第2話 赤頭 4

「おかえり!」

 月岡さんが手を振りながらいい笑顔で迎えてくれた。

「じゃあ戻ってきて早々だけど計測開始」

 先生は早速俺に測定器を手渡した。それを受け取り、息を整えて思いっきり握る。

 すると測定器の針は一気にメモリの端を振り切った。

「は?」

 月岡さんは目を丸くしてその様子を見ていた。先生は「計測不可」と手元のボードに書いた。

 続いて立ち幅跳び。砂場の縁に立ち、さっきのように両腕を大きく振って勢いよく跳ぶ。すると俺の体は地面から高く宙に浮き上がり、砂場に着地した。

「5m!?世界記録超えたじゃないか!!!」 

 月岡さんは自分の目を疑うように目を擦る。しかし、砂場に残された足跡ははっきりと5mの数字の横に残っている。

「次は砲丸投げだけど、多分軽すぎてかなり飛ぶと思うから」

 そういって先生が取り出したのは巻尺100mのメジャーだった。

 砲丸を持つと、先ほどよりも随分軽いように感じた。実感としてはソフトボールほどの軽さぐらい。

 野球投げは危険だと月岡さんに言われたが、俺はそのまま芝生の方に向かって砲丸を投げた。

 放たれた砲丸は高く放物線を描き、芝生の真ん中あたりに落ちた。

 先生がメジャーを引き、「50m!」と叫んだ。その様子に月岡さんは絶句していて、ただただ有り得ないものを見るような表情を浮かべている。

「ソフトボール投げじゃないんだぞ」

 月岡さんが呟いたのが聞こえた。

「じゃあ今日の測定は終了。月岡君、手伝いありがとうね」

「ち、ちょっと待ってくださいよ!説明してくださいよ!こんな……スポーツ初心者が世界記録、いやそれどころじゃない!多分人類史上初記録ですよ!そんなの出せるわけないでしょう!?」

 月岡さんはひどく興奮した様子で先生に捲し立てる。普通はこういう反応だろう。驚かないのは先生くらいだ。そっちがおかしい。

「まあその話は後日詳しく話してあげる。克実君、お疲れ様。今日はもう上がっていいよ」

 先生はそういって片付けを始めた。

 俺は納得しない表情の月岡さんに

「ありがとうございました。お疲れ様でした」と声を掛けて競技場を後にした。

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