第3話 ハレ・クリシュナ

 私は、なんとかして彼女を抱きたかった。そこで、彼女に単刀直入に「今度は、体中をもみもみしたいな」とメールした。すると、「あなたみたいな変態とは、はっきり言ってもう二度と会話もしたくありません。動物愛護のデモで会っても最小限の挨拶程度です」といったメールが送られてきた。私は、その旨を先輩に話したら「それは、ちと先走りしましたな」と言われた。


 体中をもみもみしたい、こういうメールを何の躊躇ためらいいもなく送らせてしまうのが躁なのである。もっとも、躁のエピソードは、こんな笑えるものだけではなく、実に恐ろしいものもある。それは、自殺である。躁になって元気になって楽しくなって自殺するのか?なんでや?と思われる読者が多いと思われるが、違うのだ。うつの時に自殺を考え、躁になり勢いがついて実行してしまうのである。


 ところで、彼女にはメールでは拒否されたが、電車の中で彼女には、ハレ・クリシュナのイスコンの会が日曜日に市民会館の一室であるから来てみて、私も行くからと言われていたので行ってみた。行くと集まっていた信者はほぼ女性だけで、音楽が流れていてみんな輪になって花びらを舞い散らせて時計方向に速足で回っていた。そして、彼女たちは顔を紅潮させ、忘我の彼方と言った面持ちで「ワーッ」っと叫んでいた。


 アカン、これはアカンでえ。入って行かれへん。一体、何がおもしろいねん。まあ、俺は宗教には、本当に縁がないなと思った。私は、音楽だ。爆発的に高揚できる。その後、ヴィーガン・カレーライスを頂いた。これは、うまかった。今、宗教には縁がないと書いたが、ただ、ビートルズのジョージ・ハリスンがイスコンの熱心な信者だったことも興味深い。なぜなら、私はジョージの大ファンだからである。もう一度イスコンについては、調べたい気持はある。


 昼食に出されたヴィーガン・カレーを食べているときに彼女が来た。それで私が、「よっ!」と声をかけると、「あ、ああ、ああー」と彼女は答えた。その後、ハレ・クリシュナのマントラの唱和が始まった。それがなんと一時間もあり、よくあんなに歌えるなと感心したものだ。それでお開きになったわけだが、私が会を主宰していた男性と話していると、彼女が私のところに来て何か話かけようとしていたのだが、私はそれを無視した。すると、数分して彼女は消えてしまった。それが、私の見た彼女の最後である。


 ヴィーガンが体に良いか悪いかと言う議論がある。これがなかなか難しく、私の意見は、できる人とできない人がいるというと思う。できる人、これは例えば、イスコンの人たちがそうなのではないか。彼らは菜食主義で生きている。世の中には、ヴィーガンという人たちがいて健康的に生活している。


 ただ、私は、この躁のときにヴィーガンを数か月実践してみて調子を崩し、病院で血液検査をしてもらったところ、なんと筋肉が溶けておりこのまま行くと腎不全になるから、肉を食うのが嫌なら魚を食べてと言われている。私は、残念ながらできない人なのである。


 しかし、魚以外はなるべく食べないようにしている。付き合いはどうしているのかだが、すべて断っている。今付き合いがあるのは、一人だけ。彼は肉を食うが、彼とメシを食いに行くときは、阪大石橋駅の大通りにあるインド・レストランで、ヴィーガン・カレーライスを食う。ま、寿司とタイ料理も食いに行くが。タイレストランがどういうわけか不思議と一番落ち着く。相性が良いのだろう。


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