第54話 滑り出しからの困惑は全くの想定外です
「「「これは一体どういう事だ!?
司会者さんの言葉に会場がどよめきました。
私も一緒に驚きましたが、
私が水場からバケツを持って帰ると、フィリシアの仔だけが泡だらけになっていました。アイボリーのもふもふな姿が、真っ白なふわふわの泡まみれな姿を見せていて、白い泡から赤い舌がちょろりと見え隠れしていました。
他の作業台ではほとんどの方が、私と同じように
カミオさんと【オルファステイム】のヤヤさんだけが、
「んもう!」
カミオさん、ふくれっ面で
【オルファステイム】をチラリと覗くと息子のデルクスさんがジッとフィリシアを見つめ、何か考えていますね。
序盤だけでこの感じ、この課題は一筋縄ではいかないと見て良さそうです。
「エレナ、控室に大型用の
「はい!」
「「「おーっとここで! カミオとヤヤのふたり! ふたりのオルンドールが洗髪に入った! 前を行く
泡立つふたりを余所に、フィリシアは洗い流しに入ります。水を掛けても、掛けても、掛けた先から吸収していきますが、フィリシアはそんな事お構いなしです。毛の根元から絞り出すように絞り上げていきました。毛先からは水が滴り落ち、机上を濡らしていきます。この仔の毛は一体どうなっているの??
私の困惑は置いておいて、フィリシアが頭ひとつリードをキープです。このまま行けば大丈夫。そういえばこの仔、ブルブルと水を弾く仕草をしませんね? 濡れている体は気持ち悪くないのでしょうか?
「ふふ~ん♪ ふふん♪」
カミオさん鼻歌まじりに洗髪していますよ、余裕? ですかね?
【オルファステイム】では、デルクスさんが顎に手を置き、何やら指示を出しています。デルクスさんが合図を出すと、一斉に水気を絞り出し始めました。ヤヤさんのオルンドールが凄い勢いで絞られ、一気に毛が乾いていきます。
このままだと、追いつかれちゃいますよ。私もフィリシアを手伝わないと。
「エレナ、持って来た? こっちに頂戴」
「え! もう乾かすの?」
「フフフ、まぁ見てなって」
目の前の
布の隙間から覗く顔は、舌を出してハッハッハッと少し暑そうですね。
その様子にフィリシアはご満悦の様子を見せています。焦る私を余所に、手を止めてその様子を見入っていました。
「拭かなくていいの??」
「この仔の特殊な毛は、水分を溜めておく為の物なの。暑くなると、その水分を蒸発させて皮膚の表面の熱を下げるんだって」
「? 蒸発? させると何で熱が下がるの?」
「⋯⋯アウロさんから聞いた話だから、今度アウロさんに説明して貰って」
「フィリシア、知らないの?」
「いいのよ! 今は。それで今、この仔はじわじわと暑くなっているから⋯⋯」
「あ、溜めていた毛の水分を蒸発させている!」
「そういう事!」
暑くなればこの仔は自分で乾かすって事ですか。何とも、いろいろと不思議な仔ですよ。
ただ、周りの動きを見ると、みんなこの事については知らないのか、気が付いていないのか、必死に絞り上げているだけです。
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