いらない贈り物 終
翌日。事件を解決するまでに至った経緯を説明するため、再びあの雑居ビルまで来ていた。今回は赤城姉妹揃っての訪問になる。
マリーさんは杏子ちゃんとの挨拶もそこそこに、「かわいー!」と笑顔で歓迎した。杏子ちゃんのことを甚く気に入ったらしく、お菓子やジュースなどを出して、甘やかしのかぎりを尽くしていた。
最初は緊張していた様子の杏子ちゃんだったが、マリーさんのフランクさに影響されてか、すぐに馴染んだみたいだった。
リビング部分のソファに、典子さん、杏子ちゃん、マリーさんの順に並んで座る。俺はといえば、ローテーブルを挟んだ座布団の上に正座していた。ベクトルの違う美形の3人が並んで座っている光景は、つい見惚れてしまいそうなほどだった。雑誌の表紙みたい。
杏子ちゃんにはあの箱がなんだったのか、佐渡島が何をしようとしたのかをあらかじめ説明していた。少しショックを受けた様子だったが、立ち直りは早かった。
「それで、克実は黒澤に何を吹き込まれたんだ?」
ソファの肘掛けに寄りかかったマリーさんが問う。その訊き方でこの並びだと、まるで俺が尋問されてるみたいじゃないか。
「吹き込まれたというか、メールで簡単な呪詛返しの方法を説明されただけなんだよ。俺の見る限り佐渡島は、本当に呪いが掛かると信じ込んでいるように見えた。そこで俺は先生が言った指示通りのことをしたんだ。彼女の前で『呪詛返しをする!』って宣言することと、目の前で箱を壊してそれっぽいことを言うこと」
そう言うと、マリーさんは「あー」と何か理解した様子だった。
「黒澤が好きそうなやり方だ」
「俺たちはこの呪いが不完全なもので、不発に終わることをあらかじめ理解した。方や佐渡島はそれを本物だと信じ込んでいる。そうなると俺たちに分があることは明白だ。中身のない、いい加減な呪いに関しての理屈を言い放って、効かない呪いを効くようにしたんだ」
俺の説明が下手くそなせいか、姉妹は首を傾げた。
「私たちの使う『言葉』ってね、実は一番古い呪いなんだ。『言霊』って言葉があるように、単語ひとつひとつが強い力を持つ。暴言や悪口なんて最たる例だよ。本心で思っていなくても、言われた相手はひどく傷つく。心を傷付けられるんだ。今回の場合、呪いを信じ込んでいる女に克実は『呪詛返しをした』という言葉で呪いを掛けた。言っただろ? 呪いは信じたやつにだけ作用するって。これからしばらく、あの女は些細な災難や不幸ですら『返された呪いのせい』と思うことになるだろうね」
マリーさんの説明を聞いて、2人は理解したらしい。さすが先生と長年過ごしていることはある。説明がわかりやすい。
「とりあえず、一件落着ってことで。杏子ちゃん、これからは安心して学校に行きなね」
「はい!」
杏子ちゃんは眩しいほどの満面の笑みで返事をした。その光景を、両側のお姉さんたちが嬉しそうにみていた。
「そうだ、今日はみんなにケーキを買ってきたの! 食べよ!」
赤城さんがパチン、と手を合わせてそう言った。
「食べよ食べよ!」マリーさんたちはウキウキと支度を始めた。
俺はその光景を背に、彼女たちに伝えなかったことを先生にメールした。
佐渡島は、呪詛返しをされた際に「そんなこと言われなかった!」と言った。つまり、彼女はこの呪法を誰かに教えられたのではないだろうか。呪いを授け、騒動を起こした元凶となる人間がいる可能性が高い。
ざらいた一抹の不安が残ったけど、とりあえず今だけは胸底の奧に仕舞い込もう。
楽しそうに盛り上がる彼女たちを見て、俺はそう思った。
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