたら、晴れて別々の道に進めるってことか!!」

「そう! どうかな!? それまでは2人で一人前の共犯者同盟!!」


 これほどまでのウィンウィンな取引もないかと思われた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 莉子の提案を快諾した六駆。


「ステキな計画を立ててくれたお礼に、僕の方から共犯者同盟の最初の仕事をしよう。このアームガードだっけ? 正直、むちゃくちゃ効率悪いよ。源石げんせきから力の伝達が3割くらいしかされてない。だから、小坂さんみたいに素養はあるけど未発達な人にスキルが使えないんだ」


「ごめんね? ちょっと何言ってるのか分かんないです!」


 逆神家のスキル習得までの過程も、原理はアームガード式のスキルと同じものである。

 源石から力を吸い出し放つまでの流れを繰り返し練習する事で、体に覚えさせる。

 ただし、逆神家のスキルは間にアームガードを挟まない。


 1度スキルを習得すれば、あとは個人の持つ『煌気オーラ』の総量に応じて使い分ける事ができるのだが、その辺りの説明はまたの機会に。

 情報を渋滞させても得をする者はいないからである。

 必要に応じて小出しにする方が、きっと諸君も楽だと思うからでもある。


「これあげるよ。トロレイリングって言うんだけど」

「えー。ごめんなさい。逆神くんの事は好きでも嫌いでもないけど、いきなりそーゆうのは、ちょっと困るかなって」


「……なんかよく分からないけど、僕、フラれた? 違うよ! これは逆神家で修行用に使う指輪で、この真ん中の宝玉が源石なんだよ! 要するに、アームガードとか言う邪魔ものを取っ払って、直に体と源石を繋いで力を放出できるの!」


「レストランが直接農家からお野菜を仕入れて、流通のコストを抑えるみたいな?」

「若い子の発想力ってすごいなぁ……。うん、まあだいたい合ってる」


 納得した莉子は、トロレイリングを指にはめた。

 ちなみに逆神家ではこの指輪の事を、リングと略して呼んでいる。

 面倒だからである。

 なお、今後はどの場面でもリングとしか呼ばない。

 繰り返すが、面倒だからである。


「痛ぁっ!? ちょ、逆神くん! なんか指が痛かった! これ、不良品なんじゃないのかな!?」

「ああ、それリングが適応したんだよ。良かったね、やっぱり才能はあるみたいだよ、小坂さん。注射針刺すくらいの痛みだったでしょ?」


「え、うん。って言うか、結構痛かったから、先に教えて欲しかったな」

「え、あ、これは申し訳ない。チクッとするだけだから平気かと」



 早くも女子高生と精神年齢おっさんの間に、ジェネレーションギャップと言う名の壁が発生した。

 今後待ち構えている、教えたり教わったりの関係に何となく不安を持つ2人だった。


 けれども、この一歩は大いなる一歩。

 ここより、共犯者同盟が始動する。

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