第46話 世界統一

イシュタルーナの思惑はまたも当たった。

 世界の統一である。


「永遠の平和が実現した」

 太陽の剣は〝青銅〟となる。その神威はすべての大陸と海とに漲った。美しさも細工の巧みも、人工の領域を遙かに超える。


 人の位階も変わった。

 イシュタルーナは世俗を遙かに超えて巫女真人となり、神将ラフポワは聖天帝皇として、北大陸全土を統治する、世界最大の権力者となった。

「嫌だよ、イシュタルーナ。僕にはできない。できる訳がないよ。

 お願いだよ、一緒にアヌグイに還らせておくれ」

 彼はモンタの村に帰りたいとは言わなかった。

「偉大な者は鳩の足音で来ると、かつての賢者が言った。おまえはまさにそれだ、ラフポワ。なみの権力者なら、帝国も支配できる。だが、超大国を含む大陸全土を統治できるのは、おまえしかいない」


 神臣ロネも聖天帝皇として、統治の難しい西大陸すべてを。

 神兵軍団長ファルコは聖天帝皇として南大陸。

 黄金の聖者五人は聖天帝として東大陸を五聖天帝統治する。

 銀の二十五人はラフポワの配下として、ラフポワを補佐し、かつ皇帝として北大陸のシルヴィエ以外の諸国(西南部の諸国)を五地域に分けて帝国統治した。


 さて、神彝啊呬厨御の降臨後に、いゐりゃぬ国に属した者たちのうち、世界各国の庶民は〝粒〟の位階となり、中流は〝素〟の位階へ、王侯貴族や豪族、大商人らは〝空〟となる。


 これに伴い、〝青銅〟の位階が大枢機卿。〝銅〟が枢機卿。〝鉄〟は王。〝石〟は大将軍。〝木〟が将軍。〝土〟が聖闘士。〝水〟は将。〝粒〟は騎士。〝素〟が兵で、〝空〟が奴隷であった。


 世界で最も人口が多いのが騎士階級、〝粒〟の位階ということになる。彼らのほとんどは勤勉な半農半士として生きた。


 イシュタルーナが高らかに言う、

「ここに世界統一憲法を発布する。

 もはや、国の名称は要らない。異他はない。されば、違逆も異叛もない。諍いは絶滅した。

 平和よ。あゝ、身体生命が損なわれぬこと、それこそが尊い、空想ではない、観念でも概念でもない、現実の、実在の愛である。それこそが実在の肯定である。あゝ、生命を謳歌せよ。今は。

 潮のように左右上下縦横に無辺なる静寂、その横溢、もはや死すとも厭わぬあふれる充足、葛藤のない永劫の心の安らぎ、永遠の勝利のように未来が疑いようもなく、絶対永久に、永遠不変に健やかなまま無事であり続けられること、心も体も平安であること。それらは神聖である。

 生命を謳え、大いに祝え、偉大なる祭典の日ぞ、大いなる、龍のごとき肯定、遺漏なき全網羅。完璧な、完全なる完成に至る。

 今、一切衆生は一切衆生の真の夢に、真の希いに達す。真の未来に。何も望まない。

 もはや、生存に戻ることはない」


 天の皇帝神彝啊呬厨御の降り給うたヒムロを世界の聖首都と定めた。

「ィイエイ、イェエイサァー」

 歓呼。

 

 統治は速やかに移行された。神が直轄するのである。急々に律令のごとくに行われないことなどあり得なかった。世界統一の憲法に遵う各大陸の君主による封建的な中央集権体制はすぐに整う。

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