第55話 大胆は代名詞ですけど⋯⋯ねえ
「みんな苦戦しているけど
「いや、そんな事ないよ。牧羊犬としてオルンでは超メジャー」
「え? じゃあ、何でこんなにみんな苦戦しているの?」
「あ! そこね。牧羊犬として飼っているから、ペットとして出回る事が滅多にないんだよ。めちゃくちゃ優秀な牧羊犬を、わざわざ手放す人はいないからね。ペットとして出回ると相当な高値で取引されるうえに、
「また、アウロさん!? フィリシアは見た事あるんだよね」
フィリシアは暑そうにしているオルンドールを撫でながら、少し自信なさげに答えてくれました。
「うん。でも、二回だけ。カミオさんの所で一回、ハルさんの所で一回」
「今日でたった三回⋯⋯凄いのを課題に出して来たね」
「性格悪いんだよ。あそこの三人」
フィリシアは顔をしかめながら、広場の特等席に設けられた審査員席を顎で指しました。
三人ともギルドの方です。
ハモンさんはかなり派手な女性です。年齢もそれなりにいっていそうですが、真っ赤に染め上げた背中まで届く長い髪と派手なメイク。ここぞとばかりに散りばめた装飾品で身を包み、弱冠の年齢不詳感がありますね。にこやかに微笑んでいらっしゃいますが、フィリシアの言葉のあとだと、何だか不敵な笑みにも見えてしまいますよ。
「よし! もういいかな。エレナ、ハサミと櫛の水気を良く拭いておいて」
「はい!」
フィリシアが勢い良く
「「「砂時計の残りが、半分を切った! ヤヤが
ええ! いつの間に!!
人の数に物言わせて、一気に毛を絞り上げたみたいですね。
ヤヤさんのハサミに合わせて、毛がどんどんと下に落ちて行っています。凄い勢いで刈り上がっていますよ。
カミオさんはカミオさんで、凄い勢いで絞り上げています。何かこう力強さが凄いです。毛から流れ落ちる水の量が尋常じゃないですよ。
他の人達はどうでしょう?
苦戦していますね。未だに
あ、カミオさんも
「ふふん♪ ふ~ふん♪」
また、鼻歌まじりです。他人事ながら心配になってしまいます。大丈夫でしょうか?
と言っている間もフィリシアのハサミは動いていませんでした。
いろいろな角度から作業台のオルンドールを覗き込んでいます。
フィリシアの瞳は爛々と輝き、口元は少し笑っているようにも見えます。
「「「おーっと! ここで【オルファステイム】のヤヤが
本当にどうしたの? フィリシア?!
声を掛けようかどうしようか、凄く迷います。もう喉のここまで声は出掛かっているのですが、『まぁ、見てなって』と言ったフィリシアの不敵な口元を思い出し、言葉を飲み込みました。
「「「さぁ、ヤヤは
もう、向こうは終盤も終盤、仕上げに入りました。ど、ど、ど、どうするの?
声に出す訳にもいかず、私の視線は泳ぎっぱなしです。
鼻歌まじりのカミオさんを筆頭に、ほとんどの人が
見切りでハサミを入れちゃっている方も結構いらっしゃいますが⋯⋯そういう時間って事ですよね。
「さてと」
フィリシアは顔上げ、辺りを見渡しました。【オルファステイム】の様子を見ると、いやらしく口端を上げて見せました。
「ハハ、やっちゃったね」
体を大きく伸ばし、ゆったりとした動きでハサミを二度、三度、カシュカシュと動かして見せるとバサっと大きく大胆にカットしていきます。切り取れた髪の束が、ボサっと下に落ちて行く様に私は思わず、目を見張ってしまいました。パラパラと落ちて行く他の方々と随分と様子が違うのですが、大胆過ぎませんか?
他の方々を見る限り、様子を見ながら少しずつ刈って行くのが
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