誕生日
第63話 始まり、不穏、邂逅
幸せの
「おい、ヤコブ。あの娘、お前の娘じゃねえのか?」
「ああ? ハッ! こいつは驚きだな。どこ行ってんだと思っていたら、あんな所にいやがったぜ」
うす汚い冒険者風情の三人組が広場の端から
「ヤコブの娘は、痩せこけたガキって言ってなかったか? そんな感じねえじゃねえか」
ひょろりと背の高い痩せた男が言葉を受けて、
「姿見せねえから良く分からなかったが、まぁ、都合よく育ってくれたな」
「ちょっと小さいくらいか?」
「ナーセブ、お前が無駄にでけえだけだ」
軽口を叩くうす汚い冒険者の計算高い醜く歪んだ視線が、
「本当にしちまうのか?」
小太りの男はヤコブに問い掛ける。口端を醜くせり上げ、粘着質の視線を
「当たり前の事聞くんじゃねえ。その為に餌食わせていたんだ。しかし、まぁ、他にも餌を食わしてくれる所を見つけるとはな。予想外だったぜ。【ハルヲンテイム】か。感謝しておくか」
ヤコブは
◇◇◇◇
光が強くなれば、影もまた強くなる。
すぐ側にあった影が濃くなっている事に、私自身、気が付いていませんでした。
いえ、イヤな物に蓋をするように見ようともしていなかった。
その影は不穏となって、私の側に存在し続けていたのです。
その影は、私の大切な光ごと飲み込もうと足元からにじり寄っていました。
抗うには私は未熟で、簡単に飲み込まれてしまう。
どうにもならない諦めが、私の心を折りに掛かりました。
◇◇◇◇
その出会いは奇跡に近いものだった。
【スミテマアルバレギオ】の
切り立った断崖で一度。谷底に落ちていたのをキルロと助けた二度目。
そして今。
ミドラスより、空気の冷たいオルンの山間で三度目の邂逅。
キルロやマッシュに背を押され、後ろを付いて回る聖鳥に近づく。
一歩、また一歩と近づく度に、
幻の聖鳥アックスピーク。
2Miを越す大型の鳥。
飛ぶのはあまり得意では無いが、地面を駆け抜ける速さは馬の比ではない。個体数の少なさ、その俊敏さから、遠目で目にする事が出来るだけで幸運と言われていた。
聖鳥と呼ばれる由縁でもある純白の羽毛。雄は立派な
ハルの眼前で待ち構えるつがいの聖鳥。高鳴る気持ちを抑え込み静かに詠った。
「【
頭を下げている二羽の聖鳥に落ちていく淡い桃色の光玉。
「宜しくね」
ハルは優しい声色響かせ、二羽の首筋を優しく抱き寄せた。
◇◇◇◇
「え! え!? ええええええー!? これ⋯⋯ほ、本物???」
馬車から下りて来る二羽の
絶句するアウロは驚愕の表情を浮かべたまま硬直してしまい、他の者達も驚きを隠せずにいた。
「うそだろう?」
ラーサも珍しく驚いた顔で、つがいの聖鳥を覗く。
「綺麗な羽ね」
「だね」
モモもフィリシアも、物珍しそうにラーサと並んでまじまじと見つめていた。
「新しい仲間よ。みんな宜しく」
あっさりと言ってのけるハルに、怪訝な顔を向けていった。
「仲間よって⋯⋯ハルさん凄すぎでしょう、これ」
「本当よ、ラーサの言う通り。見る事が出来ただけで幸運だと言われているのでしょう?
「そうそう。しかし、立派だね。人も乗れそう」
怪訝な顔を向けつつも、その偉業は手放しで讃えるしか無い。アウロにいたっては、ひとり感動の涙を浮かべていた。
「たまたま、たまたまだって」
照れているのは見え見え。そんな強がりを見せつつ、ハルは後片付けへと逃げて行った。
居住区の確保が急務かな。ギルドへの登録も済まさないと⋯⋯。
ハルはやるべき事を整理しつつ、手を動かす。
「アウロ! 手伝ってくれない!」
「喜んで!!」
鼻息の荒いアウロが飛び込んで来ると、ハルは思わず引いてしまう。想像はしていたが、その上を行くテンションの高さを見せるアウロ。その姿を見やり、逆に冷静になってしまう。
「少し落ち着い⋯⋯」
「こ、これが落ち着けますか?! アックスピークですよ! 幻ですよ! 今、目の前ですよ! 尊い⋯⋯尊過ぎる⋯⋯ありがとうございます。こんな間近で見る事が出来るなんて⋯⋯ああ⋯⋯ダメだ⋯⋯勝手に涙が⋯⋯」
「落ち着け!!」
「はっ! すいません。興奮し過ぎました」
まったくと嘆息しつつも、じつはまんざらでもなかった。
昔、西の
取り急ぎアウロとふたりで、文献を漁っていく。
「中庭が一番良さそうね」
「そうですね。洞穴に変わるスペースと、断崖を人工的に作成出来れば大丈夫そうです。中庭なら横はぼちぼちですが、縦は充分な
「お願いね。力仕事は手伝うから声掛けて。あと、必要な資材も買い出し行ってくるので書き出して頂戴」
「分かりました。すぐに取り掛かります」
「あ、そうだ。ギルドへの登録をエレナにお願いしようかと思っているんだけど、どこ?」
「ああ⋯⋯それが⋯⋯ここ三日程休んでいるんですよ。休む前まではいつも通りだったのですけどね。風邪でもひいたんじゃないかと、みんな心配しているんですよ。もうすぐ成人の誕生日だと言うのに⋯⋯可哀そうに。誰も家を知らないから確認も出来ず、って感じです」
「それはちょっと心配ね。エレナの誕生日っていつ?」
「明後日かな? ご飯食べながら、もうすぐ成人みたいな話をしていたので」
「明日来なかったら、私、ちょっと行ってくるわ。あそこの父親は何か信用出来ないからね」
「お願いします。そうして貰えるとみんな安心ですよ」
少しばかりモヤモヤとした心持ちのまま、アックスピークの居住区の作成に入っていく。
大した事なければいいのだけど⋯⋯。せっかくの誕生日に、ひとり寂しくというのはちょっと可哀そうよね。
でも、何故か心がざわつく。直感的な何か。
気のせいならいいのだけど。
ハルは、手を動かしながら晴れない気持ちを押し殺していた。
「エレナ来た?」
「いえ、今日も見てないです。こうなるとちょっと心配ですね」
翌朝、一番でエレナの姿を探す。誰よりも朝の早いエレナ。だが、その姿はやはり見当たらなかった。ジワリと迫る、イヤな感じが拭えない。
モモの表情も晴れず、複雑な表情を見せた。
さすがに四日、音沙汰なしというのは心配するなと言う方が無理だ。
「ちょっと出て来る。あと宜しく」
「ハルさん、お願いしますね」
モモの懇願に、軽く頷き店を後にした。
もしかして、あいつの所にいたりするのかな? それはないか⋯⋯でも、念の為⋯⋯。
ハルは街外れの鍛冶屋を目指し、駆け出して行った。
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