第174話 ソフィー・ネレーニャの選択⋯⋯です
運び込んだ大小ふたつのケージ。
小さなケージから様子を伺いながら顔を出すのは、オルンモンキー。警戒心が強い種ですが、ニコの気配を感じているのか好奇心が勝っているみたいです。ケージから顔を覗かし、キョロキョロと周りの気配を伺っていました。
逆に
アンナさんもソフィーちゃんも、オルンモンキーは想定の範囲内って感じです。でも、
「ふわぁわぁ~」
ソフィーちゃんは目を爛々と輝かせて、二匹を見つめます。早く側で見たいのでしょう、椅子の上でソワソワが止まりません。
「今回は、オルンモンキーと
「男の子?! 女の子?!」
「ソフィーちゃん、この仔達は男の子ですよ」
ソフィーちゃんより先にニコが、オルンモンキーへと飛び出して行きました。私の事を覚えていたくらいですから、この仔を覚えていてもおかしくは無いですよね。
互いに匂いを嗅ぎつつ、確認し合うとすぐにケージから飛び出しじゃれ合って行きました。
「仲良し!」
「でしょう。ニコも嬉しそうですね」
じゃれ合う二匹の姿にソフィーちゃんの興奮もうなぎのぼりです。紅潮するほっぺが可愛いですね。
「そっちの熊の仔は、大丈夫なの? 噛んだりしないのかしら?」
「危険な目に合わない限りは、大丈夫です。一応雑食ですが、肉はほとんど食べません。コルの葉や、果物が主な餌になります。とても温厚な種ですよ。特にこの仔は生まれた時から人に育てられているので、人に対してとても甘えん坊です。もしかしたら、自分の事を熊だと思っていないかも知れません。もし良かったら撫でてあげて下さい」
「え、大丈夫?」
アンナさんは恐る恐る
スラっと長い指がゆっくりと頭に触れると、撫でてとばかりに頭を突き出します。
不器用な手つきで頭を撫でて行くと、一瞬ピクっと反応を見せました。でも、すぐに気持ち良さそうに目を細め、アンナさんに身を委ねます。
優しい微笑みのまま、子熊と視線を交わすとアンナさんの目がハートになったのが分かりました。
フフフ、作戦通りです。
“実際に触れて貰えたら、こっちのものよ”
モモさんに教えて貰った通りです。子熊も空気を読んだのか、私の足元から離れてアンナさんの方へとヨチヨチと歩き出しました。
よしよし、いい感じ。
「私も撫でたい!」
「もちろん。優しく撫でて上げてね」
「はい!」
ソフィーちゃんも参戦です。うっとりと気持ち良さそうにしていた子熊はコロンと転がり、お腹を見せました。
「遊んで欲しいみたいですね。お腹をわしゃわしゃしてあげて下さい」
ふたりとも無言で、お腹をわしゃわしゃと撫で回します。手足をもぞもぞさせて、子熊も楽しそうです。
「か、可愛いわね」
アンナさんの鼻息も荒くなっています。あまりの可愛さに興奮状態みたいですね。
「おふたりとの相性は、とても良いですよ。あとはニコ達との相性ですね」
ニコと言う言葉に、呼ばれたと思ったみたいです。
オルンモンキー達もこちらへやって来ます。ニコはソフィーちゃんの頭の上に乗り、初めて見るもしゃもしゃの生き物に少し警戒を見せていました。
「ニコ、大丈夫よ。いい仔いい仔しよう」
ソフィーちゃんの言葉に、しばらく様子を見ていたニコも恐る恐る子熊の元へと寄って行きます。アンナさんとソフィーちゃんの様子を見ながら、ふたりのマネをしてお腹に手を伸ばして行きました。
「ソフィーちゃんが、いいお手本になったみたい。ニコは大丈夫だけど、この仔はちょっと怖いのかな」
ソフィーちゃんの背中にくっついて必死の形相を見せるオルンモンキーの姿。子熊なら平気と思ったのですが、初めて見た熊に怯えてしまいました。時間を掛ければ大丈夫かも知れませんが、一緒に飼うのはちょっと厳しいのかな⋯⋯。
「一緒に飼うのは難しいかしら?」
「そうですね。時間を掛ければ仲良くなるかも知れませんが、あまりおすすめは出来ません。残念ですが、オルンモンキーか
どちらか選ばなくてはならなくなってしまい、ソフィーちゃんの表情は一気に曇ってしまいました。
「ソフィーちゃん、ごめんなさい。仲良く出来ると思ったのだけど、見込みが違っちゃいました」
「どうしよう⋯⋯」
「そうね⋯⋯。エレナさん、あなたはどう思います?」
「わ、私ですか⋯⋯そうですね⋯⋯」
どっちの仔を選んでもネレーニャ家なら、大事にして貰えます。いたずらっ子のオルンモンキーか、のんびり屋の
答えはすぐに出ました。
「
「即答ね。お値段がいいのかしら?」
ちょっと意地悪く微笑むアンナさんに、驚いた顔をしてしまいました。
た、確かに
「そ、そ、そう言えばそうでした。
「フフフ、ごめんなさい。ちょっと意地悪言っただけですから。どうしてエレナさんは、
「は、はい。今日連れて来たオルンモンキーは、ニコと元々友達ですし、店に戻れば友達がいます。でも、この仔にはまだ友達がいません。最初の友達にソフィーちゃんがなってくれたらと思ったのです」
「ですって、ソフィー。どうする?」
「も、もちろん、オルンモンキーでも問題無いですよ。この仔もいい仔ですから、きっと仲良く出来ます」
何だかジワリと背中に汗かいちゃいました。
ソフィーちゃんはわしゃわしゃしていた手を止め、目の前でコロンコロンしている子熊と背中にしがみついているオルンモンキーの間で一瞬の揺れを見せます。でも、すぐに心は決まって、その仔を指差しました。
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