第2話 赤頭 5


 翌日。「昨日の件についての説明がある」と先生に言われ、再び大学に出掛けた。 

 少し出発の時間が遅れたので、家からの道のりは立ち漕ぎだ。近頃は平均気温が馬鹿みたいに高いから、自転車で家と大学を往復するだけでもかなり辛い。ましてや昨日の疲労も取れていないから余計にだ。

 蝉時雨を浴びて鼓膜が死にそう。日差しも肌に突き刺さる。暑いというか、痛い。

 駐輪場に入り、日陰になっているところに停める。気づけばTシャツの下は水を被ったかのように濡れていた。今になってタオルを忘れたことに気づく。

「あ! 克実君じゃない!?」

 出し抜けに聞き覚えのある声が俺を呼んだ。声の主を見つける。

 そこには手に小さな紙袋を持った、白いワンピース姿の見覚えのある女性が立っていた。こちらに向かって手を振っている。

「ああ、赤城さんじゃないですか。お久しぶりです」

 よくよく見ると先日のアライグマの件で知り合った赤城典子さんだ。今日はポニーテールではなく、その少し長い髪を下ろしていたので、赤城さんと分かるのに少しの間が生まれた。今日はなんだかゆるふわっとした印象で、この間の凛とした印象とのギャップが強い。

 彼女はやや駆け足気味にこちらに向かってきた。ワンピースの眩しい裾がふわりと翻る。

「こんにちは! ちょうどよかった! これから黒澤先生のところにこの前のお礼を言いに行こうと思っていたの。あれから物音はしなくなって、ぐっすり眠れるようになったわ!」

「それは良かったです」

 とても嬉しそうに赤城さんが言った。その表情に何だか俺まで嬉しくなる。徳を積んだ気分だ。

「克実くんは? キャンパスの見学?」

「いえ……俺は先生から呼ばれたので」

「そうなの? それなら丁度いいわね! 一緒に先生のところに行きましょ!」

 その誘いを断る理由は当然無く、俺と赤城さんは肩を並べて先生のいる『資料室』へと向かった。

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