第6話 小坂莉子、ただのツタに絡まれ大ピンチ

「助けを求める前に、まずは自分で対処しなきゃ! 成長のチャンスだよ!!」


 逆神六駆、おっさんを拗らせたような事を言い始める。

 若い者が助けを求めているのに、わざと遅延行為を働くのはおっさんの悪しき慣例である。


「もぉ! 分かった! 逆神くんには頼らないもん! こんなツタ、わたしのスキルで! 『ライトカッター』! てぇぇぇいっ!」


 気合一閃。

 彼女のアームガードに装着された源石が、その念に呼応する。



 莉子の手の平から、実に心地の良さそうなそよ風が吹いた。



「えええ!? な、なんでぇ!? 試験の時はできたのにぃ!!」

「……ああ。……ああー! そうだった! そうだった!!」


 六駆は思い出していた。

 そう言えば、莉子はスキルの練度が未発達だったなぁと。

 さらに、試験は六駆による八百長で突破させた事実を。


「ごめんね、小坂さん! 実は試験の時のあれね、僕がやったんだよ! 君にはまだまだ修行が必要だったんだけど、ほら、何て言うか、ライブ感みたいなノリで!」

「えっ、えっ!? わたし、もしかして全然たいしたことないの!?」


「たいしたことないって言うか、限りなく一般人だね!」

「もぉー! おかしいと思ったんだよぉ! なんでそんな事するの!!」



「話せば長くなるんだけど、今じゃないとダメかな?」

「じゃあ後でいい!! とにかく、助けてぇ! なんだか気持ち悪くなって来たぁー!!」



 莉子は逆さづりにされているのだから、なるほど気分も悪くなるだろう。

 六駆はシンプルな解決を図るべく、ツタを切ることにした。


「ええと、アームガードを……。ダメだ、やっぱ反応しないか。じゃあ、仕方ない。『太刀風たちかぜ』!!」

「へっ? うひゃあっ!?」


 六駆の放った『太刀風たちかぜ』は、ツタを一刀両断した。

 するとどうなるか。


 莉子が地面に落下する。


 シンプルな解決法はシンプル過ぎて、アフターフォローがおざなりだった。

 だが、1秒あれば充分なのが、六駆の重ねてきたキャリア。


「『瞬動しゅんどう』! よっと! やれやれ、危ないところだったね、小坂さん」


 逆神家の基本スキルの1つである『瞬動しゅんどう』は、足に加速力を付与する事で、名前の通り瞬時に移動する事を可能にする。


「あ、ありがと。ってぇ、逆神くん! 後ろ、後ろ! なんかツタがいっぱい来てる!!」

「あ、本当だ。ウザいなぁ。……ちょっと待って。小坂さん。もしかして、このツタ、希少な生物だったりしないかな? 粉々にして良いヤツ? ちょっと、1回確認してもらってもいい? 万が一高価なものだったら、僕、立ち直れないよ!」



「それ、ただのヌタプラントだよぉ! ダンジョンに広く生息してる、普通の植物! 何の価値もないから、どうにかできるならどうにかしてぇ!!」

「それを聞きたかった!! 『水刃閃クリスパーダ』!」



 加圧された水を小さな穴から噴出させると、ダイヤモンドでさえも切断可能とされる。

 その鋭利な刃を何度も受けたヌタプラントは、バラバラに散らばって力なく地面に落ちた。


「す、すごい……! なにそれ!? そんなスキル、見たことないよ!?」

「うーむ。まさか、こんなに早くバレるとは。僕の計算だと、2年くらいは騙せると思ったんだけどなぁ」


「よく分かんないけど、わたしの事をバカにしてることだけは分かるよ!?」

「いや、そんなつもりはないんだけど。ところで小坂さん」


「なによぉ!? またからかうんでしょ!?」

「いや。なんか、ぬめっとしたヤツに囲まれてるんだけど。どうしたら良いかな?」


「えっ? わっ、わわっ!? これ、メタルゲルだ! すごく硬くて、好戦的なモンスターだよ! で、でも、第1層にいるようなレベルじゃないよ!?」

「うわぁ。こいつら、さっきのツタ食べてる。雑食だねぇ!」


 メタルゲルは、瞬く間にヌタプラントを食べ尽くした。

 彼らは単純な思考しか持たない。

 腹が減ったら、捕食する。


 ざっと15はいるメタルゲルが、ヌタプラントを分け合って食べたところで、十分な満足感を得られたのだろうか。

 六駆と莉子を取り囲んで、今にも襲い掛かろうとしている現状が答えであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「とりあえず、話はこいつらを倒してからって事でどうだろう?」

「う、うん。賛成だよ」


「ついでに良いかな? そろそろ小坂さん、下ろしても良い? 実は重くてさ」

「デリカシーがないよぉ!! 思ってても口に出しちゃダメなヤツ!!」


 莉子は、六駆にお姫様抱っこされていたのだが、強引にその手を振りほどいて地面に立った。

 日頃からトレーニングをしている彼女は、六駆の想定よりもずっと体力があり、それは嬉しい誤算でもあった。


「それじゃあ、さっさと片付けよう! 『太刀風たちかぜ』!!」

「あ、待って! 逆神くん!」


 『太刀風たちかぜ』はメタルゲルに命中したものの、ガキンと言う金属音が響くだけで、彼らは無傷だった。

 その理由は、物知り莉子さんが説明してくれる。


「メタルゲルは硬さだけだったらダンジョンに出て来るモンスターのトップテンに入るんだよ! だから、その、『太刀風たちかぜ』? それじゃあ倒せないと思う!」

「なるほど! 自分の攻撃が思うように通らないと、なんだか昔を思い出してワクワクしてくるな! よし、『水刃閃クリスパーダ』ならどうだ!!」


「キシェエェェェェェェェ!!」


「あらら。一匹だけしか倒せない。意外と動きが速いな、こいつら」

「ちょ、ちょっとぉ! 逆神くん! 今のでなんだかこの子たち、すごく怒ってない!?」



「僕が食事の邪魔されたらガチギレするから、こいつらもそうなんじゃないかな?」

「なんでそんな爽やかに言うの!? 責任取ってどうにかしてよぉ!!」



 六駆は「ちょっと派手になるけど、良い?」と莉子に確認を取った。

 莉子は「なんでもいいよぉ!」と同意した。


「よっしゃ! テンション上がってきた! 『大竜砲ドラグーン』っ!!!」


 六駆の両手から生み出されるのは、巨大な竜が吐く炎そのもの。

 1度目の転生先の異世界で覚えた、古龍のブレスを召喚するスキルである。


「ん? ああ、これ、なんかヤバそうだ! 小坂さん、僕の後ろから動かないで!」

「ひゃ、ひゃい!」



 ——ドドドドドドドドドッ!



 最初にボッと小さな破裂音がしたかと思えば、メタルゲルたちが一斉に大爆発を起こし、辺りは一瞬にして火の海と化した。


「おーおー! 景気よく燃えるよ! さては、可燃性の体液とか持ってるタイプだったな?」

「あのぉ、逆神くん? 言いにくい事があるんだけど」

「うん? なんだろう?」



「メタルゲルの外皮、すっごく高値で売れるよ。1キロで、30万くらい」

「あ、あ、んああ、ちっくしょぉぉぉっ!! なんてことしたんだ、僕はぁぁぁ!!!」



 この時の爆音と六駆の絶叫は、第1層のいたるところへ反響したと言う。

 彼は自分が数分前に言っていた通りに、立ち直れない心の傷を負った。

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