共通ルート06-2
そらが着替えてる間、オレは特に何もすることなくご神木の前で待っていた。
「暇だな」
ここに転送されるまで、ずっと暇だったオレが言うことじゃないが。
「退屈すれば暇つぶしを求め、忙しかったら今度は余暇を求める。人間ってのは強欲な生き物なんだな」
どうやら、この世の心理にたどり着いてしまったらしい。
「というか、そらのやつ遅いな。もう10分くらい経ってないか?」
欠伸と一緒に背伸びした、ちょうどその時。
「ん? なんだあれ?」
なんとなく見上げたご神木に、何か薄っぺらいものがひっついていた。
いや、正確にはぶら下がっているというべきか。
「あれ......もしかして短冊?」
間違いなく、七夕の時に笹の葉に吊るす、あの短冊だ。
オレでは到底手の届かない、三、四メートル上の方に、ピンクの紙切れが1枚。
「って......なんで神社のご神木に、短冊がぶら下がってるんだ?」
ひょっとしてそらがやったのだろうか。
......あいつならやりかねない、か?
「全く、そらもバチ当たりだな」
「え、呼んだ?」
「わぁっっつ!?!?」
振り返ると、制服に着替えたそらが不思議そうに小首をかしげていた。
「そんなにびっくりして、どうかしたの?」
「い、いや、別に」
良かった、聞かれてなかったみたいだ。
「それにしても、遅かったな」
「ごめんごめん。あの服、着替えるの大変なんだよね」
「そ、そうか」
巫女服だし、そんなもんなのか。
巫女服なんて来たことないし、また一つ勉強になったな。
「それで?」
「うん?」
そらは、制服のスカートを掴んでその場で一回転して見せる。
「何かないの?」
「何かって?」
逆に何がある? バレリーナみたいですね、とか?
「だから、その......この服変じゃないかどうか、とか......」
オレにファッションなんて聞かれてもさっぱり分からん。
「制服なんだから、学生が着て変なわけないだろ。誰が着たって同じだよ」
「......そっか。それもそうだよね」
空気の抜けた風船のように、目に見えて元気を失くしていくそら。
「(やべ、オレなにかマズイことを言ったか?)」
待て、状況を整理しよう。
そらは服が変じゃないか聞いてきた。
それはつまり?
「なるほどな」
「え?」
「あ、いや」
ならばオレのすべきことは......。
「さっきのは違う。あれは嘘だ」
「嘘?」
「まあとにかくだな。その制服、よく似合ってる......じゃないか?」
その言葉を聞くと、途端にそらは目を輝かせた。
変じゃない、似合っていると言ってほしい。
そらは、そう思ってたんだ。
人の気持ちを考える。
オレはいつの間にか、そんな大切なことすら出来なくなっていたのか。
「あれ? そら?」
「ふへへ♪ ふんふんふ~ん♪」
そらは鼻歌交じりに、るんるんとスキップ。
「お、おい。一体どこに......?」
「何言ってるの竜胆くん、村に行くんでしょ?」
そうだった。
そらはこちらを振り返って眩しい笑顔を見せる。
「ほら、早く行こっ♪」
その笑顔は、陽の光に照らされて水晶のように美しくきらめいていた。
「......まったく」
なんというか、喜怒哀楽の忙しいやつだ。
......でも。
「暇よりはマシか」
「竜胆くーん、早く早くー!」
小走りでそらに追いつくと、オレたちは長い石段を一歩ずつ下っていく。
隣り合って、一歩ずつゆっくりと、それでも確かに前へ進んでいった。
Moon Rabbit ~ムラビト~ 煤周 昴 @bye_shoe
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